パブリック・スクール・ボーイズ

新首相デイヴィッド・キャメロンと、副首相ニック・クレッグは、双方、いわゆるパブリック・スクール出身で、前者はオックスフォード大、後者はケンブリッジ大卒業とバックグラウンドが似ている事が取り沙汰され、それぞれの代表する党の体質の違いに関わらず、気が合っている理由ではないかなどと言われています。ちなみに、上の写真で2人がつけているネクタイの色は、其々の政党の色です。(青はトーリー、黄色はリブデム。)写真は、BBCニュース・サイトより拝借しました。

パブリック・スクールは、パブリック(公の)という言葉から少々勘違いが生じそうですが、税金でまかなわれ、無料の公立校(State-run school)とは違い、お金を払って入る私立校、特に歴史が古い有名私立校を指します。最近では、公立校と分けて、インディペンデント・スクールなどとも呼ばれます。

キャメロンは、王族が行く事でも有名なイートン校、クレッグは、ロンドンは国会議事堂も近いウェストミンスター校。双方とも富裕な家庭に生まれてますが、確かに、親が裕福でないと行けない学校です。イートンの現在の授業料(寄宿含む)は、1学期で9617ポンド(1年3学期ありますので、年間この3倍)その他もろもろの諸費用も取られることでしょう。ウェストミンスター校は、1学期9444ポンド(寄宿含む)、寄宿無しは6542ポンド。お父さんがバスの運ちゃん、お母さんがスーパーのレジでパート・・・の様な家庭は、どんなにいい学校であっても、最初から諦めたほうがいい感じです。

高い金をはたいて何故、パブリック・スクールへ入れようとするのか・・・。階級社会のイギリス、パブリック・スクールにわが子を入れれば、似たようなバックグラウンドの子供ばかりで、下層の家庭の子供や、授業の妨げになるような子供と、自分の子供が交わる必要がない。また、将来、職業的、社会的に有利な、ある一定のマナー、社交技術を身に着ける事ができ、特に歴史の古い有名校は、オールド・ボーイ・ネットワークが強く、やはり将来役に立つ。そして、オックスブリッジ(オックスフォード大、ケンブリッジ大)に入学できるだけの学力をつける下準備がしやすい。

ウィキペディアによると、2006年の調査で、私立校からオックスフォードに入学許可された生徒の割合は、43.4%で、ケンブリッジが38%。これを、私立校へ行く子供の割合が、全体のほんの7%で、93%のイングランドの子供達は公立校へ通っている、という数字と照らし合わせると、この国が、いかに、裕福な家庭に生まれると、大幅に良い教育を受けられ、ひいてはいわゆるプロフェッショナルな高収入の仕事を得やすい社会か、というのがわかるでしょうか。また、公立校出身の優秀な生徒の中には、なんとなく気後れして、能力はあっても最初からオックスブリッジは考慮に入れない事などもあるようです。あかぬけない田舎のねずみが高級なレストランや、店の前に立ち止まり、支払い能力はあるのに、その豪勢な店構えにおどおどして、入っていけない気持ち、とでも言えばいいでしょうか。ふと思うに、私立からオックスブリッジに入った生徒より、公立から入った生徒の方が、越えるハードルも大きいわけで、脳の出来は、後者の方がいい場合が多いのではないでしょうか。

トニー・ブレアは、首相になった当初「エデュケーション!エデュケーション!エデュケーション!」と、あらゆる階級の子供の教育の大切さを訴えていたにもかかわらず(ちなみに、ブレアもパブリック・スクール・ボーイで、オックスフォード大出身)、13年間の労働党政権の後に、いまだこのありさま。一説によると、この13年間に、ソーシャル・モービリティーと呼ばれる、下の階級から、社会的に上に上がる率は、悪くなったなどとも言われています。時々、イギリスの有名人を、ウィキペディアでサーチして、バックグラウンドを読んだりしてますが、私立出身はたしかに多いです。7%の、運よく恵まれた環境に生まれた子供のみが、残りの93%よりも、将来有利になるような教育を受けられるとは、国のためにも良くないでしょうに。もっと大きな水源から、優秀な人材をどんどん生み出していかないと。

キャメロンとクレッグ、2人のパブリック・スクール・ボーイズ。前者はともかく、後者が代表する党、リブデムは、貧しい家庭の子供を助ける事も、党の基本方針の一部であるはず。どんな家庭に生まれても、親が飲んだくれであろうと、どんな場所に住んでいようと、子供に能力があれば、恵まれた家庭に生まれた自分達2人と同じ様な人生のチャンスが与えられる教育システムを作って欲しいもんです。

*おまけ「トーリー・トフ達」

デイヴィッド・キャメロンは、Tory Toffなどと呼ばれていました。toff(トーフではなく、トフと発音します)とは、上流階級の人間の事。

イートン校出身者を指してEtonian(イートニアン)などと呼びますが、やはりトーリーで、イートニアン、オックスフォード大出身と言えば、現ロンドン市長のボリス・ジョンソンがいます。

現蔵相となったトーリーのジョージ・オズボーン(あだなはボーイ・ジョージ)も、やはりパブリック・スクール出身で、オックスフォード大。

上記、キャメロン、ジョンソン、オズボーンは3人とも、オックスフォード大学時代、Bullingdon Club(ブリンドン・クラブ)と呼ばれる200年以上の歴史を持つ悪名高いダイニング・クラブのメンバーだったことでも知られています。当クラブのメンバーシップは、紹介によるもののみと、特権階級に限られたもの。高級レストランに行って飲んで食って、挙句酔っ払ってレストラン内を破壊する事もあるそうで、高いディナー代金の上に、店を壊した賠償金も払う事になりかねないので、懐は深くないと、確かにメンバーにはなれないですね。(デイヴィッド・キャメロンとボリス・ジョンソンが写る、ブリンドン・クラブ時代のメンバー写真は、こちらの記事の下に載せてあります。)

このブリンドン・クラブの友人の間では、ジョージ・オズボーンは、彼の行ったパブリック・スクールがセント・ポールズ校で、イートン校などの他の有名パブリック・スクールよりも劣ると見られたため、oik(オイクと発音します)と呼ばれていたというエピソードもあります。oikは、品の無い下層の人間を指す言葉。パブリック・スクール出でもoikなら、公立校出身者は、トフ達にとっては、獣と同じ?

コメント

  1. こんにちは
    まだ、5月だというのに真夏日30度以上の日が続いています。衣替えもまだだというのに、、。
    パブリックスクールというものの歴史もさることながらその伝統にともなう歴然とした階級格差に驚きました。21世紀の今もイギリスはそういう国なのですね。ただ、日本でも中高一貫教育と称する、有名私立学校の授業料の高さから、その経済格差かによる閉鎖性は歴然としています。一方、先進国でもっとも貧しい子供と考えられす数も増加しています。
    「エマ」というイギリス上流階級を題材にした漫画が日本で書かれるのも不思議でしたが、意外と共感を呼ぶ素地はあるということかもしれませン。

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  2. こちらも、ここ2,3日、25度くらいと、一気に暑くなった感じです。1日外をうろうろしていただけで、かなり焼けました。30度以上は、大変ですね。
    労働階級も親が全く教育を大切と思わない人たちが多いようで、その上、地元の学校が悪かったりすると、もう子供の将来は早いうちから限られる事に。公立校の質を上げて、課外アクティビティーなども充実させるのが一番なのでしょうが、現在のイギリスの財政で、学校にかけるお金がどのくらいあるのか。読み書きもまともにできずに、一般の仕事ができる能力の無い人間も増えているようです。イギリスに比べれば、日本は、まだ平等性の高い国に見えます。
    エマというと、ジェーン・オースティンの小説を思い浮かべますが、日本漫画にもあるのですね。

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