オスカーとルシンダ

数日前に今年のブッカー賞(Man Booker Prize)が発表になりました。ブッカー賞は、イギリス連邦に属する国々、及びアイルランドとジンバブエの作家による、英語で書かれた長編作品に与えられる文学賞で、過去には、日本人になじみのところで、カズオ・イシグロ氏の「日の名残り」(The Remains of the day)なども受賞しています。

過去2回すでにブッカー賞を受賞したオーストラリア作家ピーター・ケアリー氏が、最新作「Parrot and Olivier in America」で、再びノミネートされ、これでまた、受賞すると、過去最多数の3回受賞になると、話題となっていました。残念ながら、今回は賞を逸したものの、今回ノミネートされたものの中で、私は一番読みたいという気になった内容のものでした。

やはり彼による、1988年ブッカー受賞作の「オスカーとルシンダ」(Oscar and Lucinda)の映画化されたものを、とても良いという話は聞きながら、見ないまま月日が経ち、原作はもちろん、映画も未だ見ていませんでした。映画と原作、どうしても違いはあるでしょうが、原作を読むより早いので、これを機に、先日、やっと映画を見てみました。とても不思議な筋書きです。

映画は、レイフ・ファインズとケイト・ブランシェットの主演。

19世紀半ば、イギリスのデボンでプリマス・ブレスレンという保守的で厳しいキリスト教派に属する父の元に生まれたオスカー。クリスマスの日に、プディングを召使に食べさせてもらっていると、「こんなものは、悪魔の食い物だ」と叱咤するような固い父。オスカーは、そんな父の意に背き、またプリマス・ブレスレンにも背を向け、イギリス国教会を選び牧師となる。風変わりな彼、友人に競馬に連れて行かれてから、すっかり博打に熱をあげるようになり、やめられない、とまらない。かけで稼いだ金は、自分の生活に最低限必要なだけ取って、残り全てを貧民のために寄付してしまう。

一方、オーストラリアのニュー・サウス・ウェールズでのびのび育ったルシンダ。子供の頃、ガラス細工に魅せられ、両親がなくなり、大きな遺産を相続すると、シドニーのガラス工場を買い取り経営を始める。当時の社会のしきたりやルールを破る、奔放で型破りな彼女が、ガラスの他に熱を上げるのは、博打。特にトランプの博打。

この社会にフィットしない博打狂の2人が、ロンドンからシドニーへ行く船の中でめぐり合う。2人はお互いに、友情から始まり、次第に恋愛感情を持ち始める。

そんな2人の間の最後のかけは、ガラスででた教会を、オスカーが、シドニーから数百キロメートル北上したところにあるべリントンという地の、ルシンダの友人の牧師の元へ、無事、陸路で届けることができるか、というもの。父親とルシンダに認められるような人間になりたかったオスカーの最後のシーンは、「えー、そんな。」

デボン、オーストラリアの風景は良く、特にオスカーの真摯さと、そこから来るおろかさの象徴のようなガラスの教会が両側の深い緑に縁取られた川を流れていく様子は、それは美しかったです。音楽も良かった。そういえば、主人公2人の薄い水色の目も、デリケートな白いお肌も、ガラスのイメージ。また、当時のシドニーの、中国人街の博打場の再現のシーンなども興味深いものがありました。

映画も本も相性が合わないと、理屈に関わらず、入っていけないものです。やはり過去のブッカー受賞作、サルマン・ラシュディの「真夜中の子供達」(Midnight's Children)は、私は、途中で、嫌になってやめてしまいました。我慢して読み続ければ、面白くなったのかもしれませんが、その前に辛抱が切れてしまい。

原作の事は語れませんが、この映画は、とても性に合い、大好きです。ピーター・ケアリー氏の「Parrot and Olivier in America」は、いつか読みたい本として、アマゾンのバスケットにつっこみました。これを実際に読むまでに、また、長い時間が経つかもしれませんが・・・。

ちなみに、今年のブッカーは、ハワード・ヤコブソンの「The Finkler Question」が受賞。すでに、英米アマゾンでの売り上げが急上という話です。

コメント

  1. ブッカー賞受賞作品、どんなのがあるか調べてみました。「イングリッシュ・ペイシェント」もそう。映画化されたものも多いんですね。残念ながらどれも未読です。この映画、確かに見たと思うのですが、ガラスの教会とか断片しか記憶に残っていません。そのうち見直そうと思います。

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  2. 私は、受賞作の中、唯一Hotel du Lacをかなり前に読んだのですが、イメージだけ残り、詳細忘れています。英語を読む速度も当時まだ遅かったし、把握も足りなかったかもしれません。
    Parrot and Olivier in Americaは、アメリカの民主主義の発展をリサーチして書いた本ということで、ジョージ・ブッシュやセーラ・ペイリンタイプの人間が権力を握るようなアメリカという社会がわかるという事です。彼、オーストラリア出身で今は米在住。米の将来を憂えているようです。

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  3. こんにちは
    朝夕めっきり寒くなりました。ストーブが欲しいです。
    この映画、全く知りませんでした。日本では公開にならなかったようです。演技派の二人が主演ですから、それに原作もブッカー賞なら間違いないでしょう。ぜひ見たいです。日本で小説家の登竜門は芥川賞ですよね。最近は女性作家の受賞が続いています。女流小説家 あこがれますよねー。あー才能はいずこへ。

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  4. 小説家は、なるのに年齢制限内がないのもいいですね。書く事は、女性も男性も、感覚は違っても差があるわけではないし。昔の女流作家、ジョージ・エリットなどは、男性名を使って出版したりと色々、苦労があったのかもしれませんが。

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