サウスエンド・オン・シー

世界一長いサウスエンド・ピアの上を走る列車
「ピア(桟橋・埠頭)と言えば、サウスエンドであり、サウスエンドと言えば、ピアである。」

(The Pier is Southend, Southend is the Pier.)

と、ヴィクトリア朝に建てられた建築物の保護を唱え、セント・パンクラス駅舎を取り壊しから救った、列車好きの、かつての桂冠詩人、ジョン・ベッチャマン(John Betjeman 1906-1984)は言ったといいます。・・・確かに!私たちが、エセックス州サウスエンド・オン・シー(Southend on Sea)へ出かけた理由も、2158メートルという世界一の長さを誇る、そのサウスエンドのピアを見るためでしたから。かつて訪れた、やはりエセックス州のウォルトン・オン・ザ・ネイズのピアは、イギリス国内で3番目の長さを誇るものでしたが、サウスエンド・ピアは、軽くその倍以上の長さがあります。地図上で見ても、テムズ川河口の北岸から一直線に飛び出しているこのピアは、「お、こりゃ、なんじゃ?」と、ぱっと目につきます。

そして、サウスエンド・ピアの、更なるアトラクションは、その上を列車が走っている事。2台ある列車の一台は、サー・ジョン・ベッチャマンと名付けられ、もう一つは、サー・ウィリアム・ヘイゲイト。このウィリアム・ヘイゲイト(William Heygate)という人物は、19世紀初頭の政治家で、ロード・メイヤーにもなった人物。サウスエンドにピアを建設する運動に尽力した功績から、列車に、その名が記念されています。

最初に、ここに、まず木製のピアが建設されたのは、昔々の1830年に遡り、それが、現在のピアの土台となる鉄製のものにに作り直されたのが1889年。観光客を乗せてやってくる蒸気船の数が増え、それらを碇泊させるため、ピアを更に延長させたのが、その約10年後。現在の長さの2158メートルまで延長されるのは、20世紀に入ってからの、1929年となります。(余談となりますが、蒸気船で、ロンドンから、海辺のリゾートに出かけると言うと、画家ターナーの人生後半部を描いた映画「ターナー、光りに愛を求めて」内で、ターナーがロンドンから蒸気船に乗って、彼のお気に入りであったケント州の海岸線の町、マーゲートに出かけるシーンがあったのを思い起こしました。)

ロンドンからサウスエンドまでの電車が開通した後は、とにかく、ロンドンまで日帰りで行ける海岸という事で、特に東ロンドンの労働階級の観光客が、休日にどーっと押し寄せて、当時は、ホワイトチャペル(東ロンドンにある地域)・オン・シーなどと異名を取ったようです。

上を走る電車が導入されるのは、鉄製のピアが建設されてすぐの1890年。ピアは、第2次世界大戦中は、海軍の管轄となりますが、戦後、再び、一般観光客に開放され、一大人気となるのです。が、海外旅行などが、身近な時代となってくると、イギリス各地のシーサイドリゾートは廃れ初め、ピアの電車の運行も行われていなかった時期もあります。

多くのイギリスの桟橋の御多分に漏れず、サウスエンド・ピアも、その長い歴史の中、火災の被害を被ったり、船が激突して破損するなどの災難に合っており、その度に大金のかかる修復作業が行われてきました。

ここ数年、サウスエンド・オン・シーは、新しく、ルネサンスを迎えている感じで、夏の国内観光地としての人気は上がる一方。学校が休み中のからりと晴れた日にでも行こうものなら、サウスエンドの海岸線は、芋の子洗うような騒ぎとなっています。

サウスエンドには、ロンドンのフェンチャーチ・ストリート駅から来るサウスエンド・セントラル駅と、ロンドンのリヴァプール・ストリート駅発のサウスエンド・ヴィクトリア駅の2つの駅があります。両駅とも、海岸線、及びピアまで、広々したハイストリートを抜け、一直線、簡単に歩いて行けます。ピアの始まりの海岸線に沿っては、ちょっとした遊園地であるアドヴェンチャー・アイランドがあります。私たちは入りませんでしたが、子供連れの人にはいいかもしれません。

当然、ピアの端から端まで、往復、歩いて行けるわけですが、せめて片道は電車に乗りたいので、行は歩き、帰りは電車というチケットを購入。往復電車に乗るチケットとさほど値段が変わらないのが、上手い商売だな、と感じました。大体の場合、私たちのように、片道は歩いて、片道は電車に乗りたいと思うのが人情ですから。ちなみに、往復歩きでも、多少の入場料がかかります。近くにサウスエンド空港という空港があるためか、ピアの上を、小さなスーツケースを引きずりながら歩いている人たちも何人か見かけました。出発時間を待つ間のちょっとした観光でしょうか。

テレビで、有名シェフのジェイミー・オリバーが、料理番組を放送しているレストラン・カフェが、このピアの途中にあります。サウスエンドの人気上昇には、このテレビ番組も一役買ったかもしれません。撮影が無い日は、当然、ジェイミー・オリバーは、ここにいませんので、悪しからず。普通はカフェとしてオープンしているようですが、この日は、外の天気が良かったためか、内部にお客は一人もいませんでした。

「毎日、回収」と書かれた郵便ポストがありました。こんなところから絵葉書を落とすのも乙ですね。消印は、ちゃんと、サウスエンド・ピアとでも入れてくれれば尚更いい。

先端の見晴らし台から、景色をながめながら、電車の時間を待ち。ピア電車、サー・ジョン・ベッチャマンに乗り込む時は、童心に返って、ちょっとわくわくでした。

私たちは、この日、サウスエンド・ピアで遊んだ後、サウスエンド・セントラル駅から10分足らずで到着するリー・オン・シー駅で降りて、先日記事にした、ハドリー城を訪問してきました。

コメント

  1. もう夏休み気分ですね。こちらは梅雨まっさかりで雨とくもりばかりです。気温も低く、今年は冷夏かもしれません。

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    1. ここへ行った日は、暑すぎず、気持ちの良い日でした。

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