弾け、ポップコーン

Popcorn is American. Nobody but the Indians ever had popcorn, till after the Pilgrim Fathers came to America. On the first Thanksgiving Day, the Indians were invited to dinner, and they came, and they poured out on the table a big bagful of popcorn. The Pilgrim Fathers didn't know what it was. The Pilgrim Mothers didn't know, either. The Indians had popped it, gut probably it wasn't very good. Probably they didn't butter it or salt it, and it would be cold and tough after they had carried it around in a bag of skins.

from "Farmer Boy" by Laura Ingalls Wilder

ポップコーンはアメリカのものです。ピルグリム・ファーザーズが北米にやって来るまで、インディアン以外は、誰もポップコーンを食べたことがありませんでした。プルグリム・ファーザーズにより、一番最初に祝われた感謝祭(サンクスギビング)の日に、インディアンたちも食事に招かれましたが、彼らは、招待に答えて現れ、テーブルの上に、大袋いっぱいに入っていたポップコーンをあけたのです。ピルグリム・ファーザーズは、それが何だかわからず、ピルグリム・マザーズも、それが何だかわかりませんでした。インディアンが、とうもろこしを、熱し、弾いて作ったのですが、この時のポップコーンは、あまり美味しくなかったかもしれません。バターも使わず、塩もまぶさなかったでしょうから。それに、皮製の袋に入れて持って来たので、固く冷たくなってしまっていたことでしょう。

ローラ・インガルス・ワイルダー著「農場の少年」より

大草原の小さな家」の作家であるローラ・インガルス・ワイルダーによる「農場の少年」は、ローラの夫、アルマンゾ・ワイルダーの、19世紀半ばの少年時代を書いたものです。夕飯後の、彼の家族の団欒の描写で、ワイヤー製のポッパーと称されるものに、乾燥したとうもろこしの粒を入れ、火の上にかざして、はじけさせ、ポップコーンを作り、塩とバターをまぶして、皆で食べるというシーンがあり、上記の引用は、その後の説明です。

残念ながら、一番最初のサンクスギビングで、白人の移住者たちが始めてポップコーンを食べた、というのは、ただの伝説のようです。ポップコーンを作れる種のとうもろこしは、俗にポッピング・コーン(ポップ種)と称されるもので、乾燥したとうもろこしの種であれば、何でもいいというわけではない。ビルグリム・ファーザーズたちが住んだ、プリマス植民地付近で育てられていたとうもろこしは、ポップ種ではなかったそうなのです。

ここで、ポップコーンの歴史をざっとまとめてみる事とします。

「とうもろこし」というものが穀物として開発育成されたのは、9000年前のメキシコ。発掘された、最も古いポップコーンは、紀元前3600年の、現ニューメキシコ州のもの。ペルーなどの南米でも、かなり長い間、食されていたのではないかとされています。

それでは、インディアンや、南米原住民は別として、初めて、ポップコーンを食べたヨーロッパ移民が、ピルグリム・ファーザーズたちではなかったとすると、どこの誰だったか・・・。17世紀のフランス人探検家が、五大湖周辺に住んでいたイロコイ連邦のインディアンたちが、熱い砂を入れた壷の中に、とうもろこしの種をいれ、ポップさせている、という記述を残しており、おそらく、この周辺(ニューヨーク州北部、ヴァーモント、カナダのケベック)の白人移住者たちが、ポップコーン作りを始め、これが北米移住者の間に広がっていったのではないか、という事です。

いずれにしても、19世紀半ばまでには、「農場の少年」に描写されているように、夜のスナックとして人気となり、暖炉の前でポップコーンを食べる家族、というのも増えていました。ただし、まだ、この段階では、商業的にポップコーン販売のマーケットを当てにして、ポップ種のとうもろこしを専業に作る農場というのは無く、自分の畑で育てたとうもろこしを使用するか、近所の農家から買って、ポップコーン作りをしていたようです。

1895年、シカゴの実業家で、もともとは、ピーナッツをローストして販売していた、チャールズ・クレトール(Charles Cretors)が、均一にはじけたポップコーンを作る機械を開発。氏は、やがて、特許を得たこの新しい機械をを、馬に引かれたワゴン車に乗せ、街頭で売り歩く事業を開始。お祭りや、野外行事に、ポップコーン・マシンを乗せたワゴン車とその食欲をそそる香りが、だんだんと馴染みの風景となっていく。そして、ポップコーンは外で食べるスナックとしても定着。彼の築いたポップコーン・マシンの会社(C. Cretors & Co.)は、代々クレトール家によって受け継がれ、いまだ、アメリカの映画館などで食べるポップコーンの多くは、同社のポップコーン・マシンで作られているのだそうです。

20世紀始めには、ポップ種とうもろこしの生産も、アイオワなどで本格的に始まります。同時に、新しい娯楽である映画が人気となるにつれ、外で食べるポップコーンの消費は増える一方。なにせ、原価の安い、手のかからないスナックとあって、大恐慌時代にも、貧民が食べられお菓子はポップコーンくらいであり、他の多くのビジネスがつぶれる中、ポップコーン業界は、恐慌の荒波を泳ぎきったようです。第2次大戦中は、海外に駐屯するアメリカ軍の配給のために、砂糖が国外に流れ、お菓子のための砂糖が国内で不足し、ポップコーンは、ますます人気。そして、テレビが各家庭に登場すると、ポップコーンの入ったボウルを抱え、ソファーに座って、家庭でテレビを楽しむために、アメリカでのポップコーン消費量は、前例を見ぬ跳ね上がりぶりを見せ、現在に至っているのです。

参考サイト:History.com
      What's cooking America

現在のアメリカの家庭では、ポップコーンは電子レンジでチンが、一番多いという記述を読みました。イギリスでの、ポップコーン消費量は、アメリカほどではないですし、すでに作られてパックされているものを購入するケースが一番多いと思います。

「農場の少年」を読んで、私も、香ばしいポップコーンを自分で作ってみたくなり、町のスーパーで、ポップコーン作り用の、ポッピング・コーンの粒を探したのですが、見つからず、帰りに立ち寄った健康食料品店で売っているのを発見。さっそく、購入。アメリカでは、主にネブラスカ、アイオワ、インディアナが主なポップ種とうもろこしの産地だそうですが、私が買ったものはアルゼンチン産。アメリカは、ポップコーン消費量が多い国なので、自国で育てたものは、わざわざ輸出せずとも、国内に十分大きなマーケットがありますから。アルゼンチン産より高いでしょうし。

さて、パッケージの裏に、基本的ポップコーンの作り方が書いてあり、それによると

ポップコーンの作り方

鍋を強めの中火で熱し、オリーブオイルをテーブルスプーンに4杯、バターを少々落とす。
1分ほど経ったら、とうもろこしの粒を、鍋の底が隠れる程度に入れ、蓋をする。
そのうち、弾け始めるので、弾け方が収まったら、火を止める。

全過程5分とかからない長簡単、スナック作り。

この時、鍋に入れる粒の量ですが、本当に鍋底に少量入れただけで、鍋一杯に膨れ上がるのです。中が見えるように透明の蓋の鍋を使ったのですが、一時は蓋が持ち上がるかと思う勢いで増えて行き。「こんなに沢山、作っちゃった!」とだんなに見せると。「げ、そんなに食べきれないから、近所にあげたら?」と言うので、いつも、お手製のケーキを持ってきてくれる近所のおばあさん宅へ、紙袋一杯の、まだあったかいポップコーンを抱え、駆けて行くと、留守。家に戻って、ポップコーンを全部、巨大な器にあけ、塩をまぶして、デーンとテーブルの上にのせると・・・知らず知らずの間に、二人して、むしゃくしゃ、もぐもぐ、あっと言う間に無くなり、作りすぎの心配をする必要もなかったのです。考えてみれば、映画館などでも、紙の容器に、こぼれるほど沢山のポップコーンを入れて売ってますものね。ほんの一掴みのコーンしか使用していないわけなので、体積が膨れ上がったからと言って、食べている量はさほどではないわけですし。

ポップコーンをひとつ摘み上げ、良く見ると、中にあったものが完璧に外側に飛び出してるんですよね。原型は、歯がかける程、固いものなのに、こんなにふわふわになるなんて、不思議!「農場の少年」の中で、アルマンゾは、食べる前に、一粒一粒ポップコーンをながめては、数え切れないほどのポップコーンを食べてきたのに、今まで一度も、同じ形のものに遭遇した事がない、と感心。

また、「農場の少年」によると、コップ一杯のミルクに、コップ一杯のポップコーンをひとつひとつ入れていくと、ポップコーンを全部ミルクのコップに移し終わっても、ミルクは一切こぼれないし、アルマンゾは、そのポップコーンとミルクが、美味しくて好きなのだそうです。だって、これって、砂糖をちょいと加えると、朝食のシリアルと同じようなものですものね。興味ある方は、ミルクをもらさず、1カップのミルクに、1カップのポップコーンを突っ込む実験をしてみて下さい。万が一、ミルクがもれて、テーブルクロスがぐじゃっとなっても、私は責任取りませんが。

コメント