アーコールのウィンザーチェア

体力をつけるためと称して、年明け早々、病後初めてテニスをしようと、だんなは、自転車で、テニスクラブに出かけて行きました。2,3時間後、居間で雑誌を読んでいたところ、前の通りを、片手に椅子を抱えるようにしながら、よろよろ自転車で通りかかる人物が目に入り、「どこの変人だ、新年早々、椅子をかかえて自転車こぐなんて。」と思い、良く見たら・・・うちの変人でした。

「道端に捨ててあって、もったいないと思い拾ってきた。」のだそうです。椅子の座る部分の後ろには、「Ercol, Made in England」のシールがついていました。アーコール社のウィンザーチェアの一種(ローバック)。目の玉が飛び出すほどの高級品ではないものの、ハードウッドを使ったしっかりした家具。壊れているわけでもなく、形も良いのに、まるでゴミの様に、その辺に捨てる人もいるものです。

布で拭いて、泥を落とし、早速座ってみると、私の机にぴったりのサイズ。今まで、PCなどをするときに、背もたれの無い木製回転スツールを使っていたので、これに切り替えました。スツールには、植木鉢でものせる事にして。

座り心地も良く、すでに私のお気に入りの椅子の地位を獲得。まさに、捨てる神あれば、拾う神あり。

多少、くたびれた感じなので、そのうち、お天気の良い日を見計らって、庭で、ワックスをかけて、ぴかぴかに磨き上げる事にします。

だんなが満面の笑みを浮かべて曰く、
「Now, don't tell me I never get you a present.」
(これで、僕が、何にもプレゼントあげないなんて、言わないでね)
うーーーむ・・・・。

子供の頃に両親と共にロンドンへやって来たイタリア人移民の子、ルシアン・アーコラーニ(Lucian Ercolani)。家具デザイナーとなった彼は、1920年、バッキンガムシャー州ハイ・ウィッカム(High Wycombe)にて家具メーカーのアーコール社を創業。氏は、堅い木材を、大量に効率よく、蒸気を用いて曲げる技術を開発し、ウィンザーボウと呼ばれる弓形に曲げた背もたれや腕かけを持つ、ウィンザーチャアを、比較的手ごろな価格で、大量製造を行います。

アーコール社のサイト

イタリアから移住し、イギリスで活躍した人物というと、他にも、ラジオのグリエルモ・マルコーニが頭に浮かびます。マルコーニに関しては、以前の記事、「マルコーニも食べたボリュームの朝食」まで。

さて、このウィンザーチェア。17世紀に、ウィンザー周辺で作られるようになった事に由来する名だそうです。(実際、誰が一番最初に作ったのかは、諸説があり、定かでないようです。)

ヴィクトリア朝の頃までには、農家やコテージ、パブ、ティールーム等、英国中いたるところで見られるようになり、高級家具と言うより、一番最初に、一般用に数多く製造されるようになった椅子ということ。それまでは、スツールやベンチ、石や床(!)に座っていた貧民も、この椅子を使用するようになり。また、アメリカへ渡った移民も、これをもって行ったようで、アメリカでも早くから人気の椅子となります。

座る部分は、一枚の木材から出来ており、中心部が、左右に比べ、いささか盛り上がるよう、(要はおしりのカーブに合うよう)凸型に彫ってあります。拾ってきた椅子もそう。この一枚板に開けた穴に、脚と背もたれの棒を差し込む形。背もたれは、上記したウィンザーボウで固定。

いくつかのバリエーションがあるようですが、上の写真のスタイルのものが、一番ウィンザーチャアのイメージとして強いようです。

イギリスのウィンザーチェアは、座る部分は、ニレ(elm)、脚や背棒は、セイヨウトネリコ(ash)やオーク(oak)の木等を使用するものが多いそう。

ウィンザーチェアに関する参考サイトは下まで。(上の写真は、2番目のサイトより拝借。)
BBC A History of the World
Windsor Berkshire

さて、イギリスのニレの木(English Elm)は、1967年に、オランダ・ニレ病(Duch Elm Desease)により大被害を受け、数は激減。見事な大木となるまで、150年はかかる木だそうで、いまだ、この時の被害から、イギリス国内のニレの木の数は立ち直っていない状態です。アーコール社のニレの家具も、現在は、輸入の木材使用の事でしょう。そんな事も考えると、尚更、しっかり作られた木製家具は、長く大切に使ってあげたいと思う次第です。

コメント

  1. こんにちは
    日曜日の散歩から帰ったところです。今日はシメとビンズイを見る事が出来ました。
    ウィンザーチェアーは日本でも町の洋食屋さんなどで見かけます。素朴で頑丈そうなのがいいですね。私も椅子を探しているので参考にします。
    ところで、シェークスピアのウィンザーの陽気な女房たちというのが在りましたよね。ウィンザーの土地柄とか関係あるのでしょうか?田舎のイメージしかないのですが、、。
    椅子もいいですが、その上のくまちゃんもいいですね。

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  2. ウィンザーチェアの名が定着した頃、ウィンザーは、家具作りの中心地だったようです。
    シェイクスピアの方は、エリザベス一世なども、ロンドン内で、黒死病が発生すると、ロンドン郊外に滞在する事が多々あり、ウィンザーへも良く滞在していたような話です。女王も馴染みの場所を芝居の舞台にという、作家のはからいかもしれません。シェイクスピア専門家でないので、はっきり言えませんが。
    椅子のモデルのくまは、10年以上前に買ったもので、ほこりっぽくなると、洗濯機で洗えるのが何よりです。

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