かっこう時計

以前から思ってはいたのです。英語のCuckoo Clock(クックー・クロック)は、直訳すると、かっこう時計であるのに、日本では、鳩時計で通っているのも不思議だな、と。

こちらでは、時計から、かっこうが飛び出してきて、Cuckoo! Cuckoo!(クックー、クックー!、かっこう!かっこう!)とやるのに、日本にいた子供の頃は、鳩が出てきて、「ぽっぽー!ぽっぽー!」と鳴いているのだと信じていたのです。上の絵の通り、見た目も、鳩に似ていなくはないのです。(絵は、RSPBのサイトから拝借しました。)

メアリー・ルイザ・モールズワース(Mary Louisa Molesworth)、または単にモールズワース夫人と呼ばれる女流作家による、1877年著の児童文学、「かっこう時計」(The Cuckoo Clock)を読みました。この話には、かっこう時計の中のかっこうが、少女と遊ぶために登場するので、さすがに日本語でも「鳩時計」とは訳せないのでしょう。「かっこう時計」のタイトルで翻訳が出ているようです。

外国で生まれ、イギリスに住む親戚の2人の老婦人が住む大きな館へ送られてくる少女、グリゼルダ。大人ばかりの館の中で、子供の遊び相手もなく、なんとなく寂しい彼女が、館内の古いかっこう時計の中に住むかっこうと友達になり、色々な世界へ連れて行ってもらう。やがてグリゼルダは、かっこうの導きで、館の大きな庭に迷い込んだ近所に住む男の子、フィルと知り合って仲良くなる。

グリゼルダのおばあさんは、ドイツ出身で、館内のかっこう時計は、ドイツで時計技師をしていた、グリゼルダのおばあさんのおじいさんによって作られたという設定になっています。

中国の首振り人形の国、蝶の国などを、グリセルダが、かっこうに連れられ訪れるファンタジーでありながら、「子供達よ、良い子になりなさい。」の様なお説教臭いところも、ところどころ感じられます。

グリゼルダが、家庭教師とのレッスンの事で、老婦人にぐちった際に、婦人は、かっこう時計が時を告げるのを聞きながら、一言。
Good little cuckoo. What an example he sets you. His life is spent in the faithful discharge of duty.
かっこうの感心な事。お前の良い模範になるわ。あのかっこうは、義務を忠実に遂行して毎日を過ごしているのよ。

そして、かっこうも、時折、「言いつけに従う事」の大切さをグリゼルダに諭し、グリゼルダは物語の最後には、責任感のある子となって行くのです。

また、庭でグリゼルダがフィルに会った夜、老婦人達に、「庭で男の子と会った。これからも遊んでいい?」と聞くと、婦人達は、まず、その男の子が、どこぞの下層階級の子供ではないかと心配し、素性を確かめるため、情報を仕入れに行くくだりに、時代を感じました。対象読者も、中流以上のぼくちゃん、嬢ちゃんだったのでしょう。

おとぎ話の最後、往々にして、おとぎの国の住人達は、主人公を現実社会に置いて、いなくなってしまうのですが、これもそう。グリゼルダが、フィルと友達となった段階で、かっこうは、「もう、自分がいなくても大丈夫だろう」と、最後のお別れに現れる。子供の頃、この手の話を読んで、なんで、もう会いに来ないのか、と一抹の寂しさを感じたものです。最終的には、ファンタジーを信じていられる子供時代は終わるのだ、と言われているように思えたからでしょうか。


さて、この本の中で、グリゼルダが病気になった時、老婦人が、「熱を伴った風邪にはタンジー・ティー(tansy tea)が何より利く」という事を言っているくだりが、ちょっと気になりました。

タンジー(Tanacetum vulgare:ヨモギギク)は、かなり背が高い、黄色い丸ボタンの形をした花を咲かす野草。中世から、体に良いハーブであると信じられていたようですが、何でも、今は、かつて信じられていた効用は間違いであったとされているそうで、タンジー・ティーは、妊娠女性が飲むと、流産する可能性があり、また多量にがぼがぼ飲むと死に至る可能性もあるとか。

ただ、虫除けとしては効果があるそうです。乾かしたものを束にして吊り下げると、ハエ避けになり、葉を一握り摘んで、手で少々握りつぶしてから、ペットのわんちゃんの体に擦り付けると、のみの予防に良い、と私の持っているハーブの本には載っていました。ただ、この本にも、飲食、薬用として使うには注意が必要とあり、要は、現在は、できれば飲み食いはしないほうが無難なハーブとされているようです。

グリゼルダも、ちょっと飲んだだけだったんでしょうね。タンジー・ティーを飲んで、途中で危篤になってしまっては、おとぎ話にもならないですから。

コメント

  1. こんばんは
    カッコーは最近、声を聞く事が少なくなりました。あの声はのどかで、高原の清々しさがありますよね。カッコー時計は子供部屋にぴったり、スイスあたりのお土産品でしょうか?時計の時報とカッコーの鳴き声を組み合わせるのはすごいアイディアだと思います。子供の想像をかき立てますもの、、。最近はこの時計もあまり見ません。

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  2. こちらでは、夏はまだ鳴声が聞こえてくる鳥ですが、確かに、全国的に数が減ってしまっているそうです。消えていなくなってしまわない事を願って。
    鳩時計発祥の地はドイツ、オーソン・ウェルズの「第3の男」のセリフの様に、スイスのイメージが強いですが。スイスかドイツ製の、良いのを買おうと思うとお値段結構しそうです。

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