ダンスターの紫に覆われた山と流れ行く川

丘の上にそそり立つダンスター城が見下ろす、サマセット州ダンスター(Dunster)は、可愛らしい、中世の名残を残す村。北はウェールズを望むブリストル海峡、南はエクスムーアとあって、ロケーションも抜群。村を流れるのはアヴィル川(River Avill)。

だんなは、子供の頃、叔父さんとここを訪れて、ダンスターから、エクスムーアへと行く途中のアヴィル川の流れる周辺の谷が、今まで見た中で一番美しい谷・・・と感じたなどと言います。

イギリスの教会でよく歌われる、人気の賛美歌のひとつに、「All things bright and beautiful」(全ての輝ける美しきもの)があります。近所の人のお葬式でも、2回歌ったことがありますが、この世に存在するすばらしいものは、全て神様がお作りになった・・・という内容のもの。(この賛美歌の歌詞と訳は、以前の記事を参照下さい。こちら。)

これは作詞家のアレクサンダー夫人(Cecil Frances Alexander)が、ダンスターでインスピレーションを受けて書いた・・・と言う話があります。歌詞の一部に

The purple headed mountain
The river running by
紫に覆われた山
流れ行く川

というくだりがあります。「紫に覆われた山」なんてどんな山じゃいな、と思うのですが、ダンスターの背後に聳えるエクスムーアのヘザーが、夏に紫の花を咲かせる様子かもしれません。

ナショナル・トラストに管理されているダンスター城見学のため、城用の駐車場に車をとめ、受付に行くと、受付のお姉さん、地図を指差しながら、「ダンスター城内は、あと30分経たないと開かないので、先に、川沿いに歩いて、水車を見てくるといいですよ。」

植物に覆われた川のほとりをしばらく歩くと、ありました、18世紀に建設されたと言う水車。

Dunster Watermill
水車を眺めていると、調度、金属部分にオイルをさして手入れしていたおじさんが、「ちょっと待ってれば、これから動かすよ。」起動しているところを見ることが出来ました。今でも小麦を轢いており、内部のショップで、ダンスター・ウォーターミルで轢いた小麦を売っています。余興に一袋購入。

こうして水車小屋経由で、城のある丘のふもとを、ぐるっと回る散歩コースを通って、まずは、ダンスター城のウォール・ガーデンから見学を始めました。ここも、受付のお姉さんが、「このウォール・ガーデンの花は今、盛りできれいだから、見逃さないでね。」と教えてくれたので。

コスモスとダリアが一斉に咲いていました。


「All things bright and beautiful」からの

Each little flower that opens
Each little bird that sings
He made their glowing colours
He made their tiny wings
開く小さな花ひとつひとつ
歌う小さな鳥一羽一羽
神はその美しき色を作り
神はその小さな翼を作り

という部分も頭をよぎります。

Dunster Castle
さて、丘を登って、城の内部に入ります。やはり、「All things bright and beautiful」からの

The rich man in his castle
The poor man at his gate
裕福な者は城の中
貧しきものは門の前

という部分の、城も、このダンスター城ですかね。ちなみに、この部分は、まるで、神様が階級社会を作ったように聞こえるため、今では、はずされて、歌われることはありません。

サクソン時代から、この丘に城(砦)があったそうですが、石の城が築かれたのは、やはりノルマン時代に入った、1089年。14世紀後半に、ラトレル(Luttrell)家の手に渡り、1976年に、ナショナル・トラストに寄与されるまで、同家の所有。イギリス内戦時代は、ダンスター城は、イギリス南西部最後の王党派の砦のひとつとして160日立て篭もり、がんばったそうですが、内戦後は、城壁などは、大幅に取り壊され、砦としての機能は果たさなくなったようです。1860年代に、大幅な修築、改築されて現在の姿となり、内部は、「城」というよりは、「貴族の館」。

ナショナル・トラスト管理の建物内部には、往々にして、ボランティアの案内係の人が立っていて、質問すると、一生懸命答えてくれます。ダンスター城内部の最後に入った部屋の案内係の男性は、引退するには、まだ比較的若い感じの人だったので、色々と、城の持ち主だった家族の話をした後、だんなが、「引退前は何をやっていたの?」と、いきなり個人的質問。すると、なんとVIPのボディーガードだったのです。王室関係を含め、わりと名の知れた要人の護衛もやったようですが、「たとえば誰?」と聞いても、「それは、言えない。」「すごいな、ケビン・コスナーみたい。」と私が言うと、ちょっと、もじもじしていました。そう言えば、顔もケビン・コスナー的、清潔感溢れる美男子でした。秘密厳守で、頭が良く、ハンサム・・・ボディーガードでも、要人の護衛となると、こういう人が選ばれるんですね。後で、軽薄に、「あいつは、こーだった、あーだった。」と、ネタを売ったり、暴露本を書くようなタイプは避けたいところでしょうし。健康体で、反射神経なども要求されるでしょうから、比較的早く、引退となるのかもしれません。彼は、歴史が好きだからと、今は、こういうところで、ボランティアをしているわけです。内部で見たものよりも、この人の事の方を良く覚えている・・・。貴族の館と言うのも、あまり数多く見て歩くと、似たような物が沢山あるため、よほど、印象に残るか、超有名な物にお目見えしない限り、どこで、何を見たか、ごっちゃになってしまいがちです。

West Somerset Railway
館の窓から、海岸線とその脇を走るウェスト・サマセット鉄道を、蒸気機関車が走っているのが見えました。一部、土壌がとても赤いのも目に付きました。

南向きのテラス・ガーデンには、トロピカルな感じの棕櫚の木なども植えられています。

城から、反対側の丘の上には、18世紀に作られたと言われる塔のようなもの。これは、一般に、フォリー(folly)と呼ばれる、実用的機能は皆無の、貴族や金持ちが、気まぐれで建てる、見て楽しむだけのもの。

城の敷地内最高部にあるガーデンからの眺めも見事でした。

He gave us eyes to see them
神はこれらを見る目を与えたもうた

視覚があるのが、神様のおかげかどうかはともかくとして、こうして美しいものを見て、美しいと感じ、それを伝達できるすべが在ることには感謝です。

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