魔女狩り将軍

「Witchfinder General」(魔女狩り将軍)という1968年公開の映画を見ました。17世紀、多くの罪の無い人間を魔女として処刑に追いやったマシュー・ホプキンス(Mathew Hopkins)の話です。半分歴史ドラマ、半分ホラー映画(ヴィンセント・プライスが主役ですから!)。多少の脚色があり、史実とは違う部分もあるものの、実際にあった出来事がもと。人間が人間にこんな酷い事をする、という恐ろしさは、ゾンビのでてくるホラー映画より、真に迫るものがあります。

時は1645年、イングランドは清教徒革命(イギリス内戦)の真っ只中。法はあってあって無きようなもの。エセックス州、マニントリー出身のマシュー・ホプキンスは、そんな不法状態を利用して、エセックス、サフォーク、ノーフォーク州等のイーストアングリア地方を中心に、魔女を処刑する事により、金儲け。1人処刑すると、いくらかの謝礼を受け取れたようです。

イーストアングリアは、当時、オリバー・クロムウェル率いる議会派側が強く、物語のヒーロー、リチャードは、議会軍の優秀な兵士。彼の美しいいいなずけ、セーラは、サフォークの小さな村の牧師の姪。ところが、この牧師の叔父さんは、村人により「彼は、ウィッチwitch(魔女、魔法使い)だ」と摘発され、やはりウィッチだと名指されてしまった他の村人2人と共に、村に訪れたホプキンスと彼の助手のジョン・スターンから、告白させるための拷問を受け、絞首刑。セーラは村に滞在中のホブキンスとスターンに手を出されてしまう。一時村に戻り、状況を知ったリチャードは、即、セーラと結婚。ホプキンスへの復讐を誓って、セーラには、村に留まらず、サフォーク州のラヴェナム(Lavenham)へ向かうよう告げ、自分はホプキンスを探しながらも、兵士としての任務に戻る。

クライマックスは、中世の家並みが一番良く保存さらえているイングランドの村のひとつとして有名な、サフォーク州のラヴェナムにて。リチャードとセーラはここで落ち合うのですが、たまたま、ホプキンスも、ここに魔女が数人いるという連絡を受け、拷問と処刑のため、やはりラベナムへやって来て、かち合わせに。

ラヴェナムは、織物業で非常に栄え、15世紀~16世紀初頭の最盛期には、それは裕福な村だったようです。ラヴェナム・ブルーと呼ばれる、青い織物が特に有名。村内は、織物業者達によって建てられたハーフ・ティンバーの家が並び、村中が博物館、と言ったところ。1520年代には、織物生産の汚水や、汚物を、通りから一掃させるため、地下の汚水道も作る事ができるだけの富もあったそうです。

上の写真は、16世紀に建てられたラヴェナムのギルド・ホール。

映画内では、このギルド・ホールの前のマーケット広場で、魔女と名指された若い女性が火あぶりの刑に合うという、おどろおどろしいシーンがありました。

リチャードとセーラは、ホプキンスにより、ウィッチとして拘束、拷問に合いそうになるものの、瀬戸際で、リチャードの友人の兵士達が拘束先に押し入り、最終的に、リチャードは、ホプキンスを斧でめった切りに・・・。それを見かねた、兵士の一人が、銃でホプキンスを射殺。映画は、セーラが狂ったように叫び続ける中、終わるので、復讐を果たしてのハッピー・エンドの感は全くなく、暗く重く、幕を閉じます。史実では、ホプキンスは、1647年に病死したようですので、この最後のシーンも創作です。

原題:Witchfinder General
監督:Michael Reeves
言語:英語
1968年

ホプキンスが魔女狩りを行ったのは、1645年頃から1647年頃にかけてと、比較的短期間。「こいつのやり方はおかしい」と思ったある牧師と、数人の市民により、批判、弾劾され、早期廃業に追い込まれたようです。ですが、こんな短期間に、想定では、約300人を、魔女として絞首刑にしたという話もあります。1621年生まれという事ですので、魔女狩りをおこなったのも20代で、死んだのも20代と若い。彼に関しては、本人の手による、「The Discovery of Witches」(魔女の発見)なる冊子以外は、あまり文献が残っていないらしく、どうやって死んだかには、後の世に色々と尾ひれが付いているところもあるようです。

映画の中でも描写されていましたが、ウィッチとしての証拠を探すための拷問のひとつに、大きな針、というか、アイスピックのようなもので身体中を突く、というのがありました。何でも、ウィッチは、身体のどこかに、傷をつけても痛くないし、血も出ないデビルズ・マーク(悪魔のマーク)という部分があるとかで、それを探すための作業。そして、また、ウィッチと名指された人間を紐でくくりつけ、川などの水に落とし、水に浮かぶとウィッチ、沈むと無罪、という判断も行ったとか。こんな事を、本当に信じていたのやら。それとも、ただ単に、手っ取り早く告白を引き出して金儲けをしたかっただけか、また、他人を苦しめるのが好き、というひしゃげた精神の持ち主だったのか。

17世紀後半のアメリカでの魔女狩りについては、過去の記事「魔女狩り」をご参照下さい。

*写真はすべて、ラヴェナム内で取ったものです。

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