べドラム墓地の骸骨たち

ロンドンのリバプール・ストリート駅(Liverpool Street Station)。ロンドンの東部、シティー内に位置するこの駅は、昔々、悪名高きべドラム精神病院があった場所です。現在、駅構内のすぐわきでは、ロンドンの東部と西部を繋ぐ新しい路線である、クロスレール(Crossrail)の建設工事のために、地面が掘りおこされています。

リバプール・ストリート駅のみで無く、クロスレールの通る、ロンドンのあちこちで、地面が掘られているわけですが、ロンドンの様に、昔から、多くの人々が住んだ土地を掘ると、出てくるのは、過去の色々な遺品。すでに、現段階で、クロスレールの40の工事現場から、1万以上の遺物が出土されているそうで、ロンドンの考古学者や歴史家にとっては、またとないチャンス。クロスレールは、現在、ヨーロッパ最大のエンジニア・プロジェクトであるばかりか、一大発掘プロジェクトとも化しているのです。特にシティーは、ロンドンが始まった場所ですから、工事で何かにぶちあたる可能性は大。

そして、やはり、リバプール・ストリート駅の脇から、でてきたのです、3000以上に及ぶといわれる骸骨が。(上の写真は、BBCのサイトより。)

なんでも、この場所は、べドラム墓地(Bedlam burial ground)、ベツレヘム墓地(Bethlehem burial ground)または、新墓地(New Churchyard)などと称され、1569年から1738年あたりまでの長い期間使用された、ロンドン市民の埋葬場所であったというのです。べドラム(ベツレヘム)精神病院近くにあったため、この名がついたようですが、べドラムの患者達を埋葬した場所ではないという事。患者のうちの、ひとりやふたりは、埋葬されていてもおかしくない気はしますが。

ロンドンの各地域の教会の墓地が満杯になっていき、新しい埋葬場所の必要性から、この地に墓場が設けられ、ロンドン内あらゆる場所から運ばれてきた、色々な階級、色々な年齢の人物の死体がここに眠っていたのです。1665年の黒死病、1666年のロンドン大火の時期を含む埋葬地であり、この時期の考古学的発掘として、ロンドンで最大規模、そして最も貴重なものと見られ、この出土には、学者たちの期待も大きく膨らんでいるようです。最近は、DNAなどで、身元の確認などができる可能性も高いですしね。自分のご先祖様が、ここに埋葬されている、などという人物も、すでにテレビのニュースに登場していましたし。この骸骨達が、何を語ってくれるのでしょうか。

今のところ60人の考古学者たちが、交代のシフトで、週6日間、発掘に励み、あと1ヶ月くらいで、骸骨達を全部出土したいところのようです。そして、その後は、さらに掘り進め、先の時代の中世、そして、ローマ時代の層も掘り進んでいく、という事。この場所の下には、ローマ時代の道路が走っていたという事なので、このローマ時代の層で、また何か大発見があるのかもしれません。発掘をすべて終え、ここでのクロスレール建設工事自体が、実際に開始されるのは、今年9月の予定だそうです。

リバプール・ストリート駅より少々西へ行った、べドラム精神病院の2番目の建物のあったフィンズベリー・サーカス(Finsbury Circus)も、現在、クロスレール建設関係の工事で閉鎖されています。私、ここで何度も、憩いのひと時を過ごした思い出があり、この広場にあった、由緒正しそうな水飲み場(上の写真)が、とても好きだったのですが。クロスレールの工事終了後、フィンズベリー・サーカスは、また昔どおりの姿に戻るという話なので、この水飲み場も、今はどこかにちゃんと保管されていて、戻ってきてくれるといいな、と思っています。

さて、クロスレールですが、ロンドン中心部を横断し、西はバークシャー州レディング、東はエセックス州シェンフィールドまで延びる路線。新しい金融の中心地カナリー・ウォーフや、ヒースロー空港などを結ぶ中間地点の開通は、今のところ、2018年に予定されているようです。確かに、現状では、シティーなどのロンドン東部からの、ヒースロー空港及び西部への連結は、芳しくないのです。地下鉄で長い時間をかけて、ぽこぽこ行くわけですから。昔の職場で、ベルギー事務所の同僚が出張でロンドンへ来る時、いつも、ヒースロー空港を使うのがおっくうで、時間がかかるからと、ユーロスター使用で電車で来るか、その切符が取れないときは、多少航空運賃が高めになっても、シティー空港を使用していました。そんなのも、クロスレール開通で、ちょっと便利になるかもしれません。参考までに、クロスレールの路線図は、こちら

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