グラストンベリー・トーから望むアヴァロンに落ちる夕陽

「さて、私は、今、どこにいるでしょう?」上の写真を、イギリス人に送って、そう質問すると、丘の斜面に落ちているシルエットだけで、「グラストンベリー・トー(Glastonbury Tor)!」と正解を出せる人は、結構いると思います。実際に行った事がなくても。

サマセット州ウェルズから、南へ行くこと約10キロ。グラストンベリー(Glastonbury)は、今は、夏の一大野外ロック・コンサートで知られる他は、伝説のアーサー王のアヴァロン(Avalon)であるとか、マリア様の親戚であったアリマタヤのヨセフ(Joseph of Arimathea)がやって来たことがある場所であるとか、最後の晩餐と、十字架にかかったキリストの血を受けるのに使用されたとされる聖杯(Holy Grail)が隠されている場所、それどころか、若き日のキリスト自身が訪れたことが在る土地であるとか、UFOが降りてきたことがあるなど、過去から現在に至るまで、ミステリアスな伝説と超自然のイメージがからみついている土地です。

グラストンベリーの町の中心部から歩いてすぐの、グラストンベリー・トー(グラストンベリーの丘)。高さ158メートルの円錐形の丘の上に、14世紀の教会の塔(St Michael's tower)の残骸が立っている姿は、周辺を平坦な湿地帯サマセット・レベルズ(サマセット低地)に囲まれているため、遠くからも、すぐそれとわかり、非常に印象深いものです。灌漑が発展する以前は、サマセット・レベルズが水浸しとなる事はしょっちゅうであったわけで、丘というより島の風体を示すこともあったでしょうから、昔の人たちが、グラストンベリー・トーを、アーサー王のアヴァロン島である、と見たのもわかるところがあります。

グラストンベリーで泊まった宿は、この丘のすぐふもとにあり、宿の庭の裏から、直接、この丘に登る道に出ることができました。そこで、グラストンベリーの町へ夕食に出る前に、夕日を眺めに、この丘の頂上へ登ることとしました。

グラストンベリー・トーは、また1539年には、悲惨な処刑が行われたことでも知られています。ヘンリー8世の右腕、トマス・クロムウェルによって強行された修道院の解散。小規模の修道院を全て解散させた後、残る大型の修道院を次々と閉鎖していくわけで、サマセットに残る唯一の修道院となったグラストンベリー修道院もそのひとつ。イギリス各地で修道院の院内の腐敗、坊さんたちの貪欲などが蔓延していたにもかかわらず、グラストンベリーは比較的統制規律がしっかりした模範的修道院であったというのですが。

修道院解散において、抵抗をする修道院はほとんど無かったのですが、グラストンベリーの修道院長であったリチャード・ワイティング(Richard Whiting)は例外。ローマ法王に忠誠を誓い、修道院の鍵の受け渡しを拒否した彼は、まずはロンドン塔に放り込まれ、のちに再びグラストンベリーへ連れ戻され、グラストンベリー・トーの頂上で、他の2人の修道僧と共に、「hanged, drawn and quartered」の極刑(死なない程度に絞首されたのちに、生きている間に内臓を引き出され、のちに首をはねられ、体を4つに切られる)となります。高齢で、病気がちであったというワイティング修道長ですが、処刑をじっと耐えたと言われています。下手に良心とモラルが強かったばかりに、こんな事になって、本当に気の毒。彼の首は、見せしめのため、グラストンベリー修道院の門にさらされ、4つに切られた体はそれぞれ、ウェルズ、バースなどのサマセットの4つの町にさらされたそうです。

丘の上にあったセント・マイケル教会も、修道院解散と共に破壊され、現在残るのは、ごらんの通り、塔の残骸のみ。

丘を登って夕日を見に来た人たちの中には、私たちの様な、平凡な観光客に混じって、ヒッピー風、またニューエイジ風の人たちがかなりいました。こういうミステリアスな噂の流れる場所には、この手の人たち、心引かれるものがあるようです。ストーンヘンジなどもそうですが。頂上で、ヨガのポーズをとって「むーーーーーん」などと唸っている人がいると思えば、中世っぽいメロディーの歌を歌っている人もいる。インドのサリーの様な衣装を着て何かを唱えている人がいる。また、フラフープのような輪をころがしながら丘の斜面を登ってきた人もいました・・・あの輪は何の意味があったのか?ちょっと、こうしたピープル・ウォッチングも楽しめました。

丘の斜面にも頂上付近にも、そういった多種多様の人にまぎれて多くの羊たち。草を食べてはあたりを見回し。食べてはあたりを見回し。

いよいよ日暮れ直前には、少々混んでいる頂上から、半分丘を下って、西側斜面の草の上に座り、残照がサマセット・レベルズの上の地平線を赤く染めていく光景を楽しみました。

アヴァロンの真っ赤な夕焼け・・・明日も天気だ!

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