イングリッシュ・ローズ

あちらこちらで、バラが咲いています。

うちの前庭にも、赤、黄、オレンジのものが計6本。私は特別な薔薇マニアではなく、うちにあるバラは、全て、以前のこの家の主が植えたもので、其々の種の名前も知りません。ただ、咲き始めると、やはり、バラもいいな、と思うのです。咲き終わった花は、こまめに枝を切っていくと、かなりの長期間咲いてくれ、温暖な冬などは、12月辺りまで咲いていたことがあるのを覚えています。

裏庭のグリーンハウスの後ろの、誰の目にも留まらぬところにも、ピンクのバラが毎年咲きます。このバラは、うっすらと良い香りがするタイプ。香水の専門家が、どんなにがんばったところで、本物の花の香りを忠実に人工的に再現する事は不可能だという話を聞いた事があります。そのデリケートな香りも好きだし、そのままにしておいても、誰も見れないからと、こちらは、しょっちゅう切花にして室内に飾ります。

記録的な雨量となった6月に続いて、雨模様の不安定な天気は続いています。

「Raindrops on roses」(薔薇の上の雨のしずく)は、ミュージカル「サウンド・オブ・ミュージック」で、マリアが歌った「My Favourite Things」(私のお気に入り)の中で、彼女の好きな物のひとつにあげられていました。庭に出て、そんな雨のしずくに頭を重くもたげているバラを切りに行ったところ、花びらの間に座っていた、小さな、バラの住民に遭遇しました。

この白い蜘蛛は、俗名Crab Spider (直訳:カニ蜘蛛、ラテン名:Misumena vatia、日本語ではヒメハナグモ)。蜘蛛は、全てが全て、蜘蛛の巣を作って獲物を引っ掛けるわけではありません。このヒメハナグモは、こうして花の間にひそんで、昆虫が近寄ってくるのを待ち、襲い掛かるようです。そのために、色は、比較的花の色に近い白色で、黄色い花に潜むときは、カメレオンのごとく、色が黄色くかわるのだそうですが、私は、こういった白のものしか目撃した事はありません。そんな凶暴な肉食でありながら、見かけは、もちもちとした和菓子の様な昆虫です。

さて、話を蜘蛛から薔薇へ戻しましょう。

薔薇は、イングランドにはゆかりの深い花です。赤薔薇をかかげるランカスター家と白薔薇が紋章のヨーク家が闘ったばら戦争。ばら戦争は、シェークスピアにドラマのネタを与えた、熾烈な王者争奪戦の結果、ランカスター家のヘンリー7世と、ヨーク家のエリザベスの結婚によるチューダー王朝の成立で終結します。この結婚により、それぞれの家を代表する赤薔薇と白薔薇を重ね合わせてできあがったのが、チューダーローズと称される紋章。チューダーローズは、イングランドのシンボルとして、現在でも使用されています。(上記イメージは、Wikimedia Commonsより拝借。)

また、イングランド出身の美人ちゃんはイングリッシュ・ローズとも称されます。故ダイアナ妃の葬式に、エルトン・ジョンが歌った、「キャンドル・イン・ザ・ウィンド 1997」の出だしの歌詞も、Goodbye England's Rose・・・「イングランドの薔薇よ、さようなら」でしたね。

ちなみに、形容詞としてイングリッシュ(English)という言葉を使うとき、日本語では一般に「イギリスの」と訳されますが、厳密には、「イングランドの」。外人が注意しなければならないのは、この言葉は、あくまで、イングランドを形容するものであるので、観念の中に、スコットランドとウェールズ、アイルランドは含まれない・・・ということです。ついでながら、スコットランドを代表する植物はアザミ、ウェールズはリーク(西洋ネギ)、アイルランドはシャムロック(三つ葉のクローバー)。でも、キャサリン・ゼタ=ジョーンズのような、美人のウェールズ人女性を指して、ウェルッシュ・リーク(ウェールズのネギ)とは、さすがに呼ばないでしょうね。

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