ベス・チャトーのガーデン

適材適所という言葉があります。それぞれの人間を、その人の気質・特徴にあった内容の仕事や役目につかせる、というような意味で良く使われていますが、愛想のいい明るい人なら、セールスや客商売、細部に気の届く、数字に強い人なら会計などの仕事・・・といった感じ。

植物にも、適材適所というのがあります。・・・というより、自然の成り行きで、砂漠では、水が無くても育つように進化したサボテンのような植物のみが生き残り、沼地では、ぐちゃぐちゃと湿った場所でも腐らないような体質を整えた植物ができあがった。ある条件の場所で生きていくために、それに見合う特徴を持った植物が成功するという意味で、適所適材と言った方が妥当かもしれません。

自然の世界ではそうであるものを、これを人が作った庭園となると、人間の手が入るため、好きだから、綺麗だから、と、ある種の植物を、その特徴に合わない場所に無理やり育てる、という事は多々あります。よって、育てる側は、場違いの植物が、ハッピーに育つような環境を人工的に作り上げねばならず、あの手この手で、面倒を見て、リラックスして楽しむための庭園に振り回され、疲れ果てるような事態も起こります。金があれば、庭師をやとえばいいでしょうが。

手間がかかるだけなら、個人の勝手で、まあいいですが、最近は、環境問題につながることもあります。以前、イギリスから移住した人たちが、オーストラリアでも、イギリスでのようにエメラルドの芝生を自分の庭に敷きつめ、乾燥した気候の中でも茶色くならないように、常にスプリンクラーで水やりをする必要があり、水不足に拍車をかけているという話を読んだことがあります。昨今、地球温暖化が騒がれる中、ますます、猛暑の夏を経験する国で、濡れるような芝生などと言うのは、植物の適所適材にまっこうから反抗するような感じです。こういう無理は、そろそろ、諦め時かもしれません。

エセックス州でイングランド最古の街として知られるコルチェスターの近く、エルムステッドマーケット(Elmstead Market)という場所に、有名なべス・チャトー・ガーデン(Beth Chatto Gardens)は、あります。

去年(2018年)に、94歳で亡くなった、園芸家のべス・チャトーは、ご主人と、1960年に、当時は、荒れ地であったこの場所を、開拓して庭園作りを開始。このガーデンのポリシーは、それこそ、植物の適所適材。エセックス州は、イングランドで一番雨量が少ないとされる場所なのですが、にもかかわらず、基本的に、あまり水やりをする必要がないガーデンであるそうです。


庭園内には、粋にボートなんぞをとめた、大きな池があり、

この周りには当然、湿地を好む植物が植えられ、

じゃら石を敷き詰めたグラベル・ガーデンには、特に乾燥に強い植物が配置。

私が、初めて、このガーデンを訪れたのは、2007年の夏で、その時に取った、鉢植えの多肉植物コーナーの写真の奥の方に、白髪の夫人が鉢植えをひとつ作っている姿が映っていました。もしかして、これは、本人のべス・チャトーだったかもしれないと、今になって思います。まあ、庭師の一人という可能性もありますが。

私が一番気に入ったのは、このパティオ部分です。こんなとこに、ベンチ置いて座って、読書したり、ずっと庭をながめていたい。

うちの旦那の昔の同僚は、かつて、このべス・チャトー・ガーデンのそばに住んでおり、庭の奥でミツバチを飼っていたそうなのですが、当ガーデンのおかげで、かなりの収穫で、美味しい蜂蜜にありつけた、というような事を言っていました。

基本的に水やりは必要がない、とは言うものの、やはり芝生の部分は、乾燥する夏には、緑色にとどめるために、多少なりとも、水をやっているのではないかと、私は思いますが。お金を取って見せる庭園としては、さすがに茶色の芝生というわけにもいかないでしょうし。上にも書きましたが、これからイギリスでも、夏がどんどん熱くなるとしたら、広大な芝生の部分をどうするか、というのは、水の節約、エコを考えるうえでも問題になっていくかもしれません。

園内には、植物が買える大きな植物販売所(ナーサリー)、そして、そのナーサリーを望むようにして、軽食が食べられるカフェもあります。園内でのお弁当は、確か、許されていなかったと思うので、お弁当やサンドイッチなどを持って行ってしまうと、駐車場の脇にある、しがないテーブルで、植物ではなく、バスのおしりを見ながら食べることになります。実際、そのテーブルで、持ってきたピクニックランチを食べている人を目撃しましたが、あんなとこじゃ、美味しくないでしょう。カフェに向かうのが無難です。

こちらの園芸家は、荒れ放題の土地を買って、一から、自分の思うような庭を造るという人がわりといますが、これだけ、家や土地の値段が高い現在イギリスにおいて、若い世代で、こういう事ができる人は、限られてくるでしょうね。よほどの金持ちか、土地持ちの家に生まれた子供でないと。ある意味、こういう事を、これからやろうと思ったら、過疎化の進んでいる現在の日本の田舎の方が、案外、若い人にもやりやすく、可能性もあるかもしれません。ガーデンの好きな若い人、村おこしも兼ねて、こんなタイプの庭園づくりはどうでしょう。

当ガーデンの公式サイトはこちらですが、園芸好きな日本人むけに、日本語のページがあります。

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