骨髄移植

骨髄移植(造血幹細胞移植)を行った19日後、うちのだんなは、入院先の病院から退院してきました。今回の骨髄移植は、だんなの急性骨髄性白血病(M4、inv16)が去年の7月に再発した結果です。

去年の7月から10月終わりにかけて、3回に渡るキモセラピーで、レミッション(寛解、白血病細胞が見えない状態)は達成したものの、白血病の再発が1年以内であったため、再び病気が戻ってくる可能性が高いと判断され、先月、クリスマスの直前に、名も知らぬドナーさんに助けてもらい、骨髄移植となったわけです。骨髄液内にある造血幹細胞を他人から分けてもらい、それによって、願わくば、白血病の無い、新しい血液を造っていけるように。

骨髄移植の際、白血球の型(HLA型)がマッチするドナーを探す必要があります。ABO型の赤血球よりも、HLA型は数多く、複雑で、一致する場合が兄弟姉妹でも4人に1人と少ないという話を聞いていたため、同じ型で、ドナー登録してくれている人がいるか心配ではありました。ただ、医者からは、白人は、ほとんどの場合見つかると言われており、実際、かなり早い段階で、一致するドナー登録者が軽く10人以上いると判明。イギリス内で数人、また、ドイツにも数人見つかり、有り難い話です。イギリスは人口比でドナー登録者数が比較的多い国ですが、ドイツは、更に、登録者の数が非常に多く、ここでドイツと出てきたのも、わかる気がします。

秋にはすでに、型が10中10一致し、血液型もB型と同じ、ロンドン在住の20代の男性ドナーが、提供してくれるという事で、話が進んでいたのですが、直前にこのドナーがCMV(Cytomegalovirus サイトメガロウィルス)というウィルスを持っていることがわかり、再び、新しいドナーを探す必要から、11月に予定されていた移植が1ヶ月ずれこみました。このCMVは、何でも、人口の半分は持っているウィルスで、健康体であれば、キャリアーでも問題ないのだそうですが、白血病の治療を受けている、体の抗体が無い患者がこれをもらってしまうと、危険なのだそうです。このドナー候補の男性は、登録した時点では、CMVを持っていなかったものを、途中で感染してしまい、採取前のテストで発覚したらしいのです。こういう事もあるため、一人の患者につき、複数のドナー登録者が見つかることが理想なのでしょう。

と、この最初のドナーの話が駄目になってから、1週間と経たないうちに、血液型はO型と違うものの、HLA型は、やはり10中10一致するドナーが見つかった、と病院から連絡。この人もやはり、ロンドン周辺在住の20代男性。なんでも、20代から30代の男性が、一番、採取の量が多く取れるそうで、一致があれば、この年代の男性に依頼する事が圧倒的に多いのだそうです。というわけで、現在イギリスでは、このカテゴリーにはいるドナーの登録を増やす努力をしているようです。

ドナーが見つからなかった場合は、へその緒から取った臍帯血移植などを行うようですが、こちらは、骨髄移植に比べ、成功率が下がるという話を耳にします・・・詳細はわかりませんが。

ドナーさんからの造血幹細胞採取の方法としては、下の2つがあります。

*Bone marrow harvesting
骨髄液を、腰骨の下辺りから巨大注射器で採取。大手術ではないものの、全身麻酔が必要。また、採取後、2,3日、療養が必要な場合アリ。

*Peripheral blood stem cell harvesting
造血幹細胞は、骨髄液内にあるものの、普通、少量が血流の中をさまよっているそうです。これを、抹消血幹細胞と呼ぶそうですが、骨髄液を採取する代わりに、これを、血流から採取する方法。この場合、数日間、血管を流れる幹細胞を増やすホルモンを注射し、後、献血と同じような感覚で、血管から採取。採取後は、ほとんどの場合、療養の必要はなし。

最近は、イギリスでは、抹消血幹細胞を血流から採取する方法を選ぶドナーが増えているようです。ドナーさんにとっては、こちらの方が、少しでも身体に楽ですし、依頼されるのが働き盛りの男性が多いとあっては、特に、採取の次の日から活動ができて、入院の必要が無い、というのも、こちらの方がいいのは当然です。ちなみに、だんなのドナーさんが、どちらで採取したかは、病院側から知らされませんでしたが、おそらく後者でしょう。

だんなは、移植に備えて、約1週間前に入院し、事前に自分の造血幹細胞を撲滅するためのキモセラピーを受けました。最初からシャワートイレ付きの個室で、移植前にも、何かばい菌をもらってしまうと困るので、廊下にも出れない状態。この無菌室で退院までの約1ヶ月を過ごしました。窓からは、向かいの病棟の壁が見えるだけ、外の天気もはっきりわからない部屋。静かで、良く眠れるという利点はあるけれども、他の患者と一緒の病棟だったときは、色々と周りのベッドの人たちと話をして、症状を比べたり、情報交換でき、「こんな思いしているのは自分だけじゃない」という連帯感もあったようですが、隔離された状態だと、そういった交流が無くなり、テレビやインターネットはあるものの、気分的に、少々世界から切り離された感はぬぐえなかったようです。

移植自体は、実際、20分かかるかかからないかのもので、後戻りの利かない一大イベント、という実感は、あまり無かったようです。大静脈に挿入され、胸からプラスチックのチューブが釣り下がる形になっているヒックマンライン(上の図)から、ドナーさんの幹細胞を、キモセラピーや、輸血を受けるのと同様の感じで注入。(このヒックマンラインは、キモセラピーや輸血、または採血のため、何度も何度も、患者の血管に針を突き刺す必要を無くす意味で、簡単な手術により挿入されるもの。)

こうして、移植により、身体に入った新しい幹細胞は、血流に乗って巡回し、やがて、骨髄に入り込んでいくのだそうです。そして、やがて定着して新しい血液を造り始める。卵を産むために、生まれた川を上っていく鮭のようです。

移植数日後、移植の影響というより、先に行ったキモセラピーの影響で、舌と口内が腫れ始め、しばらくは流動食、喋るのも大変で、私とスカイプのビデオトークなどをしていても、喋るとよだれがたれてしまい、痛いらしいので、私が一方的に喋って、彼は頭を縦に振ったり横に振ったり、驚いた顔をして見せたり、と、これは1週間くらい続いたでしょうか。やはりキモセラピーの影響で、毛も抜け。今回は、過去の治療よりもずっと多く体中の毛が抜けてしまった感じです。眉毛だけはしっかり残りましたが。

看護婦さんからは、常時、感染で、「発熱や嘔吐が起こって、もっと状態がひどくなるかもしれないからね」と念を押され、「今現在、病棟の中で、一番元気なのはあんただ。」などとも言われ、いつ、もっと酷い症状になるのやら、びくびくしながら待っていたのですが・・・。幸い、感染による発熱などは全く無く、疲れる、口内が痛い、時折、血便が出る、云々を除いては、比較的、軽い症状でここまでこぎつけた感じです。そんなこんなで、わりと早期の退院となりました。

退院前に、感染している事がわかったヒックマンラインを除去する簡単な手術も行いました。上の写真が、その除去手術に使ったピンセット、はさみ、メスの類ですが、医者によると、狂牛病などの影響で、これらを消毒するための機械を導入するのには、大変な高額が必要であるため、一度こうして使ったものは、捨ててしまうのだそうです。その方が、病院側には安くつくのだそうで。だんなは、もったいないから、ともらって帰ってきましたが、何に使う気でしょう・・・。金属の値段が世界的に上がっている中、病院も、こういったものを、全てまとめて、スクラップメタルとして売れば、少しはお金になり、経費節約になるか、と思うのですが。

移植日から、まだ日も浅く、この後、まずは、ちゃんと新しい幹細胞が、定着しているかを知る必要がある上、急性、または慢性のGvHD(Graft versus host disease  新しいドナーの幹細胞が身体を異物として攻撃する病気、皮膚、肝臓、腸などが特に影響される事多し)などの病気が発生する恐れ、更には、白血病の再発の可能性も消えたわけではないので、まだまだ病院通いが続く日々とはなるでしょうが、とりあえずは、無償で、幹細胞をくれた優しいドナーさんに感謝。だんなにとっては、すばらしいクリスマスプレゼントとなりました。

血液型は、やがてドナーさんと同じO型と変わるようです。だんなは、いつも日本人が血液型で性格判断するのは、非常に非科学的で全くもって根拠が無い、と言ってたのですが、私が、「変人のB型から、おおらかでリラックスしたO型になれるね」というと、それが大変気に入ったようで、「妻によると、自分は移植で、変人からリラックスした人物にかわるようだ」と看護婦さんに宣伝しまくり、知り合いにも、さかんにそういってメールをうって悦に入っていました。O型は、イギリス人には比較的多い型のようですが、自分の血液型を知らない、という人、こちらでは、結構いるようです。

退院して2,3日経ち、とにかくまだ疲れるようで、歩くのはのろのろ、距離も長いのはだめ。後は皮膚がぼろぼろとはがれ落ち、かゆみがあるようです。この対処のためには、水溶性クリームのE45というものを買ってきてつけていますが、さほどの効果は今のところありません。本日は、シャワー用に、赤ちゃんむけの身体を洗うジェルも購入してきました。この肌のあれやかゆみが極度になり、赤くただれだしたら、GvHDの可能性があるので、病院に連絡するよう言われています。

味覚も少々おかしくなっていて、楽しみにしていた家での食べ物が、それほど美味しく感じられず、味がわからないのだそうです。病院でもらってきた移植に関する小冊子には、甘いものに対する味覚が一番最初に戻るそうなので、アイスクリームを買ってきて食べさせると、これは、美味いとぺろりと平らげていました。また、ドロップのようなものを、時折口に放り込んで、これも美味しいと思うようです。

しばらく飲み続けなければならない薬も山ほどあり、これを飲むのが、また至難の業になっています。昨夜と今朝引き続き、薬を飲んでいる最中に、「こんな気色悪いものもう飲めない」と嘆きながら、ゲロゲロもどしてしまっていました。

こんな思いをした後でも、移植が成功しない人もいます。実際、移植後4年以内で亡くなってしまう患者さんも少なく無いようです。それでも、移植は、白血病患者にとっては、完治の可能性を与えてくれます。実際、余命xx年などと言われてみたところで、その人より先に周りの人間が突然死んでしまう可能性だってある、医者の言ったことにかかわらず長生きする患者もいる、運命なんて計り知れないものです。とりあえず、今、まだ、生きてここにいて、楽しいと思えること、やりたいと思うこと、がある限りは、それでよしとしておきます。

*上で使用したヒックマンラインの図は、癌患者のためのチャリティー団体、MacMillan Cancer Supportが作製した急性白血病に関する小冊子に載っていたものを拝借しました。

*骨髄移植、ドナーに関する日本語の文献では、下のリンクの物がとてもわかりやすく書かれています。
骨髄移植について

コメント

  1. ご主人、食べ物の味がわからないのは辛いですね。血液型が変わるのですから体内では大変なことが進行中なのでしょう。夫も血液型を知らない一人です。日本に来ると血液型を訊かれることが多いから確かめておくようにと言ったのですが、血液検査が好きで彼が吸血鬼とあだ名していた主治医は「言ってくれたら調べておいたのに。生まれた病院にでもきいてみたら」だったそうです。

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  2. お返事遅れました。書き込もうとするとページがブランクになっていたのですが、スタイルを変えたらやっとの事で、記入できました。それでも、スクロールバーが上手く作動せず、妙に動きが鈍いです。そのうち、直るかと期待していますが・・・。
    先週土曜に再入院となってから、まだ退院していないのです、実は。相変わらず口だけは達者にしていますが。血液も、まだB型のものを受けていて、移植成功したかは、いまだ不明です。はやくドナーさんのO型で血を作り始めてくれないかと思っていますが。私のGPも何かにつけ、全く関係ないと思われるようなことでも、血液検査をしたがる人です。ご主人の血液型、何でしょうね。そのうち判明する事でしょう。

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