ブリジット・ライリーのゆらぎと佐倉散策

ブリジット・ライリー(Bridget Riley、1931年~)という女性は、イギリスの芸術家で、線や幾何学模様の組み合わせにより、目の錯覚で、画面が動いて見えるオプ・アートなるものを創ってきたことで知られています。作品は、ロンドンのテート・モダンなどでも見えるので、こちらでは比較的名の知れた人物。1960年代に、白と黒のみを使用した抽象画の作成を開始し、60年代後半から、色を導入して、波のように揺れる色付きストライプの絵などを始めたという事。ゆらゆら動く感覚の他に、色の組み合わせで、わずかな数の色しかしようしていないのに、ちょっと離れたところから見ると、多数の色を使っているように見える作品もあります。

作成の方法は、実物大の下絵を描いたあとに、彼女の指揮の下、スタジオでアシスタントが彩色をするというのですが、実際に自分の絵筆ですべてを完成させない芸術家を、画家と呼ぶかどうかには、いささかの議論が入るところです。自分のコンセプトの下に、他者の力をかりて仕上げるというのは、どちらかというと、舞台演出家や映画監督と同じ類の感覚。

彼女の絵の前にたつと、飲み込まれそうな気分になるものや、地面までゆらゆらしてくるようなものもあり、感覚的に面白いのは面白いのですが、実際に自分が画家であったら、毎回毎回、そういうものを創造するのを面白いと思はないだろうな、という気はします。

さて、日本滞在中に訪れた、千葉県佐倉市のDIC川村記念美術館で、このブリジット・ライリーの「ゆらぎ」と題した展覧会が、たまたま開かれており、常設展と共に、覗いてきました。簡単な1時間の無料ガイドツアーがあったので、参加したところ、ガイドさんの話では、彼女は日本での知名度は比較的低く、当展覧会は、日本では実に38年ぶりのものだそうで、「次回はいつになるやらわかりません。」とのことですので、興味のある方は、8月26日までやっています。彼女の作品数点と、この展覧会に関しての詳細は、下のサイトで見れます。
http://kawamura-museum.dic.co.jp/exhibition/index.html

展覧会も楽しんだのですが、なによりも、この展覧会に関係させての商品開発に、日本という国のアイデアの奇抜さと、商魂というか、ある物事を、商品化へとつなげるための発想のすごさにびっくりした「もの」があります。それは、ギフトショップでみた、この「ゆらぎ」展覧会関係の商品のひとつ。

これなのですが、何だと思います?当川村記念美術館が所蔵するブリジット・ライリー「朝の歌」のイメージから作った、その名も「ゆらぎ」というそうめんなのです。そうめんに使われている4色は、当絵画に使用されるやさしいパステルカラーで、たしかに、そうめんは、ゆでると、ゆ・ら・ぐ!皿に綺麗に盛ると、ゆ・ら・ぐ!食べる前に、汁にひたしても、ゆ・ら・ぐ!なるほど!美術館内はカメラ撮影禁止だったのですが、これは、絵ではないし、あまりにもびっくりしたので、取らせてもらいました。1枚の絵から、こんな、奇抜な商品開発をするのは、日本ならではです。

商品説明を読むと、それぞれの色のそうめんは、かぼちゃやら、ビーツやらの自然素材を使っているとやらで、高級、健康感覚も出しています。ちょっとお値段高めですが、今から思うと、試しにひとつ買ってみればよかったかな。こんな自分の絵をイメージしたそうめんが、売られているなんて、ブリジット・ライリーさん、知っているのでしょうが、どう思っているのでしょうね。本人も、ゆらぎそうめん、試食したのかな。

数日前に書いた、日本での紫陽花巡りの記事に、当美術館のティールームで、庭園内に咲く紫陽花を模した和菓子が出てきたことを書きましたが、館内のレストランでは、ブリジット・ライリーの作品をイメージした食事も用意されていたようです。ガイドさんは、「ぜひ、どうぞ。」などと言っていましたが、この美術館は、周りに何もないところにあり、食べるものを売る店は他に一軒もないので、レストランは、大変混んでおり、待ち時間が長そうなので、私たちは、ここでの食事はあきらめ、鑑賞と、庭園散策を楽しんだ後、少々、ひもじい思いをしながら、佐倉に戻ってからの食事となりました。ブリジット・ライリー・メニューを食べたい人は、レストランには、早めに足を運びましょう。

このDIC川村記念美術館について、少々、書いておきます。DIC(ディーアイシー)とは、印刷インキの製造販売をする会社として、1908年創業の、旧、大日本インキ化学工業で、当館所蔵のコレクションは、同社と関連会社によって収集されたものということ。特に1970年代から収集は本格化。開館は、1990年の5月。初代館長は、2代目社長であった川村勝己氏(1905-1999年)。レンブラント、シャガール、モネなどの他にも、シュルレアリズム、抽象画、特にフランク・ステラとマーク・ロスコの作品が、わりとありました。気持ちのよいスペースの中で、のんびり鑑賞できます。庭園も綺麗です。

私たちは、京成線佐倉駅から、美術館の無料シャトルバスで行きましたが、これには、JR佐倉駅からも乗れます。上述の通り、とにかく食べる場所が、館内のレストランしかありませんので、ちょこっと庭で食べられるものを持っていくか、昼食を済ませてから行く、または、鑑賞前に、レストランに早めに入ってしまうのがおすすめです。

当美術館公式サイトは、こちら

今回はじめて降りた、佐倉という町も、内部見学可能の武家屋敷もあり、

武家屋敷から、かつての佐倉城へと抜ける、侍が歩いた竹林の中を通る道もあり、城跡、日本滞在中で一番きれいな菖蒲の花たちを見た菖蒲庭園、

そして、見学に半日かかる規模の国立歴史民俗博物館もあります。

この館内で、団地っ子の私と幼馴染が一番感動したのは、60年代に沢山建設された、団地の内部を再現する展示物。老朽化で、10年以上前に建て直しのため、壊されてしまった私たちが子供時代を過ごした昔の団地が、内部のインテリアなども、まるで当時を彷彿とさせるそのままの様子で展示されており、金属のドアも、全く、私たちが毎日出入りしていたのと同じなら、昔懐かしの、木の風呂おけも同じ、風呂場の窓の形も同じ。幼馴染は、「えー、まるでそのものだ。涙が出るー!」自分たちの子供時代が「歴史」として扱われていることに、時の流れを感じずにはいられませんでしたが・・・。

館内最後の部屋では、ゴジラにも遭遇。

という事で、佐倉は、のんびりしながら、見どころの多い町で、大変気に入り、今回の日本帰国の掘り出し物の一つだと思っています。

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