愛しい人が眠るまで Truly, Madly, Deeply

若くして亡くなってしまったアンソニー・ミンゲラ監督が、イングリシュ・ペイシェントを作る数年前、こんな心温まる小作を作っていたんです。観客を笑わせたり泣かせたりしながら、最愛の人を失ったひとりの女性が、徐々に、立ち直り、新しい人生を辿り始める過程を追っていきます。アカデミー賞というのも、時にあまり当てにならないものがあります。私は受賞作「イングリッシュ・ペイシャント」より、あまり知られていない、こちらの方がずっと好きです。

セロ奏者の彼、ジェイミー(アラン・リックマン)が死んでしまった後、スペイン語の通訳者のニーナ(ジュリエット・スティーブンソン)は落ち込みもはげしく、なかなか立ち直れない。そこへ、ジェイミーは幽霊として、彼女のもとへ戻ってくる。

最初は、狂喜したニーナ。けれども、ぽろぽろと問題が出始める。ジェイミーの幽霊友達が、居間でビデオを見たりして、いりびたりはじめる。始終寒くて仕方が無いジェイミーはセントラルヒーティングの温度をぎりぎりまで上げ、部屋は蒸し風呂状態。家具の配置なども、幽霊友達と変えていく。ニーナは段々、死人と共に住む難しさを感じていく。この幽霊友達の様子も、彼らの映画お宅ぶりも笑わせてくれます。

そして、新しい出会いがあったニーナ。
ジェイミーとニーナが最後に二人で語り合うシーンで、ジェイミーがニーナにスペイン語の詩、Pablo Neruda作の「La Muerta」(亡き女性)の一節を暗誦してニーナに訳してくれと頼みます。このシーン、とても良いのです。簡単な詩の訳は、

ゆるして欲しい。
もう貴方がいないのなら、
もう貴方が死んでしまったのなら、愛しい人、
私の心には枯葉が舞い落ち、
私の魂には日夜雨が打ち続ける。
私の足は、貴方の眠る場所へ向かおうとするが、
私は、生き続けなければならない。

詩の原文は、こちら

「あんたのスペイン語のアクセント・・・ひどい・・・。」などと憎まれ口をききながらも、涙がうるうるしてくるニーナ。

Uチューブで見る、ジェイミーがニーナに詩を暗誦するシーンはこちら。泣かせてくれます。

主人公二人が、ちょと風変わりでいながら、隣に住んでそうな感じのキャラクターなのがいいです。ニーナの新しい彼氏も、美男子でないところに、現実味。イギリス舞台でたたきあげた、ジュリエット・スティーブンソン、アラン・リックマンとも名演で、本当にこんなことが起こっても不思議でない気になってくるのです。
ジュリエット・スティーブンソンは、イプセンの「ヘッダ・カーブレル」でロンドンの、確か、ナショナル・シアターの舞台に立ったのを見に行ったことがあります。これも、かなり前の話になります。なかなか良い席で、最後の拍手の際に、彼女と目が会ったのを覚えています。「お、東洋人がいる。」なんて思ったかもしれません。そんな事を今更自慢しても仕方ないのですが・・・。

米のゴーストとも似たような筋ですが、人間ドラマとしての質はこちらの方が、ずっと上で、雲泥の差・・・。

ちなみに、邦題は、「愛しい人が眠るまで」のようですが、私はこちらで見たので、日本で劇場公開されたかはわかりません。原題は、主人公のふたりがよくやっていた言葉遊びから取ったもの。「I love you」の後に、ひとりひとり交互に、違う副詞(Truly, Madly, Deeplyなど)を加えていき、段々、長くなっていくのを、順番を間違えずに最初から繰り返し、先に間違った方が負け、というもの。

原題:Truly, Madly, Deeply
監督:Anthony Minghella
言語:英語
1991年

コメント

  1. この映画、全然知りませんでした。「イングリッシュ・ペイシェント」は砂漠の風景が印象的だったような・・・。「シェルタリング・スカイ」と混ざっています。この映画のアラン・リックマン、若いですね。Miniさんのおかげで見たくなりました。そちらも紅葉が始まっているのですね。今日は晴れて暖かい日でした。里山も少しずつ色づき始めています。

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  2. シェルタリング・スカイは、以前、新聞のおまけにDVDがついてきたので持っています。作り手は、深い意味を持たせたかったのかもしれませんが、私には、何だか良くわからない映画でした。確かに、イングリッシュ・ペイシェントと同じく、砂漠のイメージが残っています。

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  3. こんにちは
    今日は朝は雨でひどく寒かったのに、午後雨が上がったら、秋晴れで気温もぐんぐん上がってまた夏日です。体がついて行けません。
    私、ロマンチストでラブコメのファンなんです。恥ずかしいのであまり人には言えません。ヒューグラントのファンなんて言うと軽蔑されそうですから、、。映画にするほどの話でもなし、軽薄でみっともないほど甘いんですけど、時に泣いちゃいます。ですから映画は一人で見ます。この映画も泣けちゃいそうです。アランリックマンはアブアクチャリーでも素敵な中年でした。イギリスでも人気あるんですか?さっそく見てみます。

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  4. アラン・リックマンの出た他の映画で印象に残っているのは、ジェーン・オースティンのSense and sensibilityが映画化されたものでした。これもたしか、ヒュー・グラント出てましたね。ラブ・アクチュアリーは未だ見ていないのです。そのうち、テレビでかかったら、と思ってそのままです・・・。私には、舞台俳優のイメージが強い人ですが、ハリポタなどにも出ているようですね。

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