鏡は横にひび割れて

「The mirror cracked from side to side(鏡は横にひび割れて)」は、アガサ・クリスティーの小説のタイトルにもなっていますが、ヴィクトリア時代の桂冠詩人アルフレッド・テニスン(Alfred Tennyson)の詩、The Lady of Shalott(レイディー・オブ・シャロット)から取った一節です。

テニスンも、チャールズ・ダーウィンと同様、今年は生誕200年。大きな帽子にマントを被り、長い髭を生やした彼の写真はまるで、魔法使いか何かのようですが、若い頃は、なかなかの美男子だったと言います。

彼の生誕200周年を記念して、ラジオで、彼の有名な詩、クリミア戦争を唄ったThe Charge of the Light Brigade、年老いたギリシャの英雄ユリシーズ(オディセウス)が再び旅立ちを夢見るUlyssesなどを紹介していましたが、私が一番馴染み深いテニスンの詩は、やはり、The Lady of Shalottです。



アーサー王の伝説からインスピレーションを得ているこの詩。ヴィクトリア朝の画家達の題材にも何回か使われており、ロンドンのテート・ギャラリー(テート・ブリテン)にも、ジョン・ウィリアム・ウォーターハウスによる、レーディー・オブ・シャロットが小船で自分の死へ向かって流れていく絵がかかっています(上)。この絵は、いまだ、テート・ブリテンで販売されている絵葉書の中でも売れ筋だそうです。

詩のあらすじは・・・

バーリーやライの畑の中を流れる川。その川に浮かぶ小島はシャロット。川と畑内を走る道は、近くにある、アーサー王の王国の伝説の都市キャメロットへと続いている。
シャロットの島の塔内で、ひたすらタペストリーを織る事のみに従事するのは、シャロットの貴婦人(レーディー・オブ・シャロット)。彼女は呪いをかけられているため、窓から外、キャメロットを覗く事を禁じられている。外の世界は、壁にかかる鏡の反映で眺めるのみ。
ある日彼女は、馬に乗って通りかかった騎士ランスロットの輝くような姿が鏡に映るのを見、タペストリーを離れ、もっと彼の姿を良く見ようと、窓へと行き、外を覗き込んでしまう。その瞬間、呪いが実現され、

鏡は横にひびわれて
「呪いが我が身にふりかかった」と叫ぶ
シャロットの貴婦人

The mirror cracked from side to side;
"The curse is come upon me," cried
The Lady of Shalott.

彼女は、塔の外の川に浮かべてあった小船に乗りキャメロットへと流れて行き、最後の歌をうたいながら、その中で息を引き取る。

生き生きとした外の世界に実際に自分は参加せず、フィルター(鏡や窓枠)を通して眺める芸術家の悩みの様なものを、現しているのだなどという話もありますが、外界と直接のコンタクトを取ったら死んでしまう、なんていうのは、ちょっと酷な呪いです。

アガサ・クリスティーの小説のタイトルは、あまり詩の内容とは関係なく、自分に不幸をもたらした人物の正体がわかった愕然とする瞬間を、鏡が横にひびわれて、呪いがふりかかった瞬間に例えています。

(絵:John William Waterhouse "The Lady of Shalott" 1888年)

コメント

  1. とても素敵な絵ですね。
    絵はがきで’売れ筋’というのは納得です。
    アガサ・クリスティー、昔いっぱい読んだのですが
    このタイトルは読んでいない気がします。
    最初に英文で読んだ本はアガサ・クリスティーのものでした。

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  2. ウォーターハウスの絵、ロマンチックでいいですよね。テート・ブリテンは他のラファエロ前派の美しい絵多いです。

    アガサ・クリスティーのこの作品は私は映画だけです。Miss Marpleもので、確かエリザベス・テーラーが出てました。

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