ウィッカーマン

いわゆるカルト映画です。ホラーなどと言われますが、血が飛び散って、ギャー!!!というものでなく、じわじわとくる、心理的に薄気味悪い類のものです。それでいながら、半分、フォークソング調のミュージカル風でもあり、あまりのシュールさに、時に「ぶっ」と吹き出してしまう、妙なおかしさもあるのです。

原作と映画版のシナリオを手がけているアンソニー・シェーファー氏は、「アマデウス」で有名な英戯曲作家のピーター・シェーファーとは、双子の兄弟です。

ニコラス・ケイジ主演の2006年のリメイクもありますが、話題に上がるのはいつも、1973年作、エドワード・ウッドウォード、クリストファー・リー出演のイギリスのオリジナルの方ですので、誰が何と言っても、絶対に、こちらを見ましょう。

スコットランド西部のサマーアイル島(Summerisle、実在しません)にて、島の少女、ローワンが行方不明になった、と本土の警察に無記名で手紙が送られてくる。それに答えて、小型飛行機で島に降り立つ一人の警官、ハウイー(エドワード・ウッドウォード)。島のパブ、店、学校で、島民達に、送られてきた少女の写真を見せ、捜査を行おうとするのだが、母親も含め、全員が口をあわせ、「こんな娘は知らない」と言う。

サマーアイルは、キリスト教前の、ケルト系の異教の影響を受ける宗教や習慣を持ち、自然の神々、特に太陽を崇拝し、多産、豊穣、生殖をあがめ、輪廻転生を信じる。島民が夜、裸で徘徊する様子、裸の若い女性達が火の周りを踊りながら、炎を飛び越える異様な光景等を見て、ハウイーも、見る側も、「こいつら、様子がおかしいぞ・・・少女に一体何があったのか。」と疑惑を持つ。しかも、ハウイーは、スコットランドの厳格なプロテスタント(Presbyterian プレスヴィテリアン:長老派教会)のキリスト教信者であり、婚前のエッチや、休息の日の日曜日に、飲んだり騒いだりのドンちゃん騒ぎはとんでもない、というタイプ。

学校でも、この異教の風習を生徒達に伝授。ハウイーが学校を訪れると、校庭ではメイポールの周りを生徒達が歌って踊っており、教室内では、先生が「メイポールは何を象徴しますか?」の問いに、生徒が「ファルス(おちんぽこ)。」と答えるのを聞き、絶句する彼。また、滞在したパブ兼宿では、宿のお色気お姉さん、ウィローが、夜、ハウイーを誘惑しようと、隣の部屋から壁をノックして来るのにも、あぶら汗をたらしながら、必死で我慢。

やがて、調査に行きつまったハウイーは、島を司るサマーアイル卿(クリストファー・リー、若い!)を訪ねる。サマーアイル卿は、ヴィクトリア時代に、彼の祖父が、漁業や羊を飼うことだけが主だった荒れたこの土地に、作物や果物の育成を導入し、太陽を讃える宗教や儀式を取り入れることで豊穣な島とした過程を説明する。そして、島民達は、キリスト教から異教へと改宗。おりしも、豊作を祈る5月祭が近づきつつある中、ハウイーは、前年は、作物が不作であった事を鑑み、ローワンは、5月祭で、神々への生贄に捧げられるべく、どこかへ拘置されているのでは、と考える。

変装をして5月祭のパレードに参加、生贄にされそうになったローワンを無事救助・・・と思いきや、実は、全てが、島外から生贄として使える人物を誘い込むためのわなであったのです。最終的にはハウイー自身が、神々への生贄として、海の崖っぷちにぬぼーっとそそり立つ、柳の枝編み(ウィッカー)で作った巨大な人形、ウィッカーマンの中に閉じ込められ、他の生贄の動物達と共に、火をつけて、燃やされてしまう!

大体、こういう映画、最後の方で、ウィッカーマンに火がつけられて、大ピンチ、というところで、本土からの救助隊が着き、ぎりぎりで助けられる・・・という展開が多いですが、これは違うのです。本当に、焼き殺されてしまうので、えー、そんな!という感じなのです。そして、太陽が赤く沈んでいく中、ウィッカーマンが、ごーごー燃え、顔に妙な笑みを浮かべた島民達が、その周りで、振り子のように、大きく腕を振りながら歌をうたっている風景が、とても、とても、異様なのでありました。

さて、サマーアイル島は実在しない、と書きましたが、サマー・アイルズ(Summer Isles)なる群島はスコットランド西岸沖に存在し、このウィッカーマンの島のモデルになっているとされます。実際のロケは、他の場所で行われたという事ですが。このサマー・アイルズのひとつTanera Mòr島に、フランク・フレーザー・ダーリン(Frank Fraser Darling)なる、エコロジストで、自然保護運動家のイギリス人が1930、40年代に一時住み、荒れ果てた土地を耕して作物を育てる事を試み、後に、彼はこの島での経験を本にして出版しています。サマーアイル卿のおじいさんのモデルはこの人か?ダーリン氏は、変な宗教に熱中したわけでもないようなので、少々、ありがた迷惑かなという気もします。

原題:The Wicker Man
監督:Robin Hardy
言語:英語
1973年

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