ドはドーナツのド

前回のポップコーンの話にひき続き、ローラ・インガルス・ワイルダー著の19世紀半ばのアメリカで、農家を営む一家の生活を描いた「農場の少年」から、今回は、ドーナツ作りの描写を引用します。

Mother was rolling out the golden dough, slashing it into long strips rolling and doubling and twisting the strips. Her fingers flew; you could hardly see them. The strips seemed to twist themselves under her hands, and to leap into the big copper kettle of swirling hot fat.
Plump! they went to the bottom, sending up bubbles. Then quickly they came popping up, to float and slowly swell, till they rolled themselves over, their pale golden backs going into the fat and their plump brown bellies rising out of it.
They rolled over, Mother said, because they were twisted. Some women made a new-fangled shape, round, with a hole in the middle. But round doughnuts wouldn't turn themselves over. Mother didn't have time to waste turning doughnuts; it was quicker to twist them.

from "Farmer Boy" by laura Ingalls Wilder

お母さんは、黄金のドウをねっていました。ドウを長く引き伸ばし、それを、巻いて二重にし、ひねって。お母さんの指はあまりに早く動くので、ほとんど見えないくらいでした。引き伸ばされたドウは、お母さんの指の下で、まるで、自分の意思でねじれ、熱々の油の入った銅の鍋の中へ飛び込んで行く様です。
ポチャン!ドウは鍋の底へ、泡を立てて沈みます。そして、すぐに上がってくると、ぷかぷか浮かびながら、少しずつ膨らんでいき、反対側にひっくり返るのです。薄金色の背中が油の中へ消えていき、膨らんだ黄金のお腹を油の上に浮上させ。
ツイストドーナツは、こうして、自然にひっくり返る、とお母さんは言います。新しく考案された形の、丸く真ん中に穴の開いたドーナツを作る女性もいるけれども、この新しい形では、自然に油の上でひっくり返らないのだと。お母さんは、ドーナツをいちいちひっくり返すために、時間を無駄にしたくないので、ずっと早く作れるツイストドーナツを作るのです。

ローラ・インガルス・ワイルダー著「農場の少年」より

ドーナツは、ドウ(dough、小麦、卵、水、エトセトラをこねたもの)をラードや油で揚げただけのものなので、バリエーションはあるものの、昔から、似たものを食べていた国は多々あるでしょうが、アメリカで人気となるドーナツの原型は、オランダの「oliebollen」または、 「oliebol」と呼ばれる食べ物であったようです。直訳は、「油の玉」。ごろんとした円形のドウを油であげたもの。オランダ人が、最初にニューヨークへ植民した時に伝わったか、または、ピルグリムファーザーズたちの中には、新大陸への出発の前に、オランダに住んでいた人たちもいたため、ピルグリムファーザーズ達によって広められたのではないかと。

上の引用にもあるように、19世紀中ごろには、ワイルダー家のお母さんは、ツイスト形のものを揚げており、真ん中に穴が開いたリング・ドーナツは、「新しくできた形の穴の開いたもの」となっていますが、一説によると、この穴の開いたものは、1847年に、ニューイングランドの船長が、自分のお母さんの作る、どでっとした油の玉が、いつも鍋底に沈み、揚げるのに時間がかかるため、穴の開いたものを作ったらどうだと考案したのが起源などとも言われます。船長のお母さんもワイルダー家のお母さんの様にツイスト型を作っていれば、リング・ドーナツは生まれなかったかも!この話の真偽はともかく、19世紀半ばに考案された穴あきドーナツはあっという間に人気となり、1857年には、ドーナツに丸穴をあけるカッターに特許が与えられるまでになります。

ドーナツというのも、ポップコーンと同様、イギリスでの消費量は、アメリカよりずっと少ないのではないかと思います。過去の料理本などでも、アメリカでは、ドーナツのレシピなるものが色々あった様ですが、イギリスでは、ほとんど無かったそうですし、今でも、カフェやティールームでドーナツを、コーヒーにダンク(沈めて)して食べるという光景は、イギリスでは、あまり見ないです。ドーナツをダンクする・・・というと思い出すのは、クラーク・ゲーブル主演、1934年の映画、「在る夜の出来事」ですね。クラーク・ゲーブルが、ドーナツは、コーヒーに、ぐじゃっと長く浸さずに、ささっと浸してぱっと食べる、とドーナツのダンク方を伝授するシーンがありました。ドーナツ会社の大手Krispy Kremeの設立は、この映画の3年後、 Dunkin Donuts社は1950年設立。この2社の影響で、世界中で、ドーナツといえば、リング・ドーナツが主流になっていったようです。

ところで、日本語ではドレミの歌の歌詞は、

ドーはドーナツのドー

で始まりますが、英語では、

Doe, a deer, a female deer
ドーは、鹿、雌の鹿

確かに、英語からの日本語の翻訳、直訳は、どうがんばっても不可能な歌詞なので、「ドーはドーナツのドー」かなり上手い訳と感じます。特に子供が歌うには、「ドーは土瓶のドー」や、「ドーは土管のドー」じゃ、ちょっとね、というのありますし。

ついでに、下に英語の「ドレミの歌」の歌詞と、その直訳を書いてみることにします。

Do-Re-Mi

Doe, a deer, a female deer
Ray, a drop of golden sun
Me, a name I call myself
Far, a long long way to run
Sew, a needle pulling thread
La, a note to follow So
Tea, a drink with jam and bread
That will bring us back to Do, oh, oh, oh!

ドレミの歌

ドーは、鹿、雌の鹿
レーは、黄金の太陽のしずく
ミーは、自分を呼ぶ言葉
ファーは、走るのにとても長い距離
ソーは、糸の通った針で
ラは、ソの後の音
ティーは、ジャムを塗ったパンと一緒に飲むもの
こうして、またドに戻ります、オー、オー、オー!

日本語の歌詞の「レはレモン(lemon)のレ」という部分に、エル(l)とアール(r)の発音の区別ができない日本人の実態が出てしまってます!ただし、英語の歌詞の「ラはソの次の音」というのも、ちょっとお粗末ですが。自分なら、どうやって日本語のドレミの歌の歌詞を作ろうか、と考えてみるのも一興かもしれません。そんな「ドレミの歌」の替え歌遊び、子供の時に友達とやった事がある気もします。

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