泉沸くイングランド最小の都市、ウェルズ

今回のサマセットとドーセット旅行の皮切りに訪れた場所が、ウェルズ(Wells)。「Well」は、もちろん、英語で「井戸、泉」の事ですが、ウェルズの北側に位置するメンディップ丘陵(Mendip Hills)の地下水が、その南斜面を流れ落ち、この地から沸きあがっている事からついた名です。

ウェルズは、よく、イングランド最小の都市(City、シティー)などとも呼ばれ、実際、中心部にある主な建物は、有名なウェルズ大聖堂と、バースとウェルズ教区の主教の館である、ビショップス・パレスのみ。

いわゆる「町」は、英語で「Town」(タウン)ですが、「City」(シティー、都市)という名称をもらうと、イギリスでは、ちょっと格が上がる感覚があります。よって、多くの「Town」は、正式に「City」と名乗る許可をもらいたがる事が多々あるのです。ヘンリー8世に遡る時代から、主教座聖堂(大聖堂)のある町は、住民の数や大きさに関わらず、往々にして「City」と呼ぶことを許されてきて、重要な教区と大聖堂を有するウェルズは、小さいながらも、かなり昔から、「City」であったわけなのです。昨今は、この「City」のタイトルを獲得するには、大聖堂の存在もさることながら、人口、その他も考慮されているようですが。現段階(2015年)で、シティーの名称を持つ都市は、イングランドに51、スコットランドに7つ、ウェールズに6つ、北アイルランドに5つ、計英国全土で69あるのだそうです。(この数は、後に変わる可能性がありますので、ご了承あれ。)興味の在る方は、ウィキペディアのページで、全ての英国のシティーを地図上で確認できます。こちら

さて、私たちがウェルズにたどり着いたのは、なんと、夜も10時近く。到着してから、幸い、聖堂のすぐそばのホテルの1室を探し出しました。部屋に荷物を運び入れた時には、ほとんど全てのレストランがしまっており、駆け込みぎりぎりで、ホテルの隣にあったインド料理屋に足を踏み入れ、テークアウェイで、2,3の料理を注文することができました。このインド料理店のお兄さん、ウェルズにはもう10年いるけど、すっかり飽きてしまったと。「あまりにも小さすぎて、夜9時を過ぎるとやる事が何もない。2階にあがってテレビ見るだけ。バーミンガムに引っ越したい・・・。」まあ、彼、まだ若い感じでしたからね。「こんなところ住んでみたいな、と思うけど。」と私が言うと、「そりゃ、始めてきたばかりでは、ものめずらしくて、いいなと思うかもしれないけどね。10年は長すぎた。それに、僕は大きな町の方が好きだし。」まあね~。

ホテルの部屋へ戻って、インド料理で腹ごしらえし、翌日からの観光に備えました。

ウェルズ大聖堂(Wells Cathedral)
この小さなウェルズがシティーと呼ばれる理由となった、ウェルズ大聖堂・・・正式名は、Cathedral of St Andrew(聖アンドリューの大聖堂)。私が今まで見た、イングランド内の大聖堂の中でも、かなり独特で、印象強いものでした。

一番最初に、この地に教会が建てられたのは、ウェセックス王イネ(King Ine)により、遡る事、紀元700年頃だと言います。現在の大聖堂の建築が始まったのは12世紀になってから。

西側正面は、13世紀に作られたという、170以上の聖人や王様たちの彫像で飾られ、中世の彫像群としては、ヨーロッパでも最大規模のもののひとつであるそうです。かつては、彫像の数は現在の倍はあり、また、赤、青、緑などに塗られていたと言いますが、石の色そのままの現在の方が、シックでいいです。

内部のアーチも、今まで見たことがないような、変わった形のものでした。「scissor arch」(鋏アーチ)と呼ばれるもの。14世紀初頭に、新しく塔が作られた際、天井がぎしぎしとゆがみ始め、この鋏型のアーチ3つで支えることとなった次第ですが、

視覚的効果も抜群。

内部にある時計は14世紀末のもので、15分おきに、時計の上から馬に乗った騎士が4人飛び出しくるくる回る仕掛け。世界で、現在でも動いている時計の中でも、かなり古いものに数えられています。また、

時計の右上の壁に座っている人形の名は「Jack Blandifer」。この人形は1時間おきに、手で鐘をたたき、15分おきに踵で時を鳴らします。

チャプターハウスへと登る階段のデザインも面白かったです。

ビショップス・パレス(The Bishop's Palace)
大聖堂のすぐわきにあるのが、1206年以来、バースとウェルズ教区の主教の館である、ビショップス・パレスとその庭園。

ビショップス・パレスの庭園で、ウェルズの名の由来となる聖アンドリューの泉を見ることができます。

最初に書いた通り、ウェルズの北を東西に走るメンディップ丘陵の地下水が、地盤の弱いこのあたりから沸き上がってきているわけです。中世から、泉の水は、パレスを囲む堀、また目抜き通りの排水路にも流れ出し。今日でも、毎日、かなりの量の水が湧き出しています。

上の写真は、かつて、泉の水を集め、管理制御したウェルハウス。

堀には、白鳥たちが沢山泳いでいましたが、ビショップス・パレスの白鳥たちは、お腹がすくと、壁からぶら下がっている紐を引っ張って鐘を鳴らし、「餌が欲しい」と番人に伝える、という芸当を持っているのだそうです。残念ながら、この技を披露している白鳥を、実際には目撃しませんでしたが。

堀の脇の塀の上を歩くと、良い景色が広がっています。ここから、近郊のグラストンベリーの丘の上に塔がそそり立っている姿が見えると、ガイドブックには書いてあったのですが、まだ木々の緑が深いためか、グラストンベリーの塔らしきものは見えませんでした。木々の葉が散った後に、はっきりと目に入る様になるのかもしれません。

花の咲くガーデンも美しかったです。

パレス内のロング・ギャラリーには、歴代のバースとウェルズ主教の肖像画がかかっていました。その中で、2002年まで、イギリス国教会の長であるカンタベリー大主教の座をつとめたジョージ・ケアリーの肖像に気がつきました。彼が、カンタベリー大主教になる前は、ここで主教を勤めたようです。そんな事でも、イギリス国教会における、バースとウェルズ教区、およびウェルズ大聖堂の重要性がうかがえました。

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