トマス・ゲインズバラ、風景画を愛した肖像画家

イギリスで有名な作家と言うと、次から次へと名が挙がってきますが、世界的に名の知れた英国画家となると、その数はぐっと少なくなる気がします。

ぱっと思い浮かぶのは、ターナーコンスタブル、後は、ラファエロ前派くらいか・・・。

この時期の田舎の畑のそばを通り過ぎると、ふと頭に浮かぶのは、ロンドン、ナショナル・ギャラリーにある黄金の小麦畑を背景にしたトマス・ゲインズバラ(Thomas Gainsborough:1727-1788)の絵、「Mr and Mrs Andrews アンドリュー夫妻」(下)。


トマス・ゲインズバラは、コンスタブルの一世代前の画家で、コンスタブルと同じくサフォーク州出身。

「Mr and Mrs Andrews」は、サフォークの田園風景を、肖像と兼ねて描いたもの。空に低く浮かぶ雲の感じが、この国です。一度、テレビで、この絵の中の夫妻の背後に立つオークの木を見せていましたが、今は倍くらいの太さに成長していました。風景はほとんど変わらず。アンドリュース夫妻のポーズがいささか固いのは、洋服を着せた木製の人形が、本人達に代わって、ポーズをとったからだそうで。

少年の頃から、故郷のサフォーク州サドベリー周辺の風景をスケッチして歩き、もともとは、風景を描くのが好きだったのが、それでは、金にならないと、ヴァン・ダイク(Anthony van Dyck )風の肖像画の手法を習得して、そちらが専門に。

その作戦が効を成し、バース、やがてロンドンで、裕福なクライアントを相手にしたお洒落な肖像画で成功。シルクやリボン、レースで飾られた豪華な衣装に身を包んだクライアント達を、出来る限りエレガントに描く。観光地などにいる似顔絵画家なども、描いているところを覗いてみると、いつも実物のモデルよりずっと美男美女に描いている。お客を喜ばすのは肝心です。

上の絵は、やはりナショナル・ギャラリー所蔵の「朝の散歩、Mr and Mrs William Hallet "The Morning Walk"」。頭上の木の葉も、楽しげで、筆が踊っている感じ。

ゲインズバラは、ジョージ3世とシャーロット女王のお気に入りの画家ともなります。(ジョージ3世とシャーロット女王については、過去の記事「狂ったジョージと太ったジョージ」まで。)同時代のライバル肖像画家、レイノルズ(Joshua Reynolds)のカチッとした絵よりも、やわらかく軽やかで、私も彼の絵の方が、レイノルズのものより、ずっと好きです。

時にクライアント達の要求に閉口しながらも、商売ですから仕方が無い。そんな彼がもらしていた言葉とは、「肖像画は金のため、風景画は喜びのため」。この、金にはならなかった彼の風景画が、イギリスの田舎のシーンを代表するような、同郷人コンスタブルの絵へ受けつがれていきます。

コメント

  1. こんばんは
    前からこの肖像画には興味がありました。アンドリュー夫妻ですか?似た者夫婦というのでしょうか、顔つき、スタイル、似ているんですよね。それに屋外での夫婦の肖像というのも珍しいと思いました。おおきなスカートにもびっくり、最近のアニメの主人公みたいです。

    返信削除
  2. 初期の、まだちょっと手法がぎこちない感じの肖像ですが、背景のサフォークの風景は、雰囲気出ています。自慢の土地の前で、チーズっていう感じでしょうか。
    上の絵が1750年、下の絵が1785年に描かれたというので、その間、かなりの年月が流れており、肖像画の技も上達したわけです。

    返信削除

コメントを投稿