夏の日暮れとレイリー散乱

夏至はもう過ぎたものの、いまだに、夜の9時半でも、イギリスの空はまだほのかに明るいのです。庭の植物に水をやる時は、この時期大体、暑さがおさまったこの時間。今週から気温がぐっと上がり、昨日は、35度を越したため、ウィンブルドンでも記録的な暑さが取りざたされていました。庭の植物も、いくつか、いささかぐったりと、夜を待っていた感じ。

鳥のさえずりが、遠くの木々や茂みの中から聞こえるものの、もう姿は見えず、時にはこうもりが飛ぶのがうかがえ。日中、無数に花の間を飛び回っていた蜂は、夜行性の蛾などの虫に取って代わられ。まだ水色を残す空ににぼんやりみえる月と、ほのかにピンク色をした雲。それが徐々に、暗闇に飲み込まれ、鳥の声もだんだん、薄れていく。水まきをこのくらいの時間にするのは、気温が下がるのを待つと同時に、こんな風景を楽しみたいからでもあります。

だんなに、「ねえねえ、庭に出てきたら?背景の空はまだ水色なのに、雲がところどころピンクで綺麗よ。」というと、「Rayleigh scattering(レイリー散乱)のせいだよ。」という現実的な返事が戻りました。

レイリー散乱(Rayleigh scattering)
レイリー卿、ジョン・ウィリアム・ストラット(Lord Rayleigh, John William Strutt)が19世紀後半に発見した理論で、大気中に存在する、光の波長より小さい粒子が、太陽光を散乱させる、というもの。太陽光は、色によって波長が違い、一番波長が短く散乱を受けやすいのが青。波長が長く散乱を受けにくいのが赤。日中に、空の色が青いのは、散乱された青が目に入るため。一方、太陽が日の出と日没で地平線に近い位置にあると、光が、見るものの目に届くまで、日中よりも幅広い大気層を超えてくるため、散乱を受けにくい赤が目に入ることとなる。

なるほどね。雲は、地表にずっと近いので、背景の空がまだ青く見えても、日没の太陽光の散乱された赤を受けて、ピンクに染まって見えるわけです。

「夕焼けが赤いのはなぜ?」とアルプスの少女ハイジが聞いた時、アルムじいさんは、「山が、夜の間、太陽の事を覚えていてくれるよう、太陽が、最高のショーをかけるんだ。」と答えていました。ハイジが出版された1880年には、もうレイリー散乱は発見されていたはずなので、アルムじいさんが、詩的な返事をする代わりに、「それは、レイリー散乱のせいじゃ。レイリー散乱とは・・・・」と、その数式まで教えていたら、ハイジは将来、化学者になっていたかも!

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