イギリスが愛するベイクド・ビーンズ
ビーンズ・オン・トースト |
2月に日本に帰っていた時、数年前にイギリスに遊びに来た姪っ子が、イギリスで食べたものの中で、特に、「ビーンズ・オン・トースト(beans on toast)がすごく美味しかった。また食べたい。」などと言っており、「へえー」と思いました。
トマトの汁でシロインゲン豆を煮込み、缶入りで売られているベイクド・ビーンズ(baked beans)。(英語の発音は、ベイクドでなく、ベイクトですが、日本語ではベイクド・ビーンズと呼ぶのが一般的な様なので、そう書いておきます。)日本のスーパーの棚では見かけません。このベイクド・ビーンズを小鍋に開けて、温めたものを、こんがりトーストの上に、とろっと乗せると、ビーンズ・オン・トーストの出来上がりです。作るのが簡単で、安価であるため、ボリュームたっぷりの、イングリッシュ・ブレックファーストにもついてくる、イギリスの朝食の定番のひとつ。
私がはじめてイギリスを訪れ、ロンドンの大英博物館のそばの朝食付きの宿(B&B)に泊まった時、朝ご飯に、このベイクド・ビーンズ、さらには、トマトの水煮をトーストの上にのせたものが出てきて、それが、ビーンズ・オン・トーストとの初めての出会いでした。確かに、「なんだ、こりゃ。」と思いながらも、「お、見た目より美味しい。」とぱくぱく食べた記憶がありますので、姪っ子の言うのもわかる気はします。
新型コロナウィルスのロックダウン続く中、スーパーへ行く回数を減らすために、またロックダウンが始まる前の買いだめで、缶詰類をしこたま買ってある人も多いはず。缶詰フードだけを使ってどれだけ美味しい料理を作るか、などという記事もニュースサイトで見かけたりします。おそらく、そうした各イギリス家庭の缶詰コレクションの中でも、ベイクド・ビーンズが占める割合は高い事でしょう。
それぞれのスーパーも、独自の自社製ベイクド・ビーンズを販売したりはしていますが、やはり、みんなのお気に入りの定番はハインツ社のもの。我が家も、ハインツ社(Heinz)のスープとベイクド・ビーンズは、常時いくつか戸棚にしまってあります。ついでながら、このハインツ社の発音も、日本語での通常のカタカナ表記(ハインツ)とは異なり、英語では、ハインズとなります。
ハインズのベイクド・ビーンズ、beanz とZで綴られているのに注目 |
ここで、ハインツ社とベイクド・ビーンズの歴史をちらっと見てみましょうかね。
ドイツ移民の息子であった、アメリカ人、ヘンリー・ジョン・ハインツ(Henry John Heinz)氏は1869年、ペンシルベニア州にて、ハインツ社を設立。当社の、一番最初の製品は、意外にも、ローストビーフなどの薬味に使用される、ホースラディッシュ(西洋わさび)であったそうです。後に、今では一番有名なトマト・ケチャップ、そして、トマト・スープ、ベイクド・ビーンズなどの製造も開始。
いまだに、ハインツ社の製品のラベルには、57という数字が印刷されていますが、これは、ヘンリー・ジョン・ハインツが、自分がラッキーナンバーと見ていた5と、彼の妻(また一般の人)のラッキーナンバー7を組み合わせ、57の種類の食品を作るとしたことからきていると言います。また、ペンシルベニア州は、アメリカ独立当時の13州の中心部にあったため、キーストーン・ステイト(要石州)のニックネームを持ち、そこから、ハインツ社のロゴは、上の缶詰の写真でもわかるよう、キーストーン(要石)の形をしています。
ベイクド・ビーンズに使用されれるシロインゲン豆は、アメリカ大陸原産で、英語ではネイビービーンズなどとも呼ばれます。これは、1800年代から、シロインゲン豆が、米海軍の基本食料の一つとして使用されていたため。
20世紀初頭に、ハインツ社のベイクド・ビーンズは、海を渡って、イギリスでも大幅に販売が開始され、工場もいくつか設立。イギリス国内での人気は伸びに伸びて、トマト・ケチャップはさることながら、ベイクド・ビーンズと、ビーンズ・オン・トーストは、お国料理の体をなしていくに至ります。
コロナウィルス騒動中の現在もそうですが、ハインツ社のベイクド・ビーンズは、第2次大戦中も、戦後の食糧不足の時期も、国民にとって大切な基本食料アイテムとして、見られていました。1959年になってから、イギリスのマンチェスター近郊のウィガンという町に、ハインツ社の大型工場が作られ、ここでもベイクド・ビーンズの大量生産が行われているようですが、なんでも、この工場、ヨーロッパで最大の食料品加工工場であると言いますので、どれだけ、イギリス人が、ハインツのベイクド・ビーンズを愛しているかがわかります。使用されているシロインゲン豆は、現在も、カナダや合衆国のアメリカ大陸からの輸入ものであるそうです。
ビーンズ・ミーンズ・ハインズ(ビーンズと言えばハインズ) |
1960年代後半に、ハインツ社は、イギリスで、「Beanz Meanz Heinz」(ビーンズ・ミーンズ・ハインズ)というテレビ・コマーシャル・キャンペーンを実地。これが、かなりうけたというので、私はだんなに、「ハインズ社のビーンズ・ミーンズ・ハインズのコマーシャルって、覚えてる?」と聞いたところ、だんなは、当時のテレビコマーシャルの歌を歌い始めました。
A million housewives everyday
pick up a tin of beans and say
Beanz Meanz Heinz
毎日、多くの主婦が
ビーンズの缶を取り上げて、言う
「ビーンズと言えばハインズね。」
これには、よくそんなものを覚えてるもんじゃ、と大笑いしました。が、私も子供の時に聞いた、テレビコマーシャルのキャッチフレーズや音楽などをいまだにいくつか覚えていて、思わぬ時に出てきたりしますから、同じようなものですね。ビーンズと、ミーンズのスペルが、ハインズとそろうように、遊びで、Sでなく、Zで綴られています。また、米英語では、缶は「can」ですが、イギリス英語は「tin」となります。
現在のハインツ社のベイクド・ビーンズの缶詰のラベルにも「Heinz Beanz」とやはり、ビーンズのズをZで綴っているのですが、こちらは、2008年になってから始まったものだそうです。
ハインツ社のものに限らず、現在のベイクド・ビーンズの世界消費量が一番なのは、本家のアメリカではなく、イギリス。2位はオーストラリア、3位はカナダと続くようです。上位はほとんど英語圏の国が占めています。
繊維質は多いものの、甘いお味を出すために、砂糖はかなり入っているので、健康志向の昨今、砂糖減量のもの、砂糖を使っていないものなども売り出されていて、我が家は最近、こちらの砂糖減量ものを購入することが多いです。ジャケット・ポテトにベークト・ビーンズをトッピングして食べる人もいますが、芋に豆だと、おなかが強烈に膨らみそうで、私は、やっぱりトーストでしか食べません。日本人でも、ビーンズ・オン・トーストが美味しいと思う人が沢山いるなら、そのうち、日本のスーパーでも、簡単に入手できる日がくるかもしれません。
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