暴動の予感

カイザー・チーフス(Kaiser Chiefs)なるロックバンドによる「I predict a riot」(暴動の予感、とでも訳しましょうか、日本ではただ、「ライオット」として知られているようですが)という歌がありました。

ヨークシャー州リーズ出身の当バンド、リーズのシティーセンターで、飲んだくれによる暴動が起こりそうな気配を歌ったものらしく、確かに歌詞を読むと、わかるわかると思うのです。最近は、イギリス中どこへ行っても、週末の夜のタウンセンターは避けた方が良いくらい、酔っ払いの若者による乱痴気騒ぎ、多いですから。イギリスは紳士淑女の国?ご冗談でしょ!

Watching people get liary
It's not very pretty I tell thee
Walking through town is quite scary
It's not very sensible either

酔って攻撃的になってきたやつらを眺め
あんまり、いいもんじゃないよな、ほんと
町を歩くのもちょいと空恐ろしい
賢明な事でもないし

Uチューブで聞くカイザー・チーフスの「ライオット」

大学費値上げの採決が国会で行われた昨日、学生のデモが暴力沙汰へとエスカレートして、暴動がひき起こりそうな予感は昼からすでにあったのです。サッチャー時代の人頭税デモの際も、暴動はウェストエンドの繁華街にも飛び火していた。それなのに、後のイギリス王とその夫人をロールスロイスに乗っけて、町の目抜き通りを通ろうなどと、それこそ「It's not very sensible 」。普通のロンドナーでさえ、こんな日に、高価な車で町を通るのなど避けるだろうに、王室のセキュリティーは何を考えていたのやら。というか、何も考えなかった、のでしょうね、これは。

チャールズ皇太子とカミラ夫人の乗った車が襲われたBBC記事はこちら。このサイトのビデオの中で、車を攻撃する輩の一人が「Off with their heads!」(奴らの頭をちょん切ってやれ!)と叫んでるのが聞こえます。

夜のテレビニュースを見ながら、ライブで入ってくる国会周辺の映像で、財務省の建物の窓ガラスを割ったりする輩のうちの何人かの容貌は、学生と言うよりも、それこそリーズのタウンセンターあたりで大暴れする類の、ちんぴら(thug)風。こういうプロテストやデモがあると聞くと、暴動の予感を嗅ぎ当て、喧嘩や暴動が大好きな人間が、プロテスト内容には全く興味も無いのに、大暴れしたいばかりに参加する事もあると言います。実際、はるばる海外から来た人間もいるというのだから、ご苦労様な事です。

プロテスト中、第一次世界大戦以来の戦争で命を落とした兵士の慰霊碑であるCenotaphによじ登った人物がいました。これが、ロックパンド、ピンク・フロイド(Pink Floyd)のギターリスト、デイヴィッド・ギルモア(David Gilmour)の息子(血は繋がっていない)と発覚。何でも、このお坊ちゃま君、以前はモデル、そしてジャーナリストになろうと試みたものの、だめだったか、現在はケンブリッジで歴史をお勉強とやら。大金持ちのパパを持ち、学費がたとえ、年間9000ポンドになったとて、彼なんかには屁のかっぱでしょうに。遊び半分でプロテストに参加した口でしょう。

後で、非難を受けた彼、「慰霊碑だとは気づかなかったんです。ごめんなさい。」と謝ったそうですが、ケンブリッジで歴史を学ぶ学生が、Cenotaphを知らないとは、本当だとしたら、かなりお粗末。ラジオで、この事件が話題になり、ピンク・フロイドのヒット曲「アナザー・ブリック・イン・ザ・ウォール」の歌詞の一文を取り、「We don't need no education (教育なんて要らないもん)てやつだね。」とからかわれていました。「気がつかなかった。」という彼の言葉が、ただ言い逃れるためだけの嘘だとしても、慰霊碑によじ登る事が、後でどんなにひんしゅくを買うかの判断も付かぬような思慮の無さでは、馬鹿にされても仕方が無い。

この事件に関する記事はこちら。上の写真もこのサイトより拝借。

Uチューブで聞く「アナザー・ブリック・イン・ザ・ウォール」はこちら

ちなみに、「We don't need no education」は、ダブル・ネガティブで、文法的に間違ってるわけなので、こういう喋り方する子供は、教育必要なのです。

2000年のメイデーの反資本主義デモでも、チャーチルの彫刻が攻撃されて、頭に緑色のモヒカンのかつらを被らされたりしていたのが記憶に残っていますが、今回も、グラフィティーを書かれ、おしっこを引っ掛けられと、被害を蒙っていました。

そして、第2次世界大戦に助けられたお礼にと、毎年ノルウェーから送られてくるトラファルガー広場のクリスマスツリーにも火がつけられ。学生諸君、メリークリスマス!

ただ、学生にも、同情の余地はかなりあるのです。トーリー党と共に、連合内閣を形成するニック・クレッグ率いるリベラルデモクラッツ党(Lib Dem)は、選挙で、「大学の学費は上げない」と公約。それを信じて、Lib Demに投票した学生もかなりいたわけで。票を入れた大きな要因のひとつをこうも簡単に裏切られては、「何のための民主主義か」と、怒り、幻滅する気持ちもわかります。

ニック・クレッグの総選挙前の公約を見てみよう。

野党の労働党とて、反対はするものの、実際、学費を上げずに、政府の予算を削りながら、どう大学の資金繰りをするのか具体的方針は一切明確にせず。

大学側や、教授陣には不人気でしょうが、大学の研究費を削る、というのも解決策の一つかと私は思うのですが。表面的には、若者の教育は大切などといいながら、学生なんてどうでもいい、できれば、教えるなんてしたくない、自分の研究に専念できるのが一番、と思っている教授、口には出さずとも、多数派だと思いますので。そして、また、その「研究」のうちのどれだけが、本当に社会に貢献しえるものであるのかも、議論の余地があるところ。確かに、医学やサイエンスの研究は大切なもの多いでしょう。でも、やりたかったら、公費を使わず、自分の金か、スポンサーを探して研究してくれ、と思えるようなものも、かなりあるはずです。研究がキャリアの向上につながり、教える事に時間を費やす事は報われない、という大学の体質の改善も必要かと感じます。

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