インドのマサラティー
先月、知り合いのインド人夫婦の家を訪れ、ランチをご馳走になりました。
食後、飲み物なにがいいかと聞かれ、私は思わず「イングリッシュ・ティー。」と答えると、「インディアン・ティーでいいかな。」とにやっと笑って返事が返ってきました。考えてみれば、以前、彼らを訪れたときも、同じやり取りをしたような記憶が。私は、緑茶(グリーンティー)と区別して、紅茶が良いな、という意味でイングリッシュ・ティーと言ったのですが、彼らにとって、紅茶(こちらでは、ブラック・ティーと言いますが)は、インドのもの。イギリスでは、紅茶葉は育ちませんから、厳密には、インディアン・ティーと呼んだ方が正解ではあるのでしょう。
さらにしつこく歴史を遡ると、インドの紅茶も、もとは、中国から来たもの。イギリスで、紅茶が人気になるにつれ、イギリスは、中国から紅茶を大量に買い続け・・・。イギリス側は、何とか、中国に頼る事無く紅茶を手に入れる方は無いかと、大英帝国下のインドに、中国からの茶の葉を植え、育て方のノウハウを密かに集めさせて、インドの茶園に作り成功したわけです。今でこそ、紅茶はインドではありますが、本当だったら、イングリッシュ・ティーでもインディアン・ティーでもなく、チャイニーズ・ティーと呼ばねばならないところでしょうか。
Not for all the tea in China.
という英語の表現もあります。「どんな貴重なものを代償にもらっても決してxxしない・・・」という意味で使います。
例えば、
I would not betray you for all the tea in China!
中国中のお茶と引き換えにしても、君の事は裏切らんぞ。
=君の事は絶対に裏切らんぞ。
また、最近は、イギリスで消費される紅茶の大半は、東アフリカ産のようで、うちで最近買ったリーフティーの原産国はケニアとなっていました。東アフリカに茶の栽培が導入されたのは、20世紀初頭のこと。日常用の葉なら、今は、アフリカからの方が安いのかもしれません。
さて、このインド人夫婦によると、インドで紅茶を買う際は、お茶の葉を売る店に行き、大体いくらお金を使いたいかによって、高い葉や、安い葉を適当に混ぜて売ってくれるそうです。やれ、イングリッシュ・ブレックファーストだ、アールグレイだ、という風にパッケージ毎にブレンドの品名で売られている事はほとんどなく、価格が決め手。日常良く使うものなので、そうそう高い葉ばかり買う家庭も少ないのではと。まあ、考えてみれば、うちも、スーパーの自社ブランドのリーフティー(ティーバックでないお茶の葉)を、大体の場合使っていますから。良質といわれるダージリンなども、実際にダージリンのティーガーデンに行けば、ダージリンと称したものが買えるそうですが、他の都市で、ダージリンと称したものをパッケージにして売っているのは、ほとんど見た事がないそうです。
話は、更に、マサラティー(マサラチャイ)へと進み。ああいう、スパイスを沢山使う飲み方は、葉も安物を使用する事が多いだろう、と。葉自体の味がいまひとつなので、スパイスでごまかす・・・というやつ。確かに、スパイスや柑橘類を入れる、ムルドワインなどにも、ビンテージの高級ワインは使う事は無いわけだし。
手持ちの食べ物辞典によると、マサラ(masala)とは、スパイスのミクスチャー(混合物)の意味だそうです。どのスパイスを混ぜるかは、インド内で地方差があるようですが。
と言う事で、マサラティーを家で用意してみる事にしました。参考としたインド系女性料理家のレシピはこちら(英語)。
このレシピを訳すと・・・
材料(1カップ用)
水 350ml
ミルク 100ml
黒コショウ4粒
軽くつぶしたグリーン・カルダモン(green cardamom pods)10個
グリーン・フェンネルシード(green fennel seeds)1つまみ
シナモンスティック(cinnamon stick)1本
むいて粗くきざんだしょうが 1テーブルスプーン
ティーバッグ 1つ
砂糖
好みで塩 少々
1.スパイス類と、ミルクと水を入れた小鍋を、火にかけ、沸騰させる。のちに、火力を弱くし、15分煮る。その際、ミルクが吹きこぼれぬよう、注意。
2.水分が、大きめのカップ一杯くらいの量に減ったら、ティーバッグを入れ、約1分蒸らす。濃い紅茶が好きな人は、もっと長く入れておく。
3.材料をこして、カップへそそぐ。好みにより、砂糖、塩を加える。
ミルクティーも砂糖無しで飲むのが好きなので、これも私は砂糖入れずに飲みました。美味しいです。蜂蜜入れてもいいですね。塩を入れる・・・というのはどんなものでしょうね。私はトライしませんでしたが。あとは、しょうがの分量を入れすぎると、なかなか強烈な味になりますので、適当に加減して入れたほうが良いかと思います。ティーバッグでなく、リーフティーを使いましたが、量としては、小スプーン1杯で、十分味が出ました。
このマサラティーに使うスパイス。上の写真で皿の上に、顔の様に配列してみました。左目はグリーン・カルダモン、右目がフェンネルシード、そしてお口がシナモン・スティック。
カルダモンは、南インドとスリランカが原産で、現在は、この2国の他、ガテマラやタンザニア等で生産されているということ。口に含んで、ガムのように噛むと、さっぱりとした香りで口臭を消すのに良く、また消化にも良いスパイスとされます。
フェンネルシードも、同様、口に含んで噛むと口臭に良いとのこと。アニシード風味です。
お馴染みシナモン。写真のものは、シナモンとは言っても、カシア・シナモン(シナニッケイ)で中国や北ベトナムあたりが原産。カシア・シナモンより、値段も格も上の、いわゆる、「本物のシナモン」または「セイロン・シナモン」と呼ばれるのは、スリランカ原産(正式名 Cinnamonum zeylanicum または、Cinnamonum verum)。最近、専門店に行かず、スーパーなどでシナモン・スティックとして売っているものは、大体が前者のカシア・シナモンなのだそうです。
昔、日本で、シナモンの入ったガムのコマーシャルで、「シナモン(品物)が違う」というキャッチフレーズを使っていたのを覚えていますが、正にその通り。シナモンだと思って買っても、カシアですから。
スティックでの、この両者の見分け方は、
*カシアは、黒っぽく赤みがかった茶色だが、本物のセイロン・シナモンの方が色が薄い
*カシアは、両端から巻いた様な形だが、シナモンは、葉巻のように一端から巻いた形
*カシアは、太く固いが、シナモンは薄く崩れやすい
パウダーにしたものは、ほとんどの場合カシアが入っているようです。原材料が明記して無い限り分かりにくいですし。
味としては、本物のシナモンの方が、デリケートで、シトラス、クローブ、花の香りがするとのことです。姿も香りもデリケートというところでしょうか。この2者の違いについて更に詳しくはこちらまで(英語)。
さて、カシアも含め、シナモンはエジプト、古代ギリシャ・ローマに遡り、長く重宝されてきたスパイスだという事ですが、昔このスパイスの貿易を牛耳っていたアラブ人は、その原産地を秘密としていたため、後のヨーロッパの探検家達の目的のひとつにも、シナモン(及び他の貴重なスパイス)の原産地を探す事、があったようです。
16世紀初頭にポルトガルが、スリランカに原生のシナモンを見つけ、島に留まり、この貴重なスパイスの取引を始める。その後17世紀に、オランダがスリランカに根を下ろし、同時にシナモンの独占売買もオランダの手に。更に1796年、今度は、イギリスがこの地にやって来て、イギリス東インド会社がオランダに取って代わって、1833年までシナモンの独占取引を行います。
シナモンだけに限らず、ナツメグ等、他のスパイスをめぐっての、英蘭の熾烈な争いに関する本を以前読んだことがあります。そこまで貴重だったスパイスも、今は、比較的たやすく入手して、こうして私の様な一般庶民も、昔の探検家達の冒険航海を頭に描きながら、家でエキゾチックな風味のマサラティーを飲める・・・よかったな・・・。
食後、飲み物なにがいいかと聞かれ、私は思わず「イングリッシュ・ティー。」と答えると、「インディアン・ティーでいいかな。」とにやっと笑って返事が返ってきました。考えてみれば、以前、彼らを訪れたときも、同じやり取りをしたような記憶が。私は、緑茶(グリーンティー)と区別して、紅茶が良いな、という意味でイングリッシュ・ティーと言ったのですが、彼らにとって、紅茶(こちらでは、ブラック・ティーと言いますが)は、インドのもの。イギリスでは、紅茶葉は育ちませんから、厳密には、インディアン・ティーと呼んだ方が正解ではあるのでしょう。
さらにしつこく歴史を遡ると、インドの紅茶も、もとは、中国から来たもの。イギリスで、紅茶が人気になるにつれ、イギリスは、中国から紅茶を大量に買い続け・・・。イギリス側は、何とか、中国に頼る事無く紅茶を手に入れる方は無いかと、大英帝国下のインドに、中国からの茶の葉を植え、育て方のノウハウを密かに集めさせて、インドの茶園に作り成功したわけです。今でこそ、紅茶はインドではありますが、本当だったら、イングリッシュ・ティーでもインディアン・ティーでもなく、チャイニーズ・ティーと呼ばねばならないところでしょうか。
Not for all the tea in China.
という英語の表現もあります。「どんな貴重なものを代償にもらっても決してxxしない・・・」という意味で使います。
例えば、
I would not betray you for all the tea in China!
中国中のお茶と引き換えにしても、君の事は裏切らんぞ。
=君の事は絶対に裏切らんぞ。
また、最近は、イギリスで消費される紅茶の大半は、東アフリカ産のようで、うちで最近買ったリーフティーの原産国はケニアとなっていました。東アフリカに茶の栽培が導入されたのは、20世紀初頭のこと。日常用の葉なら、今は、アフリカからの方が安いのかもしれません。
さて、このインド人夫婦によると、インドで紅茶を買う際は、お茶の葉を売る店に行き、大体いくらお金を使いたいかによって、高い葉や、安い葉を適当に混ぜて売ってくれるそうです。やれ、イングリッシュ・ブレックファーストだ、アールグレイだ、という風にパッケージ毎にブレンドの品名で売られている事はほとんどなく、価格が決め手。日常良く使うものなので、そうそう高い葉ばかり買う家庭も少ないのではと。まあ、考えてみれば、うちも、スーパーの自社ブランドのリーフティー(ティーバックでないお茶の葉)を、大体の場合使っていますから。良質といわれるダージリンなども、実際にダージリンのティーガーデンに行けば、ダージリンと称したものが買えるそうですが、他の都市で、ダージリンと称したものをパッケージにして売っているのは、ほとんど見た事がないそうです。
話は、更に、マサラティー(マサラチャイ)へと進み。ああいう、スパイスを沢山使う飲み方は、葉も安物を使用する事が多いだろう、と。葉自体の味がいまひとつなので、スパイスでごまかす・・・というやつ。確かに、スパイスや柑橘類を入れる、ムルドワインなどにも、ビンテージの高級ワインは使う事は無いわけだし。
手持ちの食べ物辞典によると、マサラ(masala)とは、スパイスのミクスチャー(混合物)の意味だそうです。どのスパイスを混ぜるかは、インド内で地方差があるようですが。
と言う事で、マサラティーを家で用意してみる事にしました。参考としたインド系女性料理家のレシピはこちら(英語)。
このレシピを訳すと・・・
材料(1カップ用)
水 350ml
ミルク 100ml
黒コショウ4粒
軽くつぶしたグリーン・カルダモン(green cardamom pods)10個
グリーン・フェンネルシード(green fennel seeds)1つまみ
シナモンスティック(cinnamon stick)1本
むいて粗くきざんだしょうが 1テーブルスプーン
ティーバッグ 1つ
砂糖
好みで塩 少々
1.スパイス類と、ミルクと水を入れた小鍋を、火にかけ、沸騰させる。のちに、火力を弱くし、15分煮る。その際、ミルクが吹きこぼれぬよう、注意。
2.水分が、大きめのカップ一杯くらいの量に減ったら、ティーバッグを入れ、約1分蒸らす。濃い紅茶が好きな人は、もっと長く入れておく。
3.材料をこして、カップへそそぐ。好みにより、砂糖、塩を加える。
ミルクティーも砂糖無しで飲むのが好きなので、これも私は砂糖入れずに飲みました。美味しいです。蜂蜜入れてもいいですね。塩を入れる・・・というのはどんなものでしょうね。私はトライしませんでしたが。あとは、しょうがの分量を入れすぎると、なかなか強烈な味になりますので、適当に加減して入れたほうが良いかと思います。ティーバッグでなく、リーフティーを使いましたが、量としては、小スプーン1杯で、十分味が出ました。
このマサラティーに使うスパイス。上の写真で皿の上に、顔の様に配列してみました。左目はグリーン・カルダモン、右目がフェンネルシード、そしてお口がシナモン・スティック。
カルダモンは、南インドとスリランカが原産で、現在は、この2国の他、ガテマラやタンザニア等で生産されているということ。口に含んで、ガムのように噛むと、さっぱりとした香りで口臭を消すのに良く、また消化にも良いスパイスとされます。
フェンネルシードも、同様、口に含んで噛むと口臭に良いとのこと。アニシード風味です。
お馴染みシナモン。写真のものは、シナモンとは言っても、カシア・シナモン(シナニッケイ)で中国や北ベトナムあたりが原産。カシア・シナモンより、値段も格も上の、いわゆる、「本物のシナモン」または「セイロン・シナモン」と呼ばれるのは、スリランカ原産(正式名 Cinnamonum zeylanicum または、Cinnamonum verum)。最近、専門店に行かず、スーパーなどでシナモン・スティックとして売っているものは、大体が前者のカシア・シナモンなのだそうです。
昔、日本で、シナモンの入ったガムのコマーシャルで、「シナモン(品物)が違う」というキャッチフレーズを使っていたのを覚えていますが、正にその通り。シナモンだと思って買っても、カシアですから。
スティックでの、この両者の見分け方は、
*カシアは、黒っぽく赤みがかった茶色だが、本物のセイロン・シナモンの方が色が薄い
*カシアは、両端から巻いた様な形だが、シナモンは、葉巻のように一端から巻いた形
*カシアは、太く固いが、シナモンは薄く崩れやすい
パウダーにしたものは、ほとんどの場合カシアが入っているようです。原材料が明記して無い限り分かりにくいですし。
味としては、本物のシナモンの方が、デリケートで、シトラス、クローブ、花の香りがするとのことです。姿も香りもデリケートというところでしょうか。この2者の違いについて更に詳しくはこちらまで(英語)。
さて、カシアも含め、シナモンはエジプト、古代ギリシャ・ローマに遡り、長く重宝されてきたスパイスだという事ですが、昔このスパイスの貿易を牛耳っていたアラブ人は、その原産地を秘密としていたため、後のヨーロッパの探検家達の目的のひとつにも、シナモン(及び他の貴重なスパイス)の原産地を探す事、があったようです。
16世紀初頭にポルトガルが、スリランカに原生のシナモンを見つけ、島に留まり、この貴重なスパイスの取引を始める。その後17世紀に、オランダがスリランカに根を下ろし、同時にシナモンの独占売買もオランダの手に。更に1796年、今度は、イギリスがこの地にやって来て、イギリス東インド会社がオランダに取って代わって、1833年までシナモンの独占取引を行います。
シナモンだけに限らず、ナツメグ等、他のスパイスをめぐっての、英蘭の熾烈な争いに関する本を以前読んだことがあります。そこまで貴重だったスパイスも、今は、比較的たやすく入手して、こうして私の様な一般庶民も、昔の探検家達の冒険航海を頭に描きながら、家でエキゾチックな風味のマサラティーを飲める・・・よかったな・・・。
こんにちは
返信削除今日は久しぶりに娘が帰ってきたので、町のインドカレー店に行ってランチにしました。本場インドのカレーが食べられて、値段も手頃なので、家族3人で楽しくいただきました。飲み物はマサラティーです。私はこれが大好き、家でもマサラパウダーというのを使ってよく飲みます。でもこのパウダーの内容まではよく分からなかったのでありがとうございました。最近は全部のスパイスが手に入るので、自分でブレンドして作ってみたいです。二人はラッシーを飲みました。これも美味しいですよね。
パウダーのマサラティーは、色々人工の味付けがしてあるのではないか、という話も、この時していたので、スパイスが簡単に入手できるようなら、作ってみてください。好みで、自分の嗜好にあうよう調整できるのも良いです。
返信削除夫婦そろって辛いものはわりとだめなので、うちもインド料理屋では、胃袋を中和させるために、大体ラッシー飲みます。