ラリングストン・カッスル

城ではなくお屋敷のラリングストン・カッスル
ケント州にあるラリングストン・カッスル (Lullingstone Castle) を訪れてきました。ラリングストンという土地は、アインスフォード(Eynsford)という駅から、南へ歩いて15分ほどの場所にあります。アインスフォードまでは、ロンドンからは、各駅のゆっくり電車で、約50分ほどかかるのですが、距離的には、ロンドンをぐるりと囲む環状高速道路M25のすぐ外と、さほど遠くはないのです。

ラリングストン・カッスルと言う名で呼ばれながら、実際は、城でありません。現在残る建物は、15世紀末に遡り、建設された当時からずっと同じ家族(ハート・ダイク家、Hart Dyke)が住んでいるお屋敷です。昔は単に、ラリングストン・ハウスと呼ばれていたのを、18世紀中ごろ、威厳を持たせるために、「カッスル」と変えたのだそうです。まあ、「An Englishman's home is his castle. (イギリス人の家は、彼の城)」などと言われますから、それもありか。

威風堂々ゲイトハウス
本物の城へ入る門の様な立派なゲート・ハウスと、「やっぱり、これは城じゃなくて、屋敷だね。」といった、それでも立派な建物が、広大な池の脇に佇んでいます。

ラリングストンに住むハート・ダイク家の、現世継ぎ、トム・ハート・ダイク氏は、園芸家、植物収集家で、2000年に、ランの収集のため、南米のコロンビアを旅行中に、コロンビア革命軍のゲリラに誘拐されるという経験の持ち主。「殺す」と脅されながら、9か月拘束された後、いきなり釈放され、無事帰国。このコロンビアでの誘拐中、生きて帰れたら何をするかと色々考え、故郷のラリングストン・カッスルに、色々な国から集めた植物を地域ごとに分けて育成するワールド・ガーデン(World Garden of Plants)を作るというアイデアに行きついたという事。

帰国後、コロンビアでの経験を描写した本を出版、さらに、コロンビアで夢見た庭園の実現化に向けて漕ぎ出し、2005年にワールド・ガーデンはオープン。翌年には、BBCにより、「Save Lullingstone Castle」(ラリングストン・カッスルを救え)という番組も放映され、知名度が広まり、訪問者はうなぎのぼり。災い転じて福となる、という典型的なケースです。

観光の目玉は、このワールド・ガーデンですが、入場料に1ポンド上乗せすると、屋敷内も、ガイドツアーに参加して、見学することができます。わざわざ行ったからには、屋敷内は見た方がいいですね。私は、ガーデンより、こちらの方が面白かったので。ただし、屋敷内は写真撮影禁止でした。

ラリングストン・カッスルの意外な近代史のひとつは、1930年代、養蚕と絹産業を敷地内で行っていたという事。ジョージ6世の戴冠式の際にクウィーン・マザー(エリザベス女王のママ)が身に着けた衣装、更には、現エリザベス女王が戴冠式に身に着けたガウンと、彼女のウェディング・ドレスは、ここで作られた絹を使用したものなのだそうです。今は、絹産業は、別の場所に移ってしまったという事ですが。

また、戦前、キャスル周辺のラリングストンの地に、空港を建設するという話があり、まず、空港のための、鉄道支線をもうけ、ラリングストン駅なる駅まで建設されるに至ったのですが、実際の空港建設に関して、すったもんだとしているうちに第二次世界大戦が勃発。この空港建設予定地は、戦争中は、近くにあったRAF (ロイヤル・エア・フォース、イギリス空軍) が使用していた空港、ビギン・ヒル・エアポート(Biggin Hill Airport)が、ドイツ空軍に襲撃されるのを避けるための、おとり空港として使用され、張りぼての戦闘機などが設置されていたという事。間接的であれ、RAFのパイロットたちが、イギリス本土をドイツ空軍の襲撃から守った、バトル・オブ・ブリテンに貢献したわけです。

戦後、空港としては、ヒースローの方が好ましいという判断により、この地での空港建設の話は放棄。また、この周辺は、やはり戦後まもなく、都会が限りなく広がってしまうのを避けるため、住宅などの開発を極力避け、緑を守るというグリーン・ベルト地域に指定されたため、すっかり目的を失ったラリングストン駅は、1950年代に解体されます。その際、駅のプラットフォームの屋根を支えるための骨組みは、そのまま、カンタベリー・イースト駅に持っていかれて、そこで再使用されたという事。このため、周辺は、まだ緑豊かな風景が広がっています。ただし、村を抜ける道路を、車は切れ目なく走り、道路のそばを歩くと、ロンドン、そしてM25高速道路は遠くない、と感じます。

養蚕や、周辺が空港予定地であった事、また、戦時中におとり空港として使用されたことなども、まずは、お屋敷内のガイドツアーで教えてもらった情報です。しつこい性格なので、その後、また自分でも調べましたが。

屋敷内を見学した後、敷地内にある、土台はノルマン時代に遡る教区教会、セント・ボトロフ教会も覗きに入りました。

ラリングストン・カッスルの将来を明るいものにした、トム・ハート・ダイク氏によるワールド・ガーデンは、敷地内の塀の中にあります。世界各地の地域に分けて、それぞれ、その土地独特の植物を植えるという趣向ですので、

日本コーナーも、当然あり、鯉の形をしたモザイクの像が、植物の間に設置されていました。

温室もあり、まちがって座ると痛そうな丸サボテンの一群にもお目見え。

植物の種類は、今も着々と増やしているようで、場内で入手したパンフレットによると、現段階で8000種ほど収集してあるそうです。

ガーデン見学後は、やはりラリングストンにある、更に時間を逆戻りし、ローマ時代に建てられた館跡、ラリングストン・ローマン・ヴィラを訪れるため、ゲイトハウスまで戻り、ゲイトハウスにいたお姉さんに、ヴィラまで歩いてどのくらいかと聞くと、「10分で行くわ。ここ出て右手、まーっすぐ歩けば着くから。」他に予定が無かったら、ラリングストン・キャスルで、閉館まで、のんびり敷地内を散策していても良かったのですけどね。

お姉さんの指示の通り、まーすっぐ、ローマン・ヴィラにタイム・スリップするために、田舎のぽこぽこ道を、ぽこぽこ歩き始めました。

ラリングストン・カッスルの公式サイトはこちらまで。

コメント