ブルージュにて、ヒットマンズ・レクイエム

写真のこの映画、ベルギーのブルージュを舞台にした、一風変わった殺し屋の悲喜劇。原題はIn Bruges(ブルージュにて)、邦題は、「ヒットマンズ・レクイエム」なのだそうです。ブルージュがどこだかわからない人がいると思ってこういう題名になったのでしょうか。

中世北ヨーロッパの貿易を牛耳した都市同盟の、ハンザ同盟(Hanseatic League)都市として栄えたブルージュは、中世の町並みが良く保存されています。ベルギーでは、主に、オランダ語(ベルギーのオランダ語は、英語でFlemishと呼ばれます。)とフランス語が喋られますが、ブルージュはオランダ語圏内。運河のあるせいか、時折「北のベニス」だなんて呼ばれたりしてるのも耳にし、「それは、ちょっと違うかな」という気はするのですが、まあ、可愛い町です。

こちらでの公開当時から、ローバジェット映画でありながら、筋と脚本が良く、面白いと評判でしたが、確かに、毎度お馴染みハリウッドのワンパタ・アクション映画とは、一味違います。もう2回も、見てしまいました。

ボスに、理由を教えられずにブルージュへ送り込まれる2人の殺し屋。映画の冒頭での、この2人のやりとりは、
「ブルージュはシットホール(ひどい場所:直訳は肥溜め)だ。」
「ブルージュはシットホールなんかじゃない。」

若者のレイは、殺人の任務で、誤って、流れ弾で子供を殺してしまい、落ち込むあまり、ブルージュがシットホールに見える。けれど、可愛い現地の女性にめぐり合い、デートへ繰り出す。年配のケンは、ボスからの指示の連絡が入るのを待つ間、せめて綺麗なブルージュの観光を楽しもうとガイド・ブックと首っ引きで、運河のボート下りをし、美術館に入り、見所をめぐる。

やがて、ボスのハリーが、ケンに電話で伝える使命は、子供を殺すというどじを踏んだレイを、ブルージュで始末しろ、というもの。ハリーが2人をブルージュに送った理由は、レイが死ぬ前に、おとぎ話に出てくるようなブルージュを体験し、少しはいい思いさせてやろうという、良くわからない慈悲心から。レイに愛着を持ってしまっているケンは、この使命を受け、さてどうするか。

レイ役コリン・ファレルは、表現力たっぷりの太い眉毛が決め手。殺し屋とは思えない妙な子供っぽさの持ち主。ケン役のブレンダン・グリーソンは、気のいい叔父さんの様な風体が好感。要は、2人とも、その辺ですれ違えば、良い人の印象。

ハリーは、ばりばりのコックニー(東ロンドン訛り)。いつもは、内に鬱屈されたものを秘めている様なお上品な役が多い、レイフ・ファインズが、すぐに切れ、Fワードを連発するこのギャングのボスを、いい味出してやってました。

そして、彼らの間の会話がユーモラスに、上手く書かれています。また、3人3様に、それぞれの過去や、自分なりのモラルなども持っていて、ちょっとしたヒューマン・ドラマでもあり。

レイとケンが泊まる宿の、妊娠しているしっかり者の女性が、ギャングのストーリーの反対側にある、平和と暖かい幸せのシンボルみたいな存在です。

原題:In Bruges
監督:Martin McDonagh
言語:英語
2008年

*****

さて、これは、ブルージュ観光名所を楽しむにも良い映画でした。ブルージュへ行ったのは、かれこれ15年くらい前になるのでしょうか。「ああ、ここ見た見た」と懐かしく思いました。

2人が絵画鑑賞をするのは、グルーニング美術館。

上の絵を、レイが太い眉毛をしかめながら、「いてー」という面持ちで眺めますが、私もこれは強烈で、記憶あります。

ヘラルド・ダヴィッド(Gerard David)の「カンビュセスの審判」。カンビュセスは、6世紀前半のペルシャ王。カンビュセスは、賄賂を受け取って、不正な判決を下していた悪徳裁判官を、逮捕、生きているうちに、皮を剥くという、刑に処した場面だそうですが。賄賂に対する戒めの絵だとしたら、これは、効き目ありそうです。ペルシャというより、描かれている人間の服装は中世ヨーロッパの感じです。

もうひとつ、2人が話題にする絵は、多くの奇怪な生き物が描かれている、上の、ヒエロニムス・ボス(Hieronymus Bosch)の絵。地獄か天国かのどちらに送られるかの「最後の審判」。レイは、「地獄ってのは、永遠の時をブルージュで過ごすことじゃないか。」なんて、失礼なセリフを飛ばしていました。

Groeninge Museumで見れる代表的絵画


そして、映画のクライマックスの中心にもなるマルクト広場(Markt)の鐘楼(Belfort)。前回行った時は登りませんでしたが、次回は、上がってみましょう。

この塔に登ろうとする太ったアメリカ人の家族連れに、「像みたいな体の、あんた達は、登らない方がいいよ。」とレイが余計なおせっかいで忠告し、喧嘩となるシーンも笑えました。この映画、他にも、あちこちで、アメリカに対するジョークが散りばめられていました。米でも公開されているはずなのですが、ひんしゅく買わなかったのでしょうか。

コメント

  1. こんばんは
    ネーデルランドにフランドル、オランダにベルギー、ルクセンブルグにブリュージュ、ブリュッセル、アントワープにアントヴェルヘンともう頭の中がごちゃごちゃになります。ベルギーはべルジンと発音するんですよね。。もう、複雑なんですね。ベルギーで思い浮かぶのはポワロです。大好きなイギリステレビ映画です。ポワロについても教えてくださいね。

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  2. Belgium (英語発音だとベルジャンが近いでしょうか、カタカナ表記はいつも悩みます)、ベルギーは、複雑な国ですね。オランダ語圏とフランス語圏が2国に分かれるなんていう話が浮上したこともありました。共通なのは、基本的にカソリックという事くらいでしょうか。
    アガサ・クリスティーも、何年も経っても人気絶えませんね。

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