アルフレッド大王のサマセット低地

Burrow Mump
グラストンベリー修道院で、実存した可能性の低い、伝説のアーサー王の墓のあった場所を眺めた後、今度は、サマセット・レベルズ(Somerset Levels、サマセット低地)の只中で、間違いなく実在したアルフレッド大王ゆかりの地を訪ねました。

9世紀後半、現イングランド南西部、ウェセックスの王であったアルフレッド大王(King Alfred the Great)は、イギリスの歴史上、ただ1人、「大王 The Great」の名で呼ばれる人。イングランドにいくつかあったサクソン王国が次々とデーン人(バイキング)の襲撃に破れ、その支配下に落ちる中、ただ1つ踏みとどまったのが、アルフレッドのウェセックス王国。アルフレッドは、デーン人に追われながら、サマセット低地の沼の間に身を潜め、軍を集め整え、878年、エディトンの戦いにて、グスルムに率いられるデーン人の軍を破り、後、グスルムとの平和協定でイングランド北部をデーン人の統制に任せ(デーン・ロー)、南部イングランドを自分の統制下に置き、現イングランドの礎を築くわけです。(アルフレッドとデーン人の戦い、ひいては、ケーキを焦がした伝説について詳しくは、過去の記事まで。こちら。)

このサマセット低地の真ん中に、ぽこんと飛び出す丘は、バロー・マンプ(Burrow Mump)。Burrow も、Mumpも、共に「丘」を意味する言葉なのだそうで、「丘丘」という事になります。ウィルトシャー州のシルベリー・ヒルにも似た感じなので、人工かと思いきや、自然の丘なのだそうです。高さは、24メートルと低いのですが、なにせ、あたりが低地であるため、見晴らしは利きます。

その昔、アルフレッド大王も、この丘に登って、周辺の様子を監視したりもしたのでしょうか。

灌漑が行われる前は、一帯は水面下と化すことは多かったので、当時の風景は、もっと緑より、水色が多かったかもしれませんが。現在でも、洪水被害が、時に取りざたされる場所でもありますし。

サマセット・レベルズは、また、大昔から、柳と、柳編みのバスケットの産地としても知られています。

バロー・マンプの頂上に立つのは、中世に建てられたセント・マイケル教会の廃墟。

イギリス内戦(清教徒戦争)の際には、チャールズ1世に中世を誓う王党派が隠れ家として使用。その後の1685年、兄チャールズ2世のあとを継いで王となった、ジェームズ2世に対して、チャールズ2世の私生児モンマス公(Duke of Monmouth)が王座を主張して起こしたモンマスの反乱の際に、再び、王の軍が占拠した場所です。この近くの、セッジムーアでは、モンマスの反乱の最後の戦い、セッジムーアの戦い(Battle of Sedgemoor)が繰り広げられていますから。

余談になりますが、陽気な王様の異名を取るチャールズ2世は、奥さんのキャサリン女王との間には子供ができず、正式な世継ぎは残さなかったのに、私生児だけは、ごちゃまんといたのですよね・・・。現首相デイヴィッド・キャメロン夫人である、サマンサ・キャメロンも、ご先祖様は、チャールズ2世が、女優であった愛人、ネル・グウィンに生ませた人物に行き当たるといいますし。

ただ見れば、何の変哲もない低地帯。歴史を知ると、ずっと面白く、生き生きと見えてくるものです。

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St Andrew's Chrch, Aller
さて、エディトンの戦いで勝利を収めた後、アルフレッド大王は、デーン人の親分グスルムをキリスト教に改宗させるのですが、その式典が執り行われたのは、バロー・マンプから程遠からぬ、アラー(Aller)ではないかと言われています。その根拠とされる物が、アラーのセント・アンドリュー教会内にあります。

Guthrum Font
キリスト教の洗礼の際に使用される聖水盤を英語でフォント(font)と呼びますが、この教会内に在る石灰岩でできた聖水盤は、グスルム・フォント(Guthrum Fontd)と称され、グスルムがキリスト教に改宗するための洗礼に使用されたのではないか、という、いわくつきの代物です。国内で、3つだけ残るサクソン時代に遡る聖水盤のひとつで、1870年に、牧師館の庭の池で発見されたもの。グスルムは、洗礼後、キリスト教徒にふさわしく、アセルスタン(Athelstan)と改名。

現教会自体は、12、3世紀に建てられているので、当然、グスルムの洗礼は、この教会の内部で行われたわけではないですが、この辺りであった、という可能性は高いようです。

教会内には、アルフレッド大王を記念する、綺麗なステンドグラスもありました。

教会の内部も外も、とても静かで、私たち以外は、教会の前に白ワゴン車をとめた地元の労働者風の人が、中でコーヒーブレークを取っているのを目にしただけでした。こういう、変わったものが見れる、静かで、マイナーな観光地、大好きです。

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