壁画のあるイギリスの教会

教会内に中世の壁画がある・・・フランスやイタリア、スペインなどのカトリックの国に住んでいる人であれば、そんなの別に騒ぎ立てる事でもない、良くある話じゃん、という事になるかもしれませんが、ローマ法王を筆頭とするカトリック教会を離脱し、宗教改革を経験したイギリスでは、一面びっしりの、しっかりとした壁画が残る教会は、さほど数が無いのです。というのも、宗教改革(Reformation)の最中に、偶像崇拝を嫌い、質素を旨とするプロテスタントにより、Popish(ローマ法王風、カトリック風)なもの、虚栄的と思われたものは、除去の憂き目に合い、教会内部のカラフルな彫像などは破壊され、壁画は漆喰で上から白塗りされてしまったためです。

裕福であった教会の資産や金も目当てとした、ヘンリー8世による修道院解散もさることながら、ヘンリーの息子のエドワード6世は、自分の私的理由でローマ法王と決別し、イギリス国教会を作った父王よりも、教義上、更に敬虔なプロテスタントであり、教会内の偶像の破壊、除去は、エドワードの時代に多く起こったようです。後の、イギリス内戦後のオリバー・クロムウェル下の清教徒により、破壊されたものもあるでしょう。また、教会によっては、壁画を隠すため、先に、自ら漆喰で壁を覆ってしまったものもあるようです。

ともあれ、13世紀以降に建てられたイギリスの教会のほとんどが、最初は、内部は壁画で飾られていたのではないか、というのが大方の専門家の意見だそうです。昔は字が読めない人が大半であったので、教会に入って、聖書の話や、聖人の話が鮮やかに描かれているというのは、村人の信仰心を沸きたてるために大切なことであったので。

それが、宗教改革後に、漆喰で塗られるか、破壊されるかで、現在、イギリス内で、壁画が見られる教会は約2000だそうです。2000というと、結構あるじゃないか、と思う人がいるかもしれませんが、ほとんどが、近年になってから、漆喰に覆われていたのを、はがして、再浮上したもので、痛みや破損のため、はっきりと見えなかったり、継ぎ接ぎ的感覚があり、全体的に綺麗に残っているものとなると、その数は減ります。

上の2つの写真は、大聖堂で有名なソールズベリーにある教会。聖トマス教会(St Thomas)の内部。ソールズベリー大聖堂建設のために雇われた労働者のために、13世紀前半に建てられた教会と言われ、カンタベリー大主教であった聖トマス(トマス・ベケット)の名を取っています。

壁画の中でも最後の審判を描いたものが残る教会はイギリス内70のみだそうで、これは、その中でも、よく保存されているもののひとつです。ソールズベリーに足を運んだら、大聖堂のみでなく、こちらの教会も覗いて見て下さい。

こちらの、ビザンチン風のカラフルな壁画は、イギリス最古の町と言われるエセックス州コルチェスターの近辺の村、コップフォード(Copford)の、聖マイケル・アンド・オールエンジェルズ教会(St Michael and All Angels)。漆喰の下からこんなぴかぴかの壁画が現れたのか、それはすごい、と思いきや、この部分は、ヴィクトリア朝に手を加えて修正されているそうです。

絵に囲まれたステンドグラスから明かりが漏れてくる様子も、綺麗でした。

いずれにしても、古い部分の壁画は12世紀半ばに遡るというので、なかなかの時代物です。

壁画のテクニックとしては、フレスコ(fresco)とセッコ(secco)があり、前者は、まだ濡れている漆喰の上に描いていくもので、後者は、乾いた壁に描くもの。イギリスの教会の壁画のほとんどは、セッコであるそうですが、コップフォードの壁画はフレスコで、絵が壁と一体化しており、保存状態が良かったのはそのためではないか、ということです。

コップフォードのような小集落で、しかも、村自体から少々離れた教会が、何故に、こんなに立派だったのかと言うのは、すぐ脇にあった荘園(現在はジョージ王朝時代に建てられたCopford Hall)が古くは、ロンドン司教の所有であったからだそうです。


この教会、リッチゲートもありました。

ポーチ内、正面扉のまえには、「Keep calm and go to church」(心穏やかに、教会に行こう)と書かれたウェルカム・ボードがあり、微笑ませてくれました。こんな場所を散策すると、自然、穏やかな気分になりますよ。

内部のみでなく、外壁も昔は鮮やかに塗られていたと言うのですが、この様子からは、想像するのが難しいです。今はイギリスの田舎の風景の中に溶け込んでいるような雰囲気の教会が、昔は、ちょっと遠くからもくっきり見え、村人をあっと言わせる、それこそ神々しい存在だったのでしょう。

コメント