ラグビー、紳士が競う乱暴者のスポーツ

フットボール(サッカー)とは、乱暴者が競う、紳士のスポーツであり、
ラグビー(ラグビーユニオン)とは、紳士が競う、乱暴者のスポーツである。

Football is a game for gentlemen played by hooligans, and
rugby is a game for hooligans played by gentlemen.

などと、イギリスでは、昔からよく言われています。

たしかに、ラグビーは、これはケガするわけだ、と思うほど、体当たりバトル。鼻がひしゃげていたり、耳が変な形をしている人などもいます。(最も、プロのスポーツで、ケガをしない、体に良い、などというのは、あまりないかもしれません。最近では、フットボールでのヘディングが非常に脳に悪いという話も出ていて、かつてのフットボールの選手たちの間では、まだ若い、50代くらいから認知症にかかり死んでしまう人などが多いという事です。)

ラグビー・ワールド・カップで盛り上がっている日本で、フットボールなどは最初から最後まで見た事もないし、見たくもないといううちの母親までが、先日の日本対アイルランド戦を見、「ルールがよくわからないけど、面白かった。」と感想していました。サッカーに比べ、絶えず、何かが起こっている事が多く、ルールにのっとっとりながらも、乱痴気騒ぎが、あちこちで展開されているような感覚があり、「これはすごい。」と思ったのでしょう。これが乱暴者のスポーツと呼ばれるわけ。

紳士が競う・・・という面は、イギリスのラグビーユニオンは、プレーヤーもサポーターも、主に中流以上の人たちのスポーツと見られているからでしょうか。また、レフリーの判断は絶対の感があり、サッカーのように、レフリーの判断に、プレーヤーが、声を荒げて抗議したり、ピッチ上で、対抗するチーム同士の罵りあいや、小競り合いがエスカレートすることが、あまりない。そして、試合が終わると、負けた側も、負けを認め、ファンも、怒り狂って大暴れをし、ファン同士で、パブで取っ組み合いのけんか、などという事もないのです。フットボール・フーリガンという、試合の前後に大暴れをして、市民を怖がらせる人はラグビーファンにはいないので、ラグビー・フーリガンというのは聞いたことがありません。

要するに、ラグビープレーヤーも、ラグビーファンも、フットボールに比べ、フェアプレーとスポーツマンシップの感覚が強く、試合の勝ち負けを後まで引きずらないという点、比較的お行儀がよい。(最近は、プレーヤーが、以前と比べて、試合中、その荒さを増して、危険な事をしすぎるという非難も上がってはいますが。)

たとえ、日本のワールドカップで、ビールが足りなくなるのでは、という心配が広まったほど、ビールをがば飲みするファンが多くとも、飲んだ後に、暴力沙汰に繋がるという事は、まず無いでしょうし。まあ、それに、手に負えない厄介者は、最初から、文化が全く違う日本まで、イングランド、ウェールズ、スコットランドを応援に、イギリスからわざわざ、行かないというのもあります。

ラグビーが生まれたのは、19世紀前半の、その名もラグビー校というパブリック・スクール(伝統的私立校)でのこと。フットボールというものは、多少のルールこそ違え、それ以前より、こうしたパブリック・スクールを含め、あちこちでプレーされており、ある日、ラグビー校で、フットボールの試合の最中、ウィリアム・ウェッブ・エリスという学生が、いきなりボールを、蹴る代わりに、抱えて走り出したとされます。そして、それが、ラグビー誕生の瞬間だった・・・と伝説は語るのです。実際、その信ぴょう性には、疑いがあるようですが、この人物の名から取って、ラグビー・ワールド・カップの優勝杯の名は、ウェッブ・エリス・カップ。

ラグビー、フットボール、クリケットと、イギリスでそのルールを整えていったスポーツは、当時の大英帝国内、そして、イギリス人が滞在する各所に伝わっていったわけです。よって、日本でも、一番最初に、イギリス人によりラグビーがプレーされたというのは、19世紀後半、外人が多く滞在した横浜でのこと。クリケットが日本で初めてプレーされたのも、ラグビーより早く横浜であったようですが、こちらは、現在でも、野球好きの日本では、まったく人気のないスポーツです。イギリスで野球がほとんど興味を持たれていないのと同じで。脱線しますが、児童文学「小公子」では、アメリカで生まれ育った主人公セドリックが、イギリスの貴族のおじいさんに、野球を説明するというくだりがありました。

もとえ、ラグビー、フットボール、クリケットの中では、国内でも、国外でも、わかりやすく、誰でもやりやすいフットボールが、最も人気を博し、階級を問わず、広がり。フットボールがピッチの上、ピッチの外で、暴力沙汰などの問題を時に引き起こすようになると、スポーツ自体には興味が無い、トラブルが好きな輩が一部、吸い付けられるように試合にやって来て、フーリガン問題へとエスカレートしていったのかもしれません。一方で、ラグビーファンは、観戦を楽しむ、純粋スポーツファンが多いのかとも思います。

また、ラグビーは、実際、試合にあれだけのバトルを要求されるので、プレーヤーは、不必要なエネルギーを消耗したり、試合後に大暴れをする気もなく、ファンもすっきりして、「やるだけやったら、肩たたき合い、お疲れさん!」って、昔のリポビタンのコマーシャルみたいな感じになるのでしょうね。

残るワールド・カップの日々を楽しみましょう。ビールちびちび飲みながら。

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