くまのパディントン


ロンドン、パディントン駅。娘のジュディーが、夏休みに寄宿学校から電車で戻ってくるのを出迎えに出かけたブラウン夫妻。妙な帽子をかぶったくまが、スーツケースの上にちょこんと座っているのを目撃。 くまの首からは「Please look after this bear. Tank you.」(どうか、このくまの面倒をみてやって下さい。感謝します。)と書かれた札がぶら下がっていた・・・。

この奇妙なくまは、「Darkest Peru  暗黒のペルー」から、ライフボートに乗って海を渡り英国へ辿り着いた移民。一緒に住んでいた、おばさんくまのルーシーが、リマにある老くまホームに入ってしまったのを機に渡英。小さい頃から、おばさんから、いずれ移住できるようにと、それは丁寧な英語を教わってきたので、英語は流暢で、丁寧な言葉使い。このくまに、行き場所が無いとわかると、ブラウン夫妻は、自宅に招く事に。難しいペルーの名前しかないので、イギリスの名をあげようと、出会った駅の名前を取って「パディントン」に。

こうしてブラウン夫妻と、息子のジョナサン、娘のジュディー、そして怖い顔をしながら、気は優しい家政婦のバード夫人と共に、ロンドンの西、ポートベロー・ロードに程近い、ウィンザー・ガーデンズ32番に住み始めるパディントン。

マイケル・ボンド氏の、第一作目「A Bear Called Paddington 」(パディントンという名のくま、邦題「くまのパディントン」)は1958年に出版。その後、パディントンの生活と冒険を追ったパディントンものは全14冊。今のところの最新作は、初作から50周年記念に出された2008年の「Paddington Here and Now」(パディントン今ここで)。

子供の時、児童図書館で、このパディントンシリーズの本の、表紙を見たのは覚えているものの、なぜか、実際、一度も読んだ事の無かった本なのです。イギリス土産として、人に、パディントン・ベアのぬいぐるみのお土産まで買った事もあるというのに。これは、1,2作は読んで、内容は知っておいたほうが良いかと、比較的最近になってから、上記2つの作品の他に、第2作目の「More About Paddington」(パディントンについてその後、邦題「パディントンのクリスマス」)の3作を収納したオーディオ・ブックを購入。寝る前に、ポンと、パディントンのCDをかけて、ベッドの中で聞く・・・という、まるで幼児の様な事をしたのです。

メインの登場人物は、ブラウン一家の他に、隣に住むケチで、意地の悪いカリーさん。カリー氏は、何かにつけ、パディントンを使って、物事を安く上げようとしたりするのですが、いつもそれが逆噴射して、自分に被害が降りかかる、というパターン。

後は、ポートベロー・ロードにアンティーク・ショップを構え、パディントンの大親友となる老人、グルーバーさん。グルーバーさんとは、彼の店で、毎朝11時に、イレブンシズ(elevenses)と称される、3時のおやつならぬ11時のおやつに、ココアとバン(bun、甘めの小型パン)を食しながら世間話をするのが習慣になります。最近はもう、イレブンシズなどする人も、ほとんど、いないようですが。

さて、パディントンのいでたちですが、帽子は、ペルーにいるときから、日射病にかからないよう被っていたもの。イギリスへやってきてから、冬用のコートと、夏のレインコートが必要と、ブラウン夫人に連れられ、デパートのバークレッジズでお買い物。冬用コートには、くまの前足では、ボタンでは大変なので、トグルで前を開けたり閉じたりできるダッフルコートを選ぶのです。ダッフルコートが欲しいと言うと、デパートの店員に、まず、ガバメント・サープラス(軍放出品)コーナーを見たらどうだ、と言われるあたりに、書かれた時代を感じました。

2008年出版の作品には、2000年に作られたロンドン・アイなども登場するのですが、50年経っても、登場人物たちは全く年を取っておらず、似たような生活を送っている。ポートベローやノッテング・ヒル・ゲイト界隈も、過去50年でかなり様変わりしていますが。まあ、メルヘンの世界に対して、そんな文句を言っても仕方がない。パディントンの物語の中では、ロンドンも、ウィンザー・ガーデンズ32番も、いつまでも、古き良きイギリスのまま。

さて、クイズ。パディントンの大好きな食べ物は?・・・・・答え、ママレード。ペルーでは貴重であって、特別なときにしか食べられなかった、この大好きなママレードが、イギリスでは毎朝、食べられるのがパディントンには、大きな喜びであるのです。ブラウン家の食卓では、チップトリー・オレンジ・ママレードなどを食べているのかな?

*追記
今年は、ロンドン・オリンピックにちなんだ、くまのパディントンの新作(Paddington Races Ahead)が、4月26日に発売されるそうです。ロンドンのリトル・ヴェニスに住む作者のマイケル・ボンド氏は、現在86歳。渋めの色のダッフルコートを着て、パディントンのぬいぐるみを抱えた氏の写真が、先日のロンドン地方紙、イブニングスタンダードに載っており、くまのパディントンが、いつまでたってもお行儀が良く、誰にでもきちんと挨拶するのと対照的に、ロンドン(及びイギリス社会一般)は無作法で、自分勝手な態度が増えてきていると嘆いていました。

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