アイヴァンホー

ウォルター・スコット(Walter Scott :1771-1832)は、エジンバラ生まれのスコットランドの小説家。いわゆる歴史物を多く書き、世界的人気を博しました。(上記写真は、エジンバラ城内からの眺め。)

ヴィクトリア女王のお気に入りの作家でもあったということで、特に「ラマムーアの花嫁」(The Bride of Lammermoor)が好きだったという逸話は、映画、「ヴィクトリア女王 世紀の愛」の会話の中にも組込まれていました。
また、今や、スコットランドといえば、キルトですが、キルトに身を包んだハイランド・クランのイメージを広めるのに一役買ったのも彼。ブランドとしてのスコットランドを有名にした人です。

私は、この人の作品はいままで読んだことがありませんでした。スコットランドのハイランドを舞台とした「ロブ・ロイ」(Rob Roy)の映画化されたものを見ただけ。この「ロブ・ロイ」などのスコットランド物小説の出版が、当時、スコットランドの観光に火をつけたという話で、小説に描かれている風景を見ようと、ファン達が、本を抱えてハイランドへ押し寄せたなどといいます。

スコットランド物ではないですが、最近、やっと代表作のひとつの「アイヴァンホー」(Ivanhoe)に手を出してみました。こちらの舞台は、現南ヨークシャー。時代背景は、12世紀、獅子心王リチャード1世の頃。

リチャードが、第3回十字軍で遠征し、オーストリア公のレオポルド5世に捕まり人質となっていた際、イギリスでは、彼の留守を良いことに、腹黒い弟のジョンが、好き放題。

また、ノルマン人制服で負かされたサクソン人達と統治階級のノルマン人達の間の、いがみ合いが続き。以前の投稿、「英語とフランス語」にも書いたように、支配者側と、支配された側の両言語が喋られていた状況も書かれています。(小説最後の方には、ノルマンとサクソンのいさかいもやがて時と共に消えゆき、お互いに結婚などで、その血も混ざり合い、などと書かれていましたが。)

筋は、簡単に言ってしまえば、リチャードについて十字軍に加わって活躍したサクソン系の騎士アイヴァンホーが、母国に戻った際、悪役で、リチャードの留守にジョンに尻尾を振る数人のノルマン貴族達や、集団として勢力を増していたテンプル騎士団(Knights Templar)の騎士を相手に戦うお話。

途中、アイヴァンホーと、彼のサクソン系の父親や親族が、上記悪役達に襲われた際、義賊ロビン・フッドとその仲間達に助けられます。また、身分を隠して、イギリスへ舞い戻っていたリチャードも、謎の騎士として、それに合流。

この本で、中世に浪漫を寄せる人が急増し、また、短気でありながら、気が良く勇敢、騎士道精神にあふれた人物として描かれているリチャード人気が上がったようです。特に、往々にして、イギリス最低の王様と呼ばれる、弟のジョンと比較して見られて、なお更、そういう事になったのでしょうが。また、ロビン・フッドも、この本に描写されているキャラクターが、この後、一般的イメージとして、定着したようです。

他にストーリーの中心人物として登場するのが、ユダヤ人のアイザックと娘のレベッカ。当時、ユダヤ人が、始終、侮蔑と残酷な仕打ちを受け、金を搾り取られていた様子が描かれています。アイヴァンホーでさえ、最初は、彼らに対して、人種的に、自分よりも劣る者、という偏見を隠しきれない感じです。
ただし娘レベッカは、サクソン貴族の血を引き、後、アイヴァンホーが結婚する、ただのお人形さん的ロウィーナよりも、登場場面も多く、美貌のみならず勇気と慈悲心溢れたヒロイン的要素をふんだんに含んでます。アイヴァンホーも、最後の方で、彼女の命を守るため、かっこよく戦う事になります。そして、彼女が自分の前から消えてしまった後も、生涯、忘れられない女性になるようなニュアンスもあり。

多少の歴史的真実も盛り込みながら、理想像も混ぜ合わせた騎士冒険小説といったところ。

さて、ウォルター・スコットは、人生後半、多大の借金を抱えこみ、「これからは、自分の右手が借金を払う」と、借金返済のため小説を書き続ける事となります。最終的には払いきる前に亡くなったものの、死後も小説は売れ続けたので、墓の中から借金を払い続ける格好に。

ウォルター・スコットが住んだスコットランドの大豪邸は、Abbotsford House。リンク先のサイトに、写真が載っていますが、内部も外部もまるでお城の様です。

コメント

  1. abbotsford house見てみました。
    ほんと、お城~~!!って感激^^ますます、イギリスに行きたくなってしまいます^^
    みにさんのブログいつも感心させられながら読んでおります。
    少しでいいので、私にその文才を分けてほしいです^^
    こちら関東地方でもここ数日は、朝の気温が氷点下という日が続いていますが、昼は晴天・・
    イギリスは寒いようですので、お体大事になさってくださいね。

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  2. 十字軍のヒーローはリチャード獅子心王なのですね。そして、悪役はジョン失地王ですね。アイヴァンホーは日本ではロビンフッドほど知られていません。原作者とあわせて、教えていただいて、ありがとうございます。
    そして、私の好きなヒューが生まれ変わるならかわいい女の子がいい、なんて言っているのですが,イギリス男性にとって常に勇敢で男らしい騎士のように振る舞うのはけっこう疲れるのかしら?日本でも最近、草食男子なんて言葉が流行しているんです。

    イギリスのテレビ番組 マーリンというのが昨年,放送されて、結構良かったです。これも典型的な騎士道物語でした。

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  3. らぶさん、
    冬のイギリスは避けるに越した事はないです。本日久しぶりに晴れ、お日様を拝むことが出来、気温も上がりほっと一息です。
    Abbotsford Houseは、たしか先月、ちらっとアンティークロードショー(アンティーク鑑定番組)の初めを見ていた時、そのヴェニューになっていて、内部を色々紹介していた記憶があります。スコットも、かなりのアンティーク・コレクターだったようですよ。

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  4. せつこさん、
    イギリスは女性が強そうで怖い人が多いから、チャンスさえあれば、外人女性と結婚する人が多い、なんて聞いた事があります。家事は比較的良く手伝ってくれる人は多い気はします。それが草食という事になるのかはわからないですが。
    BBCのマーリンは、キング・アーサー関係ですよね。としたら、時代設定は、もう少し前になるのでしょうね。名前は知っていますが見たことはない番組です。
    失地王ジョンの英語のあだ名は、Lacklandですが、こちらもリチャードのあだ名同様、フランス語でSans Terreと呼ばれること良くあるようです。

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