はりねずみの来る庭

我が家の庭に住むハリネズミの子供
イギリス原生の哺乳類で、民家の庭にも現れるため、一番馴染み深く、人気のある野生動物はハリネズミでしょう。イギリス原生のものは、ヨーロッパハリネズミ(学名:Erinaceus europaeus)。うさぎなども、町の中心地に出かける途中で、茂みの中から駆け出してくる姿などを目撃しますが、うさぎは、ノルマン人が、イングランドを征服した際に連れて来た動物で、この国原生ではありません。ですから、ピーターラビットも、もともとは、よそ者。

ハリネズミ、英語ではヘッジホッグ(hedgehog)。その名の通り、ヘッジ(hedge、藪、しげみ、垣根)の下をごそごそと歩き回って、鼻をふがふがさせ、においをかぎながら、餌を探すホッグ( hog、 豚)。豚と言っても、様相はまるで違い、生態的にはモグラに近い動物なのだそうです。お目めはちゃんとあるのですが、視力が非常に悪い動物で、嗅覚に頼って行動する様子や、鼻のとんがりぐあいなど、たしかにモグラに似ていなくもないですが。

日本に帰っていた間に、母親から、ハリネズミが日本でペットとして飼われていると聞きました。母と友人たちが行きつけのコーヒー店のマスターが、逃げ出したか捨てられていたハリネズミが庭に出没し、それを拾って飼っているいるとかで、母は、沢山そのペット・ハリネズミの写真をもらって来て、家の電話の周りに貼ってあったのですが、イギリス原産のヨーロッパハリネズミより、顔と腹部の色が、もっと白い感じでした。おそらく、日本で飼われているものは、ヨーロッパハリネズミより小型のアフリカ原生のハリネズミだと思います。ヨーロッパハリネズミは、成長すると30センチほどの大きさになるものもいます。また、イギリスで、ハリネズミをペットにしているという話はほとんど聞きません。弱ったハリネズミを発見して一時的に救助する時以外は。それにしても、こうして、原生でないものを、衝動に駆られてペットにして、飼いきれずに、その辺の野ッ原に捨てたりする無責任行為は、後で問題になるのですよね。ハリネズミもいい迷惑で。このコーヒー店のマスターみたいに拾ってくれる人がいればいいけれど。ニュージーランドあたりでも、ハリネズミは原生でないのに、野生で数が増えてしまい、結果、害獣とみなされ、罠を使って捕まえ殺しているのだと言います。

ハリネズミは夜行性で、日が暮れる頃になると、隠れ家から登場し、垣根や生垣の下をがさごそと動き回り、小さな昆虫、ミミズ、果物、草の根などを食べ歩き。農耕地よりも、いろいろな植物が植わっている民家の庭を好む傾向があり、庭のある家では、夕方から、このハリネズミが動き出す、ごそごそ、がさがさという音が庭の奥から聞こえてくることがあります。小さな体の割には、比較的行動範囲は広く、夜間あちらこちらを歩き回るそうです。時折、日が暮れてから、帰宅途中に道で、のこのこ歩いているハリネズミに遭遇したりもします。危険を感じた時の護身法が、走る・・・ではなく、立ち止まり丸くなる・・・なので、気の毒にも、道路のど真ん中をひょこひょこ歩き、車が接近すると丸くなり、そのまま車にのされてしまう事も。

さて、このイギリスのハリネズミたち、数の激減が懸念されています。理由はいろいろあるのでしょうが、まず挙げられるのが、一般民家が、前庭などを、駐車場代わりにするために、芝生や生垣を除去してコンクリートで固めてしまう、手入れを簡単にするために、裏庭もデッキや、パティオ面積を広げ、ハリネズミが隠れる、住む、そして餌を探す場所が失われている、更には、家と家との境界が、生垣より、頑丈なフェンスで固められる事が一般的になり、ハリネズミがひとつの庭から、次の庭へ渡り歩く事が難しく、行動範囲=餌を探す場所が制限されてしまう・・・などなど。特に、最近、新しく建設されている住宅は、庭などがほとんどないような状態。あっても、それこそ、ハリネズミが通る隙間もない、コンクリートが土台の塀でがっちり固められ、庭の内部も、芝生だけの小さなもの。また郊外を離れ、田舎の畑などの周囲は、生い茂っている植物の種類が少なく、また農薬使用などのため、餌となる昆虫の数も少ない・・・。ということで、最近、ハリネズミを見ることができるような庭のある家に住んでいるというのは、ラッキーな事のようです。うちの通りも、そんなハリネズミには恵まれた(?)、ラッキーな地域。

特に2007年あたりから、人気のハリネズミがこの国から消えてしまわないように、ハリネズミ・フレンドリーな庭をつくろうと、メディアなどでも盛んに、「ハリネズミを守れ運動」が展開されてきました。それによると、まず、庭の一部に、ほとんど手を入れない部分を残し、ハリネズミが隠れられる場所を増やす、木のログなどを積み上げ、ハリネズミが餌とする昆虫が育成する場所を設ける、ひとつの庭から次の庭に簡単に移動できるように、隣家との隔たりの塀の下に、小さなCDサイズの穴をあける、茂みの後ろなどに餌と水を出す、ハリネズミ・ハウスを庭の静かなところにしつらえる・・・などなど。うちも、これは全部実行しました。そんなこんなで、田舎のハリネズミの数は、いまだ、いささか下降線のようですが、郊外のハリネズミの数は、ハリネズミ好きな人たちの努力で、なんとか踏みとどまっているようです。

臭いけど、栄養たっぷりハリネズミ・フード
昔の人はなぜか、ハリネズミの餌用に、庭にパンとミルクを出したりしていたのだそうです。が、ハリネズミは牛乳を消化できない上、パンは全くハリネズミに必要な栄養価値はないので、これは絶対にやらないで下さいと、さかんにニュースやサイトなどで繰り返し報道されたため、さすがに、最近では、やる人がいなくなっています。その代わりに、ガーデンセンターや大型スーパーなどでは、ハリネズミ用に開発された餌が売られるようになってきて、うちもこれを買って、庭の奥に出しています。小さな固形のビスケットのような物体なのですが、これがまた、一体何が入っているのか、それは強烈な匂いがします。ハリネズミにとっては、たまらなく、よだれが出るような匂いのようです。どうやら、猫にも魅力的な食べ物らしく、近所の猫が潜り込めないような、狭めの場所に餌場を設置するのがいささか、大変。

ハリネズミの餌と言っても、ハリネズミ保護運動に目を付けた色々な企業が、色々商品を出しており、質もピンキリの感じです。ちょっと値段が他の物より安いと手を出すと、小麦やら栄養価の低いものを大量に混ぜいれて、サイズを大きくしているものもあるので、買うときは、信頼おけるワイルドライフの促進に力を入れている会社の商品から選ぶのが無難そうです。

ハリネズミ専用の餌を食べる親子、3匹いるのがわかるでしょうか
また、一昨年、庭の奥の比較的静かな部分にある、セント・ジョーンズ・ワートの茂みの影に、大型のハリネズミ・ハウスを購入して設置もしました。しばらく使われていた様子が無かったのですが、最近、餌場に現れる大型母さんハリネズミと、2匹の小さい子供が、このハリネズミ・ハウスに戻っていく姿を目撃し、それはうれしくなりました。

ちょっと見にくいけれど、緑色の箱がハリネズミ・ハウス
ハリネズミ母さん、このおうちで、子供産んだのかもしれません。この3匹、日が傾き始めるころに、時には、ばらばら、時には一緒に、おうちから出て、餌場に現れ、がりがりと、強烈な匂いの餌を食べ、ぴちゃぴちゃ水飲み、その後、再び家に戻るか、周辺の茂みを他の餌をさがしてごそごそ歩くのが、ここのところ日課となっています。いつまで、お母さんが、子供たちと一緒に住むのかはわかりません。

うちのお隣さんの家の花壇にも、やはりハリネズミが住んでおり、うちに住むハリネズミが隣の庭に現れたかと思うと、隣のハリネズミがうちの庭に侵入してきたりと、今のところ、本当にうちの周辺ではハリネズミ活動は盛んになっています。井戸端会議も、天気の他に、ハリネズミの話になる事も多いです。

夜行性ですので、日中に、動きののろいハリネズミを見つけると、それは危険信号という事。去年は、うちの庭の真ん中で、具合が悪く、日中、ぜーぜーしているハリネズミを見つけ、獣医に持って行った事があります。保護されている動物なので、獣医の受付では、「うちであづかって、緊急手当てしたあと、ハリネズミ専門の施設へ持っていく」とのことで、「持ってきてくれてありがとう」とだけ言われ、お金も取られず。また、冬眠直前の寒くなって来た季節に、あまりにも小さいと、冬が無事越せないそうなので、その時期に、こぶしサイズのハリネズミを見たら、やはり、ハリネズミ救助のための慈善団体などに連絡するようになどという話もあります。


さあ、今日も、そろそろ、臭い餌を出しに行く時間となりました。丁度さっき、2、3日留守のお隣さんのゴミ出しに、近所に住む息子さんが来ていましたが、彼も、「ゴミ出しと一緒に、はりねずみの餌出しも頼まれた」なんて言ってました。

はりねずみのうんこ
義理堅いはりねずみたちの事、庭でご飯をたくさん食べた後は、「みにちゃん、ありがとう。」と言わんばかりに、沢山のうんこを残していきます。芋虫のように細長い黒いうんこですが、幸いなことに、近所のくそ猫たちが、時にやって来て落としていく、それはくさーい、べちゃっとしたうんこと違い、こちらは無臭です。ですから、パティオにしていったものなどは、乾燥したら、指でつまんで、ぽいと花壇の中に放り込んで片すだけです。(当然、その後、ちゃんと手は洗ってますので!)

何はともあれ、はりねずみが来る庭は、多少、手入れが行き届いていなくても、良い庭なのだと思っています。

*The Tale of Mrs Tiggy-Winkle ティギーおばさんのおはなし*

はりねずみ、というと、イギリスでは、ミセス・ティギー・ウィンクル(Tiggy-Winkle)を頭に浮かぶ人も、いまだ多いと思います。ティギー・ウィンクルは、ビアトリクス・ポターの絵本の「ティギーおばさんのおはなし」の主人公。ハンカチをなくしてしまい、湖水地方を歩きまわっていた、金髪の女の子ルーシーがめぐりあった、頭にボンネットをかぶり、スカートをはいたでぶっちょ、ちびっちょ、洗濯おばさんが、実ははりねずみだった、という物語。

「The Tale of Mrs Tiggy Winkle」は、絵入り、英語の原作を下のリンクで読むことができます。

http://www.gutenberg.org/files/15137/15137-h/15137-h.htm


追記:2019年7月

庭から、外へ出る新しい木戸に、ハリネズミが簡単に通れるよう穴をあけました。というのも、ハリネズミが、無理やり、ぎゅーぎゅーと、この木戸の隙間から入ってくるのを見たためです。ついでに、この新しい穴の上に、ハリネズミの行動範囲の妨げとなるものを減らすために、ハリネズミ保護団体によって販売されている、「ヘッジホッグ・ハイウェイ」のサインをくっつけました。

庭のバードバスで、水を飲むハリネズミの後ろに、子育て中のクロウタドリの親子がいたので、一緒に記念写真。

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