教会のリッチゲートと正門ポーチ

イギリスの教会の敷地に入るところに、時に、屋根つきの門が立っていたりします。これがリッチゲート(lychgate)。

「lychgate」の語源は、アングロサクソンの言葉で、死体を意味する「lich」。 死体を棺おけに入れてから埋葬するという習慣が始まる前は、死体は経帷子に包んでそのまま埋葬していたわけですが、儀式を行うための牧師さんが到着するまでの間に、この死体を、雨風から守って置いておく場所として、リッチゲートが登場したようです。

やがて棺に収めるのが主流になると、棺を担いできた人たちが、教会の敷地に入る前に、棺を置いて、一休みする場所として使用され、更には、儀式を行う牧師は、ここで葬式の一団と会合し、リッチゲートで、まず、葬式の最初の儀式が執り行われたりしたようです。リッチゲートを出て一行は、今度は、教会の正面ポーチで再び止まり、ここでもまた簡単な儀式を行い、教会内に入り、正式な葬儀、そして埋葬のために墓地へ・・・という段取り。

リッチゲートがまだ残っている教会というのは、比較的数が少ない感じで、さほど頻繁にお目にかかりません。しかも、17世紀以前のリッチゲートが残っている教会は、珍しいという話で、大体のものは再築されているもののようです。かなり大きいもの、座席が付いているもの、石造りのもの、2階がついているものなどもあったそうで、2階の付いている場合、上の部屋は、日曜学校、教区の物置、牧師の部屋、図書館などに使用されていたということ。

さて、教会の正門(多くの場合南側)の前にあるポーチですが、こちらは、教会のドアを雨風から守る他に、雨天の時の村人の雨宿りの場でもあり。木の下に立つよりはずっといいですから。

古い教会のある場は、往々にして村のマーケットがあった場所でもあり、ポーチを利用して、村人達の間で商談や法に基づく取引なども行われたそうです。屋根がある公共の場所という便利さの他に、神様の前で取り交わした約束事は、そう簡単に破れないというわけで。また村人達への伝達事項などもポーチに張り出されることもあり、要は、ちょっとした村人の集会の場所でもあったのです。よって、往々にして、ポーチにもベンチが備え付けてあります。

また、洗礼の儀式、結婚式は、ポーチで始まり、その他簡単な儀式もポーチで執り行われる事があり、上記の通り、葬儀もリッチゲートから棺を抱えて入ってきた一行は、教会に入る前に、ポーチで儀式を行ったりしたようです。大きなポーチ、または2階のあるものは、日曜学校などにも使用され。

上の写真の教会のポーチは、ポーチの入り口に、鉄の扉がついています。わりと珍しいものだそうですが、なんでも、村人を教会の中に入れる前に、形相を見るためだったとかで、ちょっと人相が悪かったり、身なりが悪かったり、酔っていたりすると、入場お断りなんて事あったのでしょうか。

このポーチには、儀式を行う前の牧師が手を洗うための「piscina」というものがドアの右手の壁に埋め込んであり、ポーチに聖壇が存在し、ここでも儀式が行われた名残です。

うちの近くの教会は石のポーチ。

リックを背負って、だんなと買い物に出た帰りは、教会の墓地のベンチで休んだりしまが、雨模様の際は、昔の村人の様に、ポーチの中に入って、雨音を聞きながら、しばし座っていくのも、ちょっとした楽しみです。

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