炭酸水(スパークリングウォーター)

日本のレストランに行くと、お水とお手拭などを無料サービスで出してくれますが、イギリスのレストランでは、お水は有料。水道水を無料で出してくれるレストランも無いので、水が飲みたければ、ボトル入りのミネラル・ウォーターを注文する事となります。その際に、聞かれるのが、

「Still or Sparkling?」

Still Water(直訳:静かな水)は、普通のミネラル・ウォーター。 Sparkling Water(直訳:生き生きした水)は、二酸化炭素入りの、いわゆる炭酸水です。大陸ヨーロッパのレストランでも、水を注文すると、「ガス入りか?ガス無しか?」と聞かれるのではないでしょうか。うちは、炭酸水の方が好きなので、ボトル入りのスパークリングウォーターを、常時、半ダースくらい買いだめしてあります。外食の時の飲み物も、ほとんどスパークリングウォーターです。スパークリングウォーターが、身体に悪いなどという話も、徘徊したりしていましたが、これは、ガセネタのようで、スティルウォーターもスパークリングウォーターも、特に健康の向上や悪化には、関係ないようです。口の中でしゅわしゅわっとなる感覚の好きな人は、歯が解けるだとか、胃に穴が開くだとかの心配をせずに、スパークリングウォーターを飲んでも大丈夫。英語で炭酸水は、以前は、Soda Waterなどと呼ばれていた事もあり、他に、 Carbonated Waterとも呼ばれることもありますが、レストランでは、スパークリングウォーターと言って、注文しましょう。

炭酸水を始めて作り、これを飲むとおいしいぞ、と気がついたのは、前回の「酸素の発見」の記事でも言及したジョセフ・プリーストリーなのです。彼は、酸素を発見する前に、すでに、このぶくぶくの入った水で名をなして、ヨーロッパでも有名になっていたと言います。

1767年に、リーズに住んでいたジョセフ・プリーストリーのお隣さんは、ビール醸造所。そこで、プリーストリーは、醸造の際に発生するガスを集めて、色々実験を行ったのです。ガスのそばに火を近づけると消える、ガスの中のネズミは死ぬ・・・などなど。このガスは、当然、二酸化炭素だったわけですが、二酸化炭素は、すでにスコットランドの化学者、ジョゼフ・ブラック(Joseph Black)により、1750年代に発見、研究しており、「Fixed Air」(動かない・固定された空気)と名づけられていました。ブラックは、このガスが、火や生命を維持できず、さらには、呼吸や発酵などの結果によって発生するなどに気がついていたようです。

プリーストリーは、やがて、このFixed Airを水に混ぜて、それを飲んでみると、「なかなかイケル!」となるのです。「おいしいよ」と、友達にもご馳走したりして。ネズミを殺してしまう気体の混ざった水を飲んでみよう、というのも、なかなか肝の座った話です。当時の化学者は、得体の知れない物の、臭いをかいだり、なめたり、火をつけたりと、危険をものともせずの、体当たりだったのですよね。中には、怪我をしたり、気分が悪くなったりした人もいたことでしょう。1772年に、プリーストリーは、硫酸をチョーク(石灰岩)に落とす事でFixed Gasを発生させ、それを水に注入し、炭酸水を作る旨を文献で発表。なぜか、当時は、炭酸水は、船乗りの病気として恐れられていた壊血病に効くと考えられたのだそうです。

プリーストリー自身は、これをビジネスに結び付けて、金儲け・・・という考えは浮かばなかったようですが、プリーストリーのこの爽快な口当たりの水に、ビジネスチャンスと目を付けたのが、ドイツ人でスイスに住んでいた時計技師ヨハン・ヤコブ・シュウェップ。彼は、ジュネーブで、炭酸水を大量生産して、ボトルにつめ、商業化する事に成功し、1783年に、清涼飲料水の老舗、シュウェップス(Schweppes)社を創立。1792年には、ロンドンに工場を設立。後に、シュウェップス社は、炭酸水にキニーネと砂糖を加えたトニックウォーターの製造販売も行います。

こうして、世にスパークリングウォーターを与えてくれたジョセフ・プリーストリーは、化学は、万人が、気軽に自宅でできるもの、という態度を持って、好奇心に駆られての数々の実験を行った人物。こういう人が化学の先生だったり、近所に住んでいたりしたら、面白いかもしれません。得体の知れない水や混合物を、「ちょっと、どうだい?」と、飲まされてしまうかもしれない、という多少の危険を除けば!

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