ロビン・フッドとアイ・ドゥ・イット・フォー・ユー

1991年公開、ケビン・コスナー主演の「ロビン・フッド」(Robin Hood: Prince of Thieves)は、名が知れていながら、見ていなかった映画のひとつでした。当時、映画のテーマ曲となった、ブライアン・アダムスの、 "(Everything I do)  I do it for you"(日本語タイトルは、アイ・ドゥ・イット・フォー・ユー、直訳は、僕のする全ての事は、君のため)が、大流行していましたが。この歌に関しては、ちょっとした思い出があります。

かれこれ、もう15年ほど前になりますか、だんなと、車でイングランド北部のヨークシャーへ、A1という道路を通って移動中に、途中からずーっと、私たちの前を同じトラックが走っていて、このトラックの後ろには、「ブライアン・アダムス」と書いてあり、どうやら運搬会社のトラックの様でした。A1は、ノッティンガムシャー州で、ロビン・フッドが、仲間たちと住んでいたとされるシャーウッドの森の周辺を通るのですが、そこを通過中に、だんなが、ふと「このブライアン・アダムス運搬会社、トラックに、Everything I do, I do it for youって書いて、会社のキャッチフレーズにすればいいのに。」と言って、二人でしばらく、けたけた笑ったのを、いまだに覚えています。以来、ケビン・コスナーの「ロビン・フッド」の話が出たり、「アイ・ドゥ・イット・フォー・ユー」が流れると、ブライアン・アダムス運搬会社のトラックが私たちの前を走る姿が脳裏に浮かぶのが常です。

イギリスのコロナウィルスによるロックダウンもそろそろ3か月となり、今まで見ていなかった映画、または、大昔見て、また見たくなった映画などをほじくり返して、お茶の間映画館で鑑賞していますが、ケビン・コスナーの「ロビン・フッド」もやーっと見ました。おそらく、公開時は、「なんか臭そうだな」と思い、見に行かなかったのだと思います。感想、やっぱり臭かった・・・が、その臭さも、あそこまで、どうどうとしていると、逆に、妙に面白かった。

特に、見るからに悪そうな、アラン・リックマン扮する、ノッティンガムのシェリフ(シェリフとは、イングランド各地方・シャイアを、王に代わって行政をする代官の事)に無理やり結婚させられそうになった美女マリアンを、ロビン・フッドが、瀬戸際で駆け込んで、シェリフを殺し、無事助けたあとのワンシーン。「やっぱり来てくれたのね。」というマリアンに、「君のためなら死ぬ。」と、世にも恥ずかしいセリフを、しゃーしゃーと言うケビン・コスナーに、あちゃー!くさいやら、こそばゆいやら、可笑しいやら。こんな男いないよ、と思いながらも、夢を売るハリウッド映画のエンタメはこうでなくっちゃと思った瞬間です。そして、映画の最後に流れるのが、「アイ・ドゥ・イット・フォー・ユー」ですから。

話はちょっとはずれますが、「君のためなら死ねる」って、「1,2の三四郎」という小林まことの漫画に出てきた、キャラクター、岩清水健太郎の決まり文句でしたっけ。岩清水は、「死ねるリスト」なるものをつけており、素敵な女の子に会うたびに、「xxちゃん、君のためなら、死ねる」といって、その女の子の名前をリストに加えるというギャグ。ずいぶん前に読んだ漫画で、記憶が定かかどうかわかりませんが、たしか、岩清水のの名言のひとつに、「心に棚をもて」というのもあったと思います。たとえば、A子ちゃんと付き合っている自分がいるとする、そこで、B子ちゃんというかわいこちゃんと出会う、その段階で、A子ちゃんと付き合っている自分を、しばらく心の棚に置いて、B子ちゃんとも付き合う、というものでした。おとぎ話のロビン・フッドは、心に棚をもったりせず、マリアン一筋でなきゃなりませんが。

映画では、ロビン・フッドは、ノッティンガムシャーのロックスリーという貴族の家に生まれ、十字軍の遠征に参加。遠征先で捕らわれの身となっていたのを、モーガン・フリーマン演じるムーア人と脱出し、共にイングランドへ戻る。自分の城に戻ると、父は、十字軍の遠征から戻っていないリチャード1世の不在を利用して、イングランドを手中に収めようとするノッティンガムのシェリフに殺されていた。リチャード1世のいとこという設定のマリアンは、ロビン・フッドのおさななじみでもあり、シェリフからは、理想の結婚相手と目をつけられている。シェリフを敵に回し、シャーウッドの森に逃れたロビンは、そこで、リトル・ジョン(ジョン・リトル)をはじめ、シェリフに反対する他のアウトローたちに出くわし、彼らを訓練することで、本格的に、反シェリフの部隊を結成する・・・そして、クライマックスの決戦へ続く、というもの。

弓の名手のロビンは、伝説では、木にささる矢頭を的として弓を放ち、みごと、ささっていた矢をしゅぱっと割る、というのがありましたが、そのシーンもちゃんと出てきます。

最後のロビンとマリアンの、仲間たちに囲まれての、森の中での結婚には、いきなり遠征先から戻った、上機嫌のリチャード1世(ショーン・コネリー)が現れる、という設定も無茶苦茶でした。リチャード1世は、イングランドよりも、フランスの領土を大切とし、王となってから、イングランドに滞在したのは、ほんの数か月だけ、実際、喋る言葉もフランス語だったと言われている人ですが、気にしない、気にしない。冒険、戦い、恋愛、善悪を、これだけ簡素化して描いて、ある意味あっぱれ。有名俳優たちが集まって、自分たちが楽しめる学芸会をやったようなのりです。若かったら、映画館に友達と足を運んで、ポップコーン食べながら見て、後で、わいわい、可笑しかったね、楽しかったね、変だったねーとお茶しながら喋りたくなるような類の映画。

Aysgarth Falls

ロケ先のひとつ、ロビンとリトル・ジョンが初めて森の中で遭遇し、決闘する場面で、ヨークシャー州のエイズガースの滝(Aysgarth Falls)が使用されていました。やはり、15年ほど前、ヨークに住んでいた時に訪れた場所で、懐かしかったです。滝、と言っても、高い山が無いイングランドの事、エイズガースの滝は、階段の様な、段々に落ちていく滝で、エイズガース村の近郊から、ヨークシャー・デールの中を、ウォレスとグルミットのウォレスが大好きなチーズの産地、ウェンズリー・デールのあたりまで徐々に流れていきます。

昨日、友達に、ケビン・コスナーのロビン・フッド初めて見た、という話をしたところ、彼は、「あれは、2,3回見てるよ。かなり前に、アラン・リックマンをロンドン・セント・パンクラス駅で見かけたことがある。ノティンガムにでも行くところだったのかも。はははー。」などと言ってました。

ロビン・フッドの伝説は、民謡などで古くから語り継がれ、最初は、政権や教会の勢力に対抗する、ただのアウトロー(罪人とみなされ法の保護を受けられない人物)。そういう名の一定の人物が存在したかは定かでなく、人柄、実際何をしたのか、行動した場所も、時代背景も、まちまち。その後、段々、話に尾ひれがついて、金持ちから物を盗み貧者に配る義賊であったとか、実は高貴な家の出身であったとか、またマリアンというロマンスの対象になるような女性も考案され。時代背景も、獅子心王リチャード1世が十字軍遠征でイングランドを留守中、弟のジョンが悪政を行っていた時代、というのが一般に定着。そして、悪事を働くノッティンガムのシェリフが登場し、ロビン・フッド活躍の場所はノッティンガムシャーのシャーウッドの森、ひいては森の仲間たちもいるという事になる。スコットランド出身の人気作家であった、ウォルター・スコットによる、1820年出版の小説「アイヴァンホー」にも、ロビン・フッドと仲間たちは登場し、これが、かなり後のロビン・フッドのイメージ作りの基になったようです。

とにかく、これが絶対という文献がないので、各キャラクターや、設定には、自由が利く、そのためか、かなり何回も映画化されています。

ケビン・コスナーがブレークした1987年の「アンタッチャブル」は映画館へ見に行って、とても面白かったので、こちらもそのうち、もう一度見てみるかもしれません。考えて見ると、この頃、ケビン・コスナー、売れっ子でしたねえ。「清潔そうな感じがいいわあ。」、と彼をとても気に入っていた知り合いがいましたっけ。制作に巨額をかけながら、さんざんけなされていた、1995年の映画「ウォーターワールド」がぽしゃって以来、あまり話題映画では見かけなくなり、わりと最近、2016年の映画「ドリーム」(Hidden Figures)に、NASAに勤務する黒人女性たちの上司役で出ていて、「あら、久しぶり」となつかしくなりました。脇役でしたが、わりと良い役でしたし。「ロビン・フッド」を機に、ケビン・コスナー物で、やはりまだ見ていなかった、「JFK」と「さよならゲーム」(Bull Durham)の中古DVDも注文し、今、配送を待ってます。そういえば、それこそ、輪をかけて、くさそうな、「ボディガード」もまだ見ていないです・・・うーん、どうしよう。見てみようかなあ・・・。こちらも、テーマ曲が先に頭に響く映画でしたね。

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