髪結いの亭主


これは、ふわっとやわらかな感じの画像も気持ちの良いフランス映画でした。官能的などと言われながらも、いやらしさも無いのです。

いつも、映画の原題と邦題を比べて、訳し方や、翻訳者の思い入れの強い意訳をしたものの文句を言ったりしていますが、私、この「髪結いの亭主」という邦題の語感が好きです。(フランス語原題は、Le mari de la coiffeuse。英語の題名:The Hairdresser's Husband。)同じ意味でも、「美容師の夫」などとやるより、ずっと雰囲気が出て、映画の感じにあっています。

子供のころ行きつけだった床屋さんのふっくらした女性に憧れていたアントワン。大人になったら、髪結いの亭主になりたいと夢抱く。父に将来どうしたいんだ、と聞かれた際、「髪結いの亭主」と答え、殴られる場面は愉快。

母親が編んだ、ボンボンのついた毛糸の海水パンツをビーチ・ホリデーでいつもはかされていた、というアントワンの子供時代のエピソードには、子供のころ、親の変な趣味のため、ちょっと恥ずかしいものを着せられたりしていた思い出がある人には、こそばゆくも、なつかしい気分がするかもしれません。私は、海水パンツではないけれど、冬に、お花の刺繍入りの毛糸のパンツなぞをはかされていましたっけ。

大人になってから(というよりかなりおじさんになってから)、ヘアサロンを経営する美女マチルダにいきなり求婚したところOKを受け、みごと夢がかなう。その後、他者とはあまり関わらない二人だけの、幸せな日々。

このヘアサロン、こんなにお客少なくて、経営成り立ってるのかな、などと心配もしたりして。それにアントワンの昼の日程といったら、サロンの椅子に座って、愛する奥さんを眺める事と、クロスワードパズルをすることくらい。退屈しないんでしょうかね。彼のもうひとつの情熱は、アラビア風の音楽に合わせて妙な踊りをする事。

平和に流れる時の裏にあるのが、このマチルダという、つかみ所の無い女性が、静かに微笑みながらも持つ、「自分もいつかは老いてしまう、現在の幸せも、アントワンの自分への愛情も、いつかは消えてしまうかもしれない」という不安。この映画の思い出のせりふは、やはり、「ヨーグルトを買いに行ってくるわ。」・・・ある日、いきなり雨の中を飛び出していき、自殺をし、戻らぬ人となるマチルダの最後の言葉でした。人生を最高に幸せな段階で自ら幕をしめて。

原題:Le mari de la coiffeuse
監督:Patrice Leconte
言語:フランス語
1990年

短期のヘアドレッシングのコースを近くのアダルト・エデュケーション(カルチャー・スクールのようなもの)で受講中です。全10時間と短いので、基本的なカットを学んでお終いですが、自分の髪と、知り合いの髪くらい切れればと思い、マネキンの頭を使って練習。まずは、ワンレングスで、外にキックするようにブロードライしましょう、という事で写真のようになりましたが、逆さチューリップか釣鐘といったところ。

このマネキンの髪は、100%人毛を消毒したものとありましたが、どこから来たのでしょうか。アメリカの黒人向けヘアサロンのドキュメンタリー映画を作った人が、ラジオでインタヴューを受けているのを聞いたとき、黒人女性は、まっすぐな髪に憧れ、インドなどから輸入された直毛の人毛でヘア・エクステンションをするなどという事を言っていました。インドは髪の毛輸出、世界最大の国、と言っていた気がします。これも、インドから?少し白髪なども混じっています。クラスの人が一人、ぼそっと言っていました、「死体置き場から盗んできた髪じゃないわよね・・・。」

一度短くなってしまうと、もう、使えないので、けちけち、少しずつ切って練習。使い終わったら、どうしましょう。捨てるのはもったいない気がして。シュールな部屋の飾りにしましょうか。

うちのだんなに、「このコースが終わったら、髪結いの亭主になれるよ。」と言ったのですが、この映画は見たことがないようで、ぽかんとしていました。私は、ヨーグルトを買いに出ても、無事、家に戻るつもりでいますが。

コメント

  1. この映画、ちゃんと見た覚えはないのですが、家族の誰かが見ていたビデオで覚えています。あんなに幸せそうだったのに、突然、川に身を投げるマチルダの行動に最初はポカンと見てしまった記憶があります。よく考えると、女の心理として理解できないことはありません。でも私は決してしないだろう行動。フランス映画って、昔は必ず最後は悲劇で終わったけど、日本のように「死」が美学になっているのでしょうか。
    そうですよ、ちゃんとヨーグルト買って帰って下さいよ。

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  2. おはようございます
    この映画、見てません。フランス映画は難しい。むかし、「男と女」を見て、ぜんぜん解らなかったのです。高校生では無理だったのでしょうね。でも、フランスの女優は憧れます。中年も素敵なんです。
     実はダーリンの髪は結婚以来、私が切ってます。最初は悪戦苦闘しましたが、慣れると何とかなるんです。本格的にお勉強中とは恐れ入ります。自分の髪までアレンジ出来たらほんといいですよね。
     昨夜のサッカー、日本は韓国と引き分けでした。でも、いい試合でしたよ。

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  3. この映画を見て「髪結いの亭主」という言い方がフランスでもあるのかなと思いました。ダンナ様がピンとこなかったということは英語では言わないのですね。この頭の髪が人毛だなんて驚きました。もとの髪はかなり長かったのでしょう。「賢者の贈り物」にもあるように、昔はどこでも髪を売る人がいたのでしょうね。

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  4. 恋さん、
    将来へのそこはかとない不安、最高の幸せに達した後、腐敗を見るのが怖い、などで自殺するという感覚、確かに日本人美学に似たところあるかもしれません。この映画、仏語物のわりには、日本でうけたという話です。私は、自殺なんて考えただけで恐ろしくてできません。不治の病にかかり、無理やりの治療で延命しても肉体的にきつくて仕方ないような状態なら理解もできるのですが。

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  5. せつこさん、
    うちもダーリンの髪、バリカンでばりばりとここ2,3年切ってます。もともとほとんど髪がないし、今はキモでつるつるとなったので、うちのは多分、せつこさん宅より簡単なのです。髪が多くても少なくても、床屋は同じ値段を取るし、かなり節約にもなりました。
    2,3ヶ月前、自分で自分の髪を切ってみてまあまあだったので、このコース始めてみたのです。今は、実験台になってくれる髪の沢山ある人を探しています。

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  6. アネモネさん、
    アメリカは貧民がまだまだ沢山いそうな感じありますが、さすがにもう、賢者の贈り物風に、髪を売ると言うことはもうしないのでしょうか、とにかく、インドからという話でした。以前、インドの貧民が、2つある臓器は何でも売る、という話を聞いて、ぞっとしたのを覚えています。髪の毛だったら、切っても生えてくるからいいですが。

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  7. この映画は観たことがありませんが、髪結いの亭主って、日本じゃ、ぐうたらのイメージがあるんですが、どうなんでしょう??うちも奥ちゃんに切ってもらっているので、もう何年も床屋に行っていません。これで3700円の散髪代はずいぶん浮いているはずです(^ー^)
    最近テレビで見たのですが、美容学校に通う生徒たちが癌治療のために髪の抜けてしまった女性用に、自分たちの髪をきって、かつらを作っているという話をやっていたことがあります。
    美容院でのカットされた髪の毛もかつらになっているようです。
    明日の午後にはロンドン到着です。カットモデルに応募しようかな??(笑)

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  8. 3700円の散髪代とは、らぶさん、それは贅沢カットですよ。奥さんのおかげで、かなり浮いてますね。前回日本に帰った時は、1000円カットへ行きました。
    この映画の髪結いの亭主は、職がない感じでした。何やっているのか謎です。
    男性はキモで髪がなくなっても、それほど精神ショックは強くないかもしれないですが、女性はやっぱりね・・・。美容師さんの実毛かつらは、良いアイデアだと思います。
    ロンドン、ちょっと寒くなってきましたが、お楽しみあれ。

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