バーリントン・アーケイド

屋根のあるショッピングアーケイドは、にわか雨に降られた時などのウィンドーショッピングには便利です。特に、ロンドンのピカデリーサーカス近郊、ピカデリー街とバーリントン・ガーデンズ街をつなぐ、バーリントン・アーケイド(Burlington Arcade)内は、宝石や、ファンションなどの高級店が並び、私のような一般庶民は、それこそ、できるのはウィンドーショッピングくらい。内部に軒を連ねる小さい店内に足を踏み込むのも、何となく気おくれします。

1819年にオープンした、バーリントン・アーケイドは、長さ179メートル。ジョージ・キャベンディッシュ、第一代バーリントン伯爵(George Cavendish 1st Earl of Burlington)の命によって建設。彼は、アーケイドのすぐ東に隣接するバーリントン・ハウスに住み、ここで死去しています。バーリントン・ハウスは、現在は、その中庭に面した北翼に位置するロイヤル・アカデミー・オブ・アーツ(王立芸術院 Royal Academy of Arts、 通称RA)の本拠地として有名です。その他にも、王立天文学会、ロンドン地質学会などのそうそうたる協会が、バーリントン・ハウスを本拠地としています。

このジョージ・キャベンディッシュという人ですが、「ある公爵夫人の生涯(The Duchess)」という映画でもおなじみの、故ダイアナ妃のご先祖、ジョージアナ・スペンサーの夫君であった、ウィリアム・キャベンディッシュ(第5代デヴォンシャー公爵)の弟です。ジョージ・キャベンディッシュは、バーリントン・アーケイドを作らせる数年前の、1815年に、ジョージアーナとウィリアムの一人息子で、甥にあたる第6代デヴォンシャー公爵から、バーリントン・ハウスを買い取っています。

バーリントン・アーケイド誕生の由来の一説によると、ロンドン庶民が、バーリントン・ハウスの脇を通りながら、食べ終わった牡蠣の貝がらや、その他のゴミを、塀のむこうの、バーリントン・ハウスの庭に放り投げていたため、これを避けるため、アーケイドを作らせた、というもの。ふとどきな奴らから、邸宅を守るためのバリアのようなものです。

また、別の説によると、ジョージ・キャベンディッシュが、夫人と彼女の友達が、良からぬ人間が徘徊するロンドンの雑踏に紛れて買い物をする必要なく、また、彼女らが、雨の日も、行ったり来たりと散歩できる場所を作るために、建てたという話があります。ですから、良からぬタイプの人間が踏み込まぬよう、悪さをせぬよう、ビードル(beadle)と呼ばれる、監視員、警官の様な人物が常時、アーケイド内に配置されて、見張っています。このビードルは現在も、昔ながらの衣装を着けて、働いています。できた当時のビードルは、ジョージ・キャベンディッシュの連隊のメンバーからリクルートされていたという事。私がアーケイドに足を踏み込んだ時、ビードルの一人は、観光客に道を聞かれたか、一生懸命、行き方を説明していました。最近のビードルの任務は、そういう事の方が多いのでしょう、きっと。

かつては、売春婦やら、すりやらが、この高級アーケードに目を付け、仕事を初め、彼らは、協力して、身を守るため、ビードルが接近してくるのを目撃すると、歌をうたったり、口笛を吹いたりして、お互いに知らせ合ういう手段を取ったのだそうです。このため、現在でも、アーケード内では、歌をうたうこと、口笛を吹くことが禁じられていると言います。本当かどうか、試したい人は、やってみてください。ビードルが飛んできて、小言を受けても、当方は責任取りませんが。

もともとは、近くにあるリージェントストリートの1階もアーケイドになっていたようですが、やはり、売春やらスリやらの多発で、取り壊しとなったようです。アーケードがあったままの方が、ホント、雨の日も風の日も、現在の観光客にとっては便利だったのでしょうが。

入り口に設置されたゲイトで、車の侵入を阻止
スリくらいなら、まだ可愛い(?)ものですが、1964年には、当アーケードで、もっと大胆不敵な犯罪が起こっています。一台の車が、アーケード内に突進し、覆面を付けた6人の族が車から降りると、宝石店などのショーウィンドーを叩き破って、高額の商品を、車に積んで、そのまま逃げ去るというもの。犯人は捕まらず仕舞い。こうした車での侵入を妨げるため、現在は、アーケード両出口に門が備え付けてあります。

ピカデリー街に沿って右手バーリントン・ハウスの一角、左手バーリントン・アーケイド
私は、店には一歩も踏み入れないまま、両側の高級ショップのショーウィンドーを眺めつつ、バーリントン・アーケードを往復したあと、そのままピカデリー街へ出て、展覧会に行くために、お隣にある、かつてのバーリントン・ハウス内、ロイヤル・アカデミー・オブ・アーツへ足を向けました。アーケイドの真ん中に、こ粋な帽子を被った兄さんがやっているコーヒーの屋台があり、2人の老婦人がコーヒーを買っていました。通りすがりに、値段を見たら、2ポンド50ペンスと、まあ、目玉飛び出るほどの値段ではありませんので、ここで何かを消費するとしたら、私は、コーヒーくらいですね。

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