イギリスの田舎をアルパカぱかぱか

イギリスの田舎で草を食むアルパカ
イギリスの田舎で、アルパカの群れに遭遇するということは、羊の群れに遭遇するより、当然、まだ稀です。けれども、アルパカを飼う農家や個人は着実に増えているようで、先日の散歩で見かけた、このアルパカたちも、イギリスで始めて見たものではありませんし。

イギリスの農家で見たラマ
アルパカは、ラマと良く似ていますが、ラマより小型。双方南米のアンデス山脈そそり立つ中西部、ペルー、チリ、ボリビアの周辺出身。6000年ほど前に、アルパカは野生のビクーナ(vicuna)から、ラマは野生のグアナコ( guanco)という動物から、前者はその毛を目的に、後者は荷物運搬用に、南米原住民により家畜化されたもの。ラマも、アルパカほどではありませんが、イギリスでも、時折、見かけるようにはなってきました。

1532年に、スペインが南米に侵略すると、原住民の数、ひいては彼らが育てていた、アルパカとラマの数も激減。一説によると、90%もの原住民が、スペイン侵略の後に死に絶えたたなどと言います。当時のスペイン人は、アルパカの代わりに、牧草地に羊を導入し、アルパカに価値を見出さなかったようです。したがって、アルパカとラマは、生き残った原住民たちによって、高山地帯で、細々と飼育されながら、それでも絶滅を逃れ。昨今、人気となってきているアルパカの毛の需要増加につれ、南米でのアルパカの数も、再び増えて行っているようです。

イギリスで、アルパカの毛が本格的に織物業に使用されたのは、1836年頃のこと。ヨークシャー州ブラッドフォードに織物工場を有した、実業家タイタス・ソルト(Titus Salt)によるものです。タイタス・ソルトは、1851年に、工場労働者たちが、良い環境の中で生活できるよう考慮したモデル・ヴィレッジのソルテアの建設者としても知られています。彼の工場で製造されたアルパカの毛織物の影響で、アルパカ製品は、ビクトリア朝イギリスで人気のファション・アイタムとなるのです。

動物のアルパカ自体がイギリスで飼育され始めるのも19世紀ですが、この時代は、動物園で飼育されたものがほとんど。もっとも、ヴィクトリア女王とアルバート公は、ペットとして、白黒一匹ずつのアルパカを飼っていたそうです。1995年と、わりと最近になって、チリから300頭のアルパカがイギリスに輸入され、更に、1998年にはペルーからもアルパカの輸入が行われ、農家での飼育者、ブリーダーの数も徐々に増えていっており、現段階で、イギリスでは、約10万頭のアルパカが飼育されているということ。ですから、うちの近所の田舎を歩いていても、アルパカに遭遇するわけです。

南米や、イギリスを含むヨーロッパ以外でも、アメリカ、オーストラリア、ニュージーランド、南アフリカ、中国などでも、アルパカの飼育が広がっていっているようです。現在、羊毛の価格は落ち込み、羊の飼育は肉が目的ですが、なめらかで暖かいとされるアルパカの毛は、羊毛よりも高値で売れるということ。

アルパカには、ワカイヤ(Huacaya)とスリ(Suri)という2種があり、ワカイヤ種は、毛が皮膚から直角に生えるため、見た目がもこもこと、テディー・ベアのようなもの。スリ種は、毛が束になって、巻き毛の様に釣り下がっているもの。私が遭遇したのは、テディー・ベア風でしたので、ワカイヤですね。羊毛は、顕微鏡で拡大してみると、うろこ状のものが沢山ついており、これが、皮膚にちくちくする原因のようですが、アルパカの毛は、羊毛より、このうろこの数が少ないため、滑らか。特にスリ種の毛は、ワカイヤ種より、更にうろこの数が少なく、絹の触感と光沢があるそうです。

また、羊毛は、毛を刈った後、ラノリン(羊毛脂)や、その他の毛に絡まった不純物を取り除くための洗浄作業(scouring)が必要となります。この処理により、羊毛の重さは、30%減少。こうした処理をする工場での副産物であるラノリンは、石鹸や化粧業界などで使用されるという事。昔は、この作業、刈った羊毛を、大量のおしっこに漬けて上から踏む、などという事もしていたようですので、なかなか大変だったのでしょう。一方、アルパカの毛は、このラノリンの含有量が非常に少ない乾いた素材であるため、処理をせずに、そのまま紡ぐことが可能。ですから、直接アルパカ農場から毛を購入し、昔ながらの糸つむぎ機でつむぐ人などもいるのだとか。熱烈な手芸好きであれば、確かに、多様の色の毛を直接購入し、自分で紡ぎ、アルパカ製品を編んでみる、というのも楽しいかもしれません。

南米では、白いアルパカの毛をカラフルに染めるのが主流のようですが、昨今、エコ、自然回帰ブームのヨーロッパでは、アルパカの毛の自然色を利用しての製品が人気であるとか。正式に承認されているアルパカの毛色は、現段階で、計22色だそうです。もっとも、イギリス国内での、アルパカの毛の値段を調べたところ、質にもよるでしょうが、染色が可能な白のものが、やはり、一番高い値段で取引されているようです。

イギリス内では、こうした、アルパカの毛の販売が目的という農家もあるでしょうし、農場の一部を一般公開するための家族連れの客引き用、または、比較的、手間のかからない家畜だそうで、ただ単にペットとして育てる人もいるようです。ただし、ペットと言っても、群れを成して行動する動物なので、動物の精神衛生上のために、1頭だけ飼うのは良くないらしいですね。また、アルパカもラマもぴゅーっと唾を吐く癖があるのだそうで、側にいる時、唾をかけられない用心は必要?

さて、そのうちに、イギリスの田舎の景色にアルパカがいるのは当たり前・・・のような日は来るでしょうか。

*ここに載せた情報の多くは、イギリスのアルパカ協会のサイトより。

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