イングランドの白い崖

イーストボーンから海岸線を辿って西へしばらく行くと、約163メートルの高さのチョーク層の白い崖、ビーチーヘッド(Beachy Head)へ辿り着きます。サセックスの海岸線で一番海抜が高い部分です。名の由来は、ビーチとは関係なく、フランス語の「beau chef」(美しい頭)からきているとの事。実際、切り立った崖の下に、ビーチなどありません。

チョークは、恐竜でお馴染みのジュラ紀に続く、白亜紀に堆積された地層。そのころ、イングランドの大部分がひたひたと海水下にあり、海に住む植物プランクトン、円石藻(Cocolithophores)の死骸(炭酸カルシウム)が積もり積もってできあがったものです。よく、シリアルのパッケージなどに、「カルシウム強化」などとあるのは、チョークを加えてあるということ。昔、イギリスは、フランスと地続きでしたから、フランス北部にも、似たようなチョーク層の地形があります。

チョークの崖は、波により絶え間なく侵食され、崖のすぐ下の海の色は、チョークの粉が混じって白くにごっています。崖の上に建つのは、1834年に使われ始めた灯台、ベル・トゥート・タワー(Belle Tout Tower)。1902年に、ビーチーヘッドの崖下に新しい赤白縞模様の灯台が建てられるまで、灯台として使われていました。このタワーも、そのままにしておくと、いつかは、海の中に崩れ落ちてしまいますので、1999年には、15メートルほど内陸に移動されています。また、侵食が進み、ピンチになった段階で、再び、更に内陸へ移動させる予定であるようです。

やや体重重めのうちのだんなが、崖っぷちを覗きながら歩くのを見ていると、その重みでぎしぎしと崖が崩れ、落ちやしないかと、それは、はらはらさせられ、始終、あまり崖っぷちに近づくな、と叫ばねばならない始末でした。「崩れるときは、大体、大雨強風の時だろうから」などと言ってましたが、家に帰って、写真を眺めながら、「やっぱり、崖ぎりぎりを歩くのは、危ないかもしれない。」だそうです。犬や子供連れで歩く際は、特に、用心です。

えてして、こういう場所は、自殺の名所と化してしまう事が多いですが、ここもそう。崖っぷちに、いくつかの小さな十字架が立てられ、近くには、「神は、汝の抱える苦難よりも、偉大である」と、自殺を止めようとするためのメッセージのようなものが、刻まれている石がありました。

ビーチーヘッドから、更に西へと行くと、起伏はややなだらかとなり、波の様な形をした一連の崖が目に入ってきます。ここが、セブンシスターズ(Seven Sisters)。ここでしばらく景色を楽しんだ後、車をとめてあったビーチーヘッドの駐車場へもどるため踵を返しました。

海岸線から内陸部を望むと、こういう感じです。チョーク層の丘、高台は、ダウン(Downs、Downland)と呼ばれ、南部のこのあたりは、一般にサウス・ダウンズ(South Downs)と称されます。

リチャード・アダムス作、「ウォーターシップ・ダウンのうさぎたち」(Watership Down)という小説がありましたが、あれは、アダムス氏の故郷で、ここより西のハンプシャー州のダウンが舞台。野うさぎ達が、安全な新しい住処、ウォーターシップ・ダウンを目指し旅する話でした。うさぎ穴はこの辺でも多々見かけました。

水はけの良い、短めの草に覆われた風景の上、空高くひばりが歌っていました。どこにいるのやら、空を仰いでも、姿は全く見えず。

小さなチョークのかけらを使って、誰かが、崖際に、ハートのいたずら書き。

私は、おみやげに、その辺に転がっていた、やや大きめの、チョークのかけらを5つ拾い集めました。今、窓際においてあります。気が遠くなるような大昔の海の微生物の死骸・・・。同じような時間が経った後、私が歩いた場所は、海の下に消えうせ、イギリス全体も、今とは全く違った地形になっていることでしょう。

コメント

  1. こんばんは
    毎日、暑い日が続いています。涼しげな海岸線は気持ちが良さそうですね。そして本当に断崖絶壁なんんですね。柵も作らないのは、やはり景観を考えてのことなのでしょうか? うつくしい海の写真、ありがとうございました。

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  2. その他の事では、健康安全対策に非常に神経質な国(外で怪我をした人物などが、すぐに自治体などに対して訴訟を起こすのが原因だと思いますが)なのに、柵が全く無いのは、私にも不思議でした。景観と、作ってもすぐ、海に崩れ落ちる可能性があるからでしょうか。

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