イプスウィッチ散策

前回の投稿「パーゲッティングの建物」で言及したサフォーク州の州都イプスウィッチ(Ipswich)という町は、統一したイメージを抱き難い町でした。

特に駅の周辺に多い、新しい(往々にして醜い)建物、町の中心部にいくつか残るチューダー朝にも遡る古い、風情の良い建物、数多くの美しい教会。新旧、美醜を、紙袋に突っ込み、ゆさゆさ振ってから、その中身をばーっと散りまいた・・・そんな感じの町です。全体的には牧歌的イメージの強いサフォーク州にありながら、この町は、個人的には、少々柄が悪い印象でしたし、最近では、売春婦の連続殺人事件などもあり、さらに印象が悪化してしまった気もします。行ってみると、捨てたものでもなく、それなりに見所があるのです。

中心地区でも、ところどころ古い建物の間に。見栄えの悪い新しいコンクリートの建物が建っているのは、大戦中に、ドイツの爆撃にあったかな?と調べてみたら、やはり、やられていました。第1次大戦で、ドイツのツェッペリンからの爆撃、更に、これより大きな被害は第2次大戦でのドイツ軍爆撃。特に川沿いのドックランズ周辺は多大な被害だったと言う事。こうして見ると、ロンドン外でも、戦時中、爆撃の被害に合っている町はわりと多いのです。

ヨットが多く停泊した川沿いは、今では、ちょっと見ると、ロンドンのセント・キャサリンズ・ドック風でおしゃれなムードもあります。

イプスウィッチを流れる川の名は、オーウェル川。作家のジョージ・オーウェルの名は、この川が由来。彼は、オーウェル川が好きで、自分のペンネームとして使用したとのこと。

昔の建物を改造したレストランもドック脇にあり。

中心部にある、立派なタウンホールの建つ広場には野菜などの屋台がならぶ市がたっていました。ここだけ見ると、大陸ヨーロッパの町並みの雰囲気。

日本では一切なじみが無いかもしれませんが、こちらのタブロイド新聞デイリーエクスプレスに長い間漫画を連載していた、カール・ジャイルズ(Carl Giles:ただ単にジャイルズと呼ばれる事がほとんど)という有名な漫画家がいましたが、この人の漫画のキャラクターの1人、グランマ(Grandma、おばあちゃん)の像が、街中にでんと立っていました。ジャイルズが以前働いていた新聞社にむかって立っている記念碑だそうです。

私も、この人のひとこま漫画集を一冊持っています。新聞に掲載されたものなので、当時のトピック、時事、事件を組み込んだものが多く、そう意味でも面白いです。グランマが、今は亡きクイーン・マザーの誕生日に、ビールを飲もうと誘いに行く、1988年8月4日掲載の上の漫画は、A Celebration of Gilesのサイトより拝借しました。


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さて、もともと、イプスウィッチに足を伸ばしたのは、町の北部、駅から徒歩20分ほどのところにある屋敷、クライストチャーチ・マンション(Christchurch Mansion)を見に行くため。

大きなクライストチャーチ公園内にありますが、この辺の土地は以前は近郊にあった修道院のものだったのを、ヘンリー8世の修道院解散により没収され、後、個人に売られ、館の大元は、16世紀半ばに、建てられたもの。内部は無料で一般公開。

18世紀前半、ジョージ王朝時代、館はユグノー(フランス、プロテスタントの移民)の家庭に買われ、このころの様子を再現した部屋がいくつかありました。また、ヴィクトリア朝の子供のおもちゃや人形の家なども見られました。

館内の一部屋はアート・ギャラリーにもなっており、サフォーク州サドベリーの出身で、一時、イプスウィッチにも住んでいたトマス・ゲインズバラや、やはりこの辺りの出身のジョン・コンスタブルの作品が見られます。ここにあるゲインズバラの作品は、風景画なども含め、故郷サドベリーにある生家、ゲインズバラ・ハウスのものより良かった気がします。

館内のカフェで、簡単なランチをした後、ラッパ水仙が盛りの公園をそぞろ歩きました。

クライストチャーチ・マンションのサイト

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追記
この記事を書いた約3か月後の2011年6月末、トマス・ウルジー(Thomas Wolsey)の像が、新しくイプスウィッチに設置されました。

トマス・ウルジーは、1470年または1471年に、イプスウィッチの肉屋の息子として生まれ、ヘンリー8世時代、ヨーク大司教、そして枢機卿、更には大法官として、ヘンリー8世の離婚騒ぎで失脚するまで、王の右腕としてイングランドの政治を牛耳った人物。像のある場所は、一番上に載せた写真に写る、チューダー朝のハーフティンバーの建物から、通りを渡ってすぐ向かいですが、なんでも、この辺りに彼が生まれ育った家があったのだそうです。彼は猫好きで、常にそばに猫がいたという事で、背後から、猫が寄り添うように顔を出しています。ウルジーは、おそらくイプスウィッチ出身の一番有名な人物なので、今まで像が無かったのも不思議ですが、威風堂々、昔からここにいたような顔をして椅子に座っています。

当像がお披露目されたときのセレモニーの模様の写真は、下のBBCのサイトで見れます。
http://www.bbc.co.uk/news/uk-england-suffolk-13965090

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