空気が無ければ生きられない
イングランドはダービー出身の18世紀の画家、ジョセフ・ライト Joseph Wright(通称、ライト・オブ・ダービーWright of Derby )による、1768年に描かれた上の絵「An Experiment on a Bird in the Air Pump 空気ポンプ内の鳥への実験」は、ロンドンのナショナル・ギャラリーにあります。かなり大きな絵ですので、ナショナル・ギャラリーに足を踏み入れた事があれば、特に注意をはらっていなくても、「あ、何となく、目にした記憶がある」という人もいるかもしれません。産業革命の題材を扱った最初の画家、また闇の中の光を効果を求めた画家として知られるジョセフ・ライト。友人には、産業革命を前進させた実業家達や、科学者も多く、こんな題材もそれを反映するもの。
この絵は、中心に立つ自然科学者が、内部に真空を作る空気ポンプを使用して、生物が行き続けるには空気が必要という実験を行っているところ。本格的化学室での実験と言うより、簡単な、家庭でのデモンストレーションといった感じ。科学者が、ポンプ内の空気を外に出した結果、息苦しくなっていくため、ぱたつく内部の鳥。科学者の右手にいるお父さんは、ペットの鳥の苦境に嘆く女の子達に、何が起こっているのかの説明。テーブル右端に座る老人は、1人、死に思いをめぐらせ。右手上の少年は、科学者が、再びポンプ内に空気を戻し、ペットの鳥を助けてくれる事を期待し、鳥かごを下ろし。科学者左手の若いカップルは、実験などそっちのけで、見つめあい。左手手前の少年と青年は熱心に実験を見守る。神の様に佇む自然科学者、鳥の命を生かすも殺すも彼の判断次第。
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真空ポンプは、もともとは、この絵の描かれる100年以上前の1650年ころ、当時は存在し得ないとされていた「真空」というものの研究を行ったドイツ人科学者オットー・フォン・ゲーリケ(Otto von Guericke)が、発明したものです。絵の中のテーブルの上には、またオットー・フォン・ゲーリケが考案した、マクデブルクの半球(Magdeburg spheres)が置かれています。このマクデブルクの半球は、半球2つを合体させて球を作り、中の空気を抜き真空にすると、外からの気圧の影響で、球はぴっちりと塞がったままとなり、ちょっとやそっとの力では、開ける事ができなくなるというもの。実験の際、球の両側を、それぞれ8頭(計16頭)の馬にひっぱらせて、ようやく、再び開く事ができたそうです。ふと思ったのですが、タイルやガラス戸などに、吸盤を付けて使用するタオルかけなども、マクデブルクの半球と同じ原理でしょうね。空気を押し出して、表面と吸盤内を出来る限り真空に近い状態にする事でくっつけるわけですから。このタオルかけを吸着させる表面がぼこぼこだったり、汚かったりすると、内部に空気が漏れてしまい、タオルごと、ばさっと床に落ちてしまい、「なによ、また落っこっちちゃった!」となるわけですが。
イギリスで始めて作られた真空ポンプは、1659年、やはり真空へ興味を持っていた化学者、ロバート・ボイル(Robert Boyle)が、彼の実験室での助手であり、ロンドンのモニュメントの設計者としても知られるロバート・フック(Robert Hooke)に依頼して作らせたもの。フックは、元となったゲーリケのポンプを大幅に改善させ、小型で、使用しやすく、更にパフォーマンスもぐっと良くしたようです。当時は、こういうものを作るのには、かなりの金がかかったのですが、ロバート・ボイルは、英国で一番の金持ちと言われた人物の息子で、懐は深かったのです。
ロバート・ボイルは、この真空ポンプを用いて、色々な実験を行っています。それにより、空気が無いとろうそくの火は消える、また、ジョセフ・ライトの絵の様に、内部に入れた動物は空気が無いと死亡する、そして、真空内では音が伝達されない・・・等の発見をするわけです。
ロバート・ボイルは、また「ボイルの法則」(Boyle's Law)で知られる人。ボイルの法則とは、温度が一定の時、気体の体積とそれにかかる圧力は反比例する、というもの。強い圧力により、空気の体積が小さくなると、空気の密度は高くなり、ゆるめの圧力で空気の体積が大きくなると、その密度は低くなる・・・よって、海面に近い平地より、大気圧が弱い高山のてっぺんに登ったりすると、空気がちょいと薄くて呼吸するのが大変、などという事になるわけです。
空気の中でも、「酸素」というものの存在が発見されるのは、ボイルの時代をはるかに超し、ジョセフ・ライトの絵が描かれた少し後の1770年代になってからとなります。
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インフルエンザにかかってしまったうちのだんな。普通の人なら、げぼげぼ咳をし、タンをはき、鼻水をたらし、熱をだしながらも、やがては、回復したのでしょうが、なにせ、白血病の結果、骨髄移植までうけている人なので、外部からの菌類の攻撃に非常に弱いのです。肺がやられ、入院騒ぎとなりました。血液内の酸素の量が非常に少なくなり、しばらく酸素マスクをあてての病室での生活。酸素マスク無しで、廊下を10メートルも歩くと、もうふらふら、ぜいぜいと、立っていられない状態に陥り。ようやく、体内の菌も退治され始めたか、身体をさほど動かさなければ、長時間、酸素マスク無しでもすごせるようにはなりましたが。血液中の酸素値が、又以前のようになるまでは、まだ少々時間がかかるかもしれません。それでも酸素マスクをし、げぼげぼしながら、喋る事、喋る事。あれだけ喋る元気があれば大丈夫でしょう。
いずれにしても、動物は酸素が無ければ生きられない、酸素を取り込む能力をなくしたら生きられない、と改めて実感したのです。
この絵は、中心に立つ自然科学者が、内部に真空を作る空気ポンプを使用して、生物が行き続けるには空気が必要という実験を行っているところ。本格的化学室での実験と言うより、簡単な、家庭でのデモンストレーションといった感じ。科学者が、ポンプ内の空気を外に出した結果、息苦しくなっていくため、ぱたつく内部の鳥。科学者の右手にいるお父さんは、ペットの鳥の苦境に嘆く女の子達に、何が起こっているのかの説明。テーブル右端に座る老人は、1人、死に思いをめぐらせ。右手上の少年は、科学者が、再びポンプ内に空気を戻し、ペットの鳥を助けてくれる事を期待し、鳥かごを下ろし。科学者左手の若いカップルは、実験などそっちのけで、見つめあい。左手手前の少年と青年は熱心に実験を見守る。神の様に佇む自然科学者、鳥の命を生かすも殺すも彼の判断次第。
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真空ポンプは、もともとは、この絵の描かれる100年以上前の1650年ころ、当時は存在し得ないとされていた「真空」というものの研究を行ったドイツ人科学者オットー・フォン・ゲーリケ(Otto von Guericke)が、発明したものです。絵の中のテーブルの上には、またオットー・フォン・ゲーリケが考案した、マクデブルクの半球(Magdeburg spheres)が置かれています。このマクデブルクの半球は、半球2つを合体させて球を作り、中の空気を抜き真空にすると、外からの気圧の影響で、球はぴっちりと塞がったままとなり、ちょっとやそっとの力では、開ける事ができなくなるというもの。実験の際、球の両側を、それぞれ8頭(計16頭)の馬にひっぱらせて、ようやく、再び開く事ができたそうです。ふと思ったのですが、タイルやガラス戸などに、吸盤を付けて使用するタオルかけなども、マクデブルクの半球と同じ原理でしょうね。空気を押し出して、表面と吸盤内を出来る限り真空に近い状態にする事でくっつけるわけですから。このタオルかけを吸着させる表面がぼこぼこだったり、汚かったりすると、内部に空気が漏れてしまい、タオルごと、ばさっと床に落ちてしまい、「なによ、また落っこっちちゃった!」となるわけですが。
イギリスで始めて作られた真空ポンプは、1659年、やはり真空へ興味を持っていた化学者、ロバート・ボイル(Robert Boyle)が、彼の実験室での助手であり、ロンドンのモニュメントの設計者としても知られるロバート・フック(Robert Hooke)に依頼して作らせたもの。フックは、元となったゲーリケのポンプを大幅に改善させ、小型で、使用しやすく、更にパフォーマンスもぐっと良くしたようです。当時は、こういうものを作るのには、かなりの金がかかったのですが、ロバート・ボイルは、英国で一番の金持ちと言われた人物の息子で、懐は深かったのです。
ロバート・ボイルは、この真空ポンプを用いて、色々な実験を行っています。それにより、空気が無いとろうそくの火は消える、また、ジョセフ・ライトの絵の様に、内部に入れた動物は空気が無いと死亡する、そして、真空内では音が伝達されない・・・等の発見をするわけです。
ロバート・ボイルは、また「ボイルの法則」(Boyle's Law)で知られる人。ボイルの法則とは、温度が一定の時、気体の体積とそれにかかる圧力は反比例する、というもの。強い圧力により、空気の体積が小さくなると、空気の密度は高くなり、ゆるめの圧力で空気の体積が大きくなると、その密度は低くなる・・・よって、海面に近い平地より、大気圧が弱い高山のてっぺんに登ったりすると、空気がちょいと薄くて呼吸するのが大変、などという事になるわけです。
空気の中でも、「酸素」というものの存在が発見されるのは、ボイルの時代をはるかに超し、ジョセフ・ライトの絵が描かれた少し後の1770年代になってからとなります。
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インフルエンザにかかってしまったうちのだんな。普通の人なら、げぼげぼ咳をし、タンをはき、鼻水をたらし、熱をだしながらも、やがては、回復したのでしょうが、なにせ、白血病の結果、骨髄移植までうけている人なので、外部からの菌類の攻撃に非常に弱いのです。肺がやられ、入院騒ぎとなりました。血液内の酸素の量が非常に少なくなり、しばらく酸素マスクをあてての病室での生活。酸素マスク無しで、廊下を10メートルも歩くと、もうふらふら、ぜいぜいと、立っていられない状態に陥り。ようやく、体内の菌も退治され始めたか、身体をさほど動かさなければ、長時間、酸素マスク無しでもすごせるようにはなりましたが。血液中の酸素値が、又以前のようになるまでは、まだ少々時間がかかるかもしれません。それでも酸素マスクをし、げぼげぼしながら、喋る事、喋る事。あれだけ喋る元気があれば大丈夫でしょう。
いずれにしても、動物は酸素が無ければ生きられない、酸素を取り込む能力をなくしたら生きられない、と改めて実感したのです。
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