日本初のロンドン・ナショナル・ギャラリー展
本当であれば、今年の3月3日より6月14日まで、上野の西洋美術館にて、ロンドン・ナショナル・ギャラリー展が開催されているはずでした。そして、その後は、大阪へ行く予定。イギリス国外では初めての、大規模なロンドン・ナショナル・ギャラリー展という事で、当美術館所蔵のうち、61枚の絵画が、海を渡って日本の訪問者を待っていた。東京オリンピックの年だから、という美術館側からの好意もあったのだと思います。ああ、それなのに・・・!
コロナのおかげで、当展覧会は、まだ始まっていない状態です。まさか、日本で誰も本物を見ないまま、全ての絵がイギリスへ帰国するとは思えないので、貸出期間の延長などが考慮されるのかもしれませんが。だって、日本のみならず、現在、世界のあちこちで、美術館は閉鎖状態にあるでしょうから。かくなる、ロンドンのナショナル・ギャラリー自体も今のところ閉まっています。
という事で、当展覧会を見に行くつもりでいた人は、いざオープンとなった時に、絵の説明を読むのばかりに時間を費やさず、じっくりと絵画と向かい合って眺めることに専念できるように、この閉鎖期間中に、それぞれの絵や画家についての、背景知識をつけておくというのも手かもしれません。今は、見に行く前の下準備の時期って感じで。旅行にしても、博物館、美術館訪問にしても、前もって予習しておくと得るところも多いものです。特に、一部西洋美術は、キリスト教やギリシャ・ローマ神話なども、多少は知っていないと、何の絵かわからない、というのもあります。
まずは、ロンドンのナショナル・ギャラリー(国立美術館)の歴史について、簡単に書いておきます。
ヨーロッパの、いわゆる公立、国立美術館は、すでに18世紀に、フローレンス、ウィーン、パリ、19世紀初頭にアムステルダム、マドリッド、ベルリンでオープンし、1824年に設立されたロンドン・ナショナル・ギャラリーは少々遅れを取って始まります。
コレクションの基礎を作ったのは、1823年に死亡したジョン・ジュリアス・アンガースタインなる資本家の保有していた作品で、政府は、売りに出されていた彼のコレクションを、ナポレオン戦争中、オーストリアへ貸していた金が、たまたま、返済されたのを機会に購入。また、他の人物(ジョージ・ボーモント、ウィリアム・ホルウェル・カー)も、自分たちのコレクションを国に寄贈。王室や貴族のコレクションが中心となっていない国立美術館として、ロンドン・ナショナル・ギャラリーは、ヨーロッパの中で珍しい存在であるようです。
始まった当時は、パルマル街100番地にあった、アンガースタインの旧ロンドン邸宅が使用され、やがて、1838年に、現在のトラファルガー広場に建築された建物へ移動。ウィリアム・ウィルキンス設計によるオリジナルの建物は、当時、趣味が悪い、とかなり馬鹿にされていたと言います。建物の上にちょこんと座っているドームは、「胡椒入れ」とあざ笑われたとか。
寄贈や、購入により、徐々に数が増えていくコレクションの展示場所が無くなっていくに従い、もっと空気の良いサウス・ケンジントンへ移してはどうか、ウィルキンスの建物をすべて取り壊して、新しくもっと大きく作り直してはどうかという案もあったようですが、最終的に、建物は、徐々に増築されていくこととなります。セインズベリー・ウィングと呼ばれる建物西側(むかって左手)にある翼は、実に、1991年の増築で、私が永続的にイギリスに住むようになった頃と、ほぼ同時期にできています。
当美術館には、13世紀末から20世紀初頭までの西洋美術が、幅広く収集されており、一番古いイタリア・ルネサンスの絵画類がかかっている、セインズベリー・ウィングから入場して、年代を追って、最後に印象派などの近代絵画の部屋へたどり着く事ができます。1周して、西洋絵画史を大まかにつかめるような展示内容。
余談となりますが、現エリザベス女王のお母さん(クウィーン・マザー)がまだ存命中、私は、確かレイト・オープニングをしていた水曜日か木曜日の夜、静かなナショナル・ギャラリー館内を友達と歩いており、モネの睡蓮の絵などがある印象派の部屋で、彼女を見かけたことがあります。エリザベス女王の妹の故マーガレット王女のご主人だったスノードン伯爵と一緒でした。スノードン伯爵、この時は、もうマーガレット王女とは離婚していたはずですが。二人の周りには、ほとんど護衛もおらず、まるでその辺の人のような感じで歩いており、「ずいぶん、おおらかなものだな。」と感心したのでした。(あれ、この話、以前にもどこか別の記事に書いた気がする、だとしたら、失礼。)
さて、現在、日本で待機している、61枚の絵画のリストは、下のリンクまで。
https://www.nmwa.go.jp/jp/exhibitions/pdf/2020london_list.pdf
1.イタリア・ルネサンス絵画
2.オランダ絵画の黄金時代
3.ヴァン・ダイクとイギリス肖像画
4.グランド・ツアー
5.スペイン絵画の発見
6.風景画とピクチャレスク
7.イギリスにおけるフランスの近代美術受容
の7つのカテゴリーに分けられています。
このブログでも、この61枚のうちのいくつかの絵、または画家について書いています。下にリンクをつけましたので、興味ある方は、ご参照ください。
聖ゲオルギウスと竜 (聖ゲオルギウスは英語でセント・ジョージ)ウッチェロ
天の川の起源 ティントレット
神殿から商人を追い払うキリスト エル・グレコ
ひまわり ヴァン・ゴッホ
マグダラのマリアを描いた2枚の絵 ティツィアーノ、サヴォルド
マルタとマリアの家のキリスト ディエゴ・ベラスケス
イギリス肖像画家 トマス・ゲインズバラ
イギリス風景画家 ターナー、コンスタブル
*ターナーとコンスタブルに関しては、それぞれの最も有名な絵である「最後の停泊地に曳かれて行く戦艦テメレール号」と「乾草車」が今回はロンドンに留まっているのがちと残念です。
ピクチャレスクについて
ポスターからもわかる通り、やはり目玉は、まぶしいばかりのゴッホの「ひまわり」。日本にあこがれた彼の代表作が、日本の来館者に見てもらえる日が早く来ると良いです。
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