労働者のいないハーベスト

藁を四角にまとめ落としていくベーラー
再び、ハーベストの時期が訪れ、小麦等の穀物収穫が着実に進んでいるようです。ここのところ、雨も少なく、毎日、収穫日和のような感じですし。去年、収穫が終わったばかりの茶色の農地を歩いたのを懐かしく思い出しながら、先週、再び、春は緑だった農地の脇を歩きました。この時、一台のベーラー(baler)が、刈り込まれた小麦の藁を拾い上げ、圧縮し、四角に固めて、畑に落としている光景に出くわし、しばし、この様子を眺めていました。この固められた藁をベール(bale)と呼ぶのですが、丸いベールもあれば四角いベールもあり。一人の農家の人が運転する一台のベーラーで、かつては、大変だったであろう、こんな仕事もいとも簡単にこなしていく・・・。ベール作りもさることながら、今では、収穫も脱穀も、コンバインハーベスターさえあれば、人力に頼らず、一気にできます。

昔は、小麦(wheat)、大麦( barley)、エンバク( oats)の穀物を収穫する、ハーベストの時期というと、村の人間は総出の上、季節労働者なども雇い、小麦畑の中は人がいっぱいで、にぎやかだったのでしょう。穀物を刈って、束ねて、乾かすために積み上げて、その後、乾いたものを少しずつ脱穀。刈った小麦の積み上げ方は、地方によって色々バリエーションがあったようです。老いも若きもで、小さな子供なども、労働者のためのお昼やおやつ、飲み物などを運ぶのを手伝い。

人がいっぱいの昔の収穫風景
上の写真は、トーマス・ハーディーの小説を元にした映画「遥か群衆を離れて」(Far from the Madding Crowd)のハーベストの場面。機械がない代わりに、人がいっぱい。収獲の後は、大仕事が終わってお疲れさま、とハーベスト・フェスティバルなどが開かれ、飲めや歌えやと賑やかな騒ぎ。時に乱痴気騒ぎに陥ることもあったようです。若き日のシェイクスピアも、知り合いのハサウェイ家が、大豊作を祝うハーベスト・フェスティバルに出向き、どんちゃん騒ぎの中で、アン・ハサウェイと好い仲となり、できちゃった結婚へと繋がったなどと言われていますし。

収獲のための刈り込み機械(reaper)がパトリック・べルにより、スコットランドで発明されたのは、1828年ですが、なかなか、一般的に使われるようにはならず、1851年、アメリカの会社によって、これをデザインし直したものが、ロンドンの大英博覧会に展示され、話題を呼ぶこととなります。それでも、高価であったため、一年に一回のみ使用するもののために、これを購入する農家はまだ少なく、しばらくは、収穫は、昔ながらの多くの労働者を雇っての一大共同労働。ハーベスト期に人手を確保するために、各農家、給料をはずんだようですし、全員に、食料飲み物も提供したので、最終的には、全給料が機械1台の値段とそれほど違わないか、それより高くつく場合などもあったと言います。1860年代以降、刈り込み機を購入する農家も少しずつ増えていったようで、収穫に必要となる人員も下降を辿ることになります。

「大きな森の小さな家」脱穀風景のガース・ウィリアムズによる挿絵
脱穀機(thresher)なるものは、やはり、スコットランドのエンジニア、アンドリュー・ミーケルにより、1786年ころに発明されています。初期のころの脱穀機は、刈り込み機同様、馬力を使っていたようで、アメリカの話になりますが、ローラ・インガルス・ワイルダー著の「大きな森の小さな家」内には、西部開拓地で、家族総出での穀物の収穫のあと、8頭の馬で起動させる脱穀機を一日借りて、脱穀作業をするというエピソードが挿入されていました。仕事終了後、開拓者のインガルス一家のお父さんは、男4人で脱穀作業をしたら2週間はかかっただろに、機械のおかげで一日で済んで、しかも量も多く、きれいに脱穀できたという感想をもらしています。自給自足のインガルスのお父さんにとっては、こういう進歩は願ったりかなったりですが、農場での労働で金を稼ぐ者にとっては、どんどん開発されていく農業機器は目の敵。実際、1830年には、イングランドの南東部各地で、生活苦にあえぐ農場労働者による暴動が起こっていますが、この際に、脱穀機が破壊される、という事件が相次いで起こったようです。

機械化の過程で職を無くした人間は、他の生きる術を探す事を余儀なくされたわけですが、その一方、農業の効率はぐんと上がり、コストが減り、収獲も増え、最終的にはパンや野菜などの食べ物の値段が下がり、一般市民には好結果となるわけです。まあ、これは、農業だけに限らず、現代人の便利な生活を可能にした、産業革命すべての面に当てはまることでしょうが。

収穫が行われている小麦畑
冒頭に書いたベーラーも含め、収穫後の処理をする機械も徐々に導入され、さらには、収穫脱穀を同時に行えるコンバインハーベスターで、今のように、ハーベスト時期のこの季節も、ほとんど人を見ない風景となるのです。

小麦の収穫をするコンバイン
こちらは、小麦畑で収穫をすすめていたコンバインハーベスター。そばを歩くと、小麦のカスが煙のごとく飛び散り、風に乗って目や口に入ってきました。

ついでに、
こちらが、今年の4月の風景。小麦はまだ緑の芝のよう。

こちら、同じ場所で、8月の収穫後。

まだ刈っていない小麦畑の真ん中を抜けるフットパスも辿り歩きました。1週間以内には、ここも、収穫がおわっているかもしれません。

小麦大麦の他に、じゃがいもの収穫を行っている農地もあり、こちらも当然、今では機械化。収獲機と並行してトラックを走らせ、おじゃがは、トラックにつまれたカートの中にごろごろと転がり落ち。カート内部には、そのジャガイモを平らにならすために、誰かが一人乗っていました。

そんなこんなで、都会での人口は増えているものの、田舎の人口というのは、昔と変わりないか、実際に減っているところもあると言います。ハイキングをしていて、人をほとんど見ず、のびのびとした気分となれるのと同時に、数人でも、こうして畑で働いている人がいると、それはそれなりに、少し風景に活気が出るな、などとも思います。

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