ヤドリギの下でキスをする
クリスマスの室内の飾りに良く使用されるヤドリギ(Mistltoe、ミスルトゥ)。常緑の細長い葉の間に真珠のような白い実。これを束ねて逆さに吊るし、その下に立つ人には、キスができるというのが習慣ですが、この習慣がどこから来たかというのは、定かではないよう。
一説によると、北欧神話に由来するという話があります。バルドル(Baldr)という美男の神様がおりました。彼は、自分の死を見る悪夢に襲われ、母親の女神フリッグ(Frigg)は、それを聞いて、心配し、植物を含む地上のあらゆる生物に、バルドルを決して傷つけないという誓いをたてさせるのです。が、この時、フリッグは、寄生植物であるヤドリギを見過ごしてしまう。ともあれ、この後、バルドルは、不滅の体となり、他の神々がふざけて物を投げつけても、一切、傷つくことがなかった。ところが、心の曲がった神、ロキ(Loki)は、ヤドリギが見過ごされていた事に気づき、ヤドリギを使って矢のような武器を作る。ロキは、バルドルの盲目の兄弟、ヘズ(Hod)に、このヤドリギでできた矢を、バルドルにむかって投げつけさせる。矢に突かれたバルドルは、瞬く間に死んでしまい、他の神々は、やさしく美しかった彼を悼んで悲しんだ・・・とここまではいいのですが、この後のストーリーは、多少のバリエーションがあります。まず、そのひとつは、母のフリッグの流した真珠のような涙は、ヤドリギの実となり、フリッグは、ヤドリギを罰する代わりに、その後、平和と友情の象徴とした・・・というもの。また別のストーリーは、神々は、なんとか、バルドルを死の世界からよみがえらせることに成功し、喜んだフリッグは、ヤドリギを平和と友情のシンボルとし、その下を通るものはキスをするという誓いをたてたとやら。この他にも、また別の説を読んだことがあります。
ヤドリギは、キリスト教以前の古くから、常緑であるため、冬の飾りや行事に使用されており、豊穣の象徴であるとしてドルイド教(Druid)などの異教でも崇められてきた植物。実際、正式にはキリスト教とは全く関係なく、一般では、18世紀ころから、クリスマスの装飾として使用されるようになるものの、ホーリー(西洋ヒイラギ)やアイビー(蔦)と異なり、キリスト教の教会内にヤドリギを飾るという事はほとんどないようです。
ヤドリギの下でキスをするというのは、上記の北欧神話の一説との関わりや、ドルイド信者が豊穣のしるしとして見た事から、ある地方で始まった習慣ではないかという事。特に、イギリスの召使層で、ヤドリギの下に立っている女性にはキスして良い、それを拒むのは不運を招く・・・として、若者にはちょっとドキドキの人気の習慣となり、それが、中流上流家庭にも広がっていき、やがて、国境を越えた英語圏で、ロマンチックなクリスマスの習慣と化し。上のイラストのように、自分でヤドリギの一枝を頭にかざして、キスしたい相手に近づき、チュなんていうのもありです。また、あまりにも乱痴気騒ぎに陥らないようにするためか、飾られたヤドリギの下で、一回キスをしたら、実をひとつずつ取って、実がすべてなくなったら、はい、それまで、なぞというルールもあったようです。
先にも触れた通り、ヤドリギはいわゆる寄生植物で、冬の田舎道などを歩くと、葉が落ちた木々の枝の間に、ぼんぼりのような丸い緑の塊がところどころについていたりするのを見かけることがあります。こうして寄生する木々から栄養を得て、冬も緑の葉。
鳥たちが白い実を食べた後、ねちょっとした実の汁がついたくちばしをきれいにしようと、枝にくちばしを擦り付け、中にあった種なども、この時に木の皮の間に押し込まれて、そこからまた、にょきにょき繁殖するのだそうです。
リンゴの木に寄生する事が一番多いとかで、以前、リンゴ園を営む農家の人が、リンゴの収穫がすっかり終わったクリスマス前に、今度は木に育ったミスルトゥを収穫して、市場で売るという2度どり経営をしている話をしていました。リンゴの実もちゃんと育っているという事は、一つの木にあまりに大量繁殖しない限りは、寄生された木には、それほどの被害が出ないという事でしょうか。まあ、毎冬、販売のために刈り込んでいれば大丈夫なのでしょう。私も、自家製ヤドリギの収穫が毎冬できるといいな、と、ある冬、マーケットで買ったヤドリギの実を指でぐちゅっとつぶして、いくつか、庭のリンゴの木の枝の間に擦り付けてみたのですが、全く効き目はなかったです。
ドルイド教徒は、オークの木に寄生するヤドリギを特に大切に崇めたという話がありますが、実際、オークの木にヤドリギが育つのは、非常に稀な事のようです。リンゴの木の他には、シナノキ(lime tree)、サンザシ(hawthorn)、ポプラ(poplar)などに寄生する事が多いとのこと。私が撮った上の写真は、2枚ともポプラではないかと思います。
いずれにせよ、冬枯れの枝々の間に下がる緑のぼんぼりは、灰色に垂れこめるイギリスの空の下、ちょっとしたアクセントとなり、古くから人々が、この植物を愛おしんだ理由わかる気がします。
*これを書くにあたっては下のミスルトゥのサイトが参考になりました。北欧神話バルドルの絵とヴィクトリア朝のイラストは、当サイトから拝借したものです。
http://mistletoe.org.uk/homewp/
ヤドリギで作った矢に刺され死んでしまうバルドル |
ヤドリギは、キリスト教以前の古くから、常緑であるため、冬の飾りや行事に使用されており、豊穣の象徴であるとしてドルイド教(Druid)などの異教でも崇められてきた植物。実際、正式にはキリスト教とは全く関係なく、一般では、18世紀ころから、クリスマスの装飾として使用されるようになるものの、ホーリー(西洋ヒイラギ)やアイビー(蔦)と異なり、キリスト教の教会内にヤドリギを飾るという事はほとんどないようです。
先にも触れた通り、ヤドリギはいわゆる寄生植物で、冬の田舎道などを歩くと、葉が落ちた木々の枝の間に、ぼんぼりのような丸い緑の塊がところどころについていたりするのを見かけることがあります。こうして寄生する木々から栄養を得て、冬も緑の葉。
鳥たちが白い実を食べた後、ねちょっとした実の汁がついたくちばしをきれいにしようと、枝にくちばしを擦り付け、中にあった種なども、この時に木の皮の間に押し込まれて、そこからまた、にょきにょき繁殖するのだそうです。
リンゴの木に寄生する事が一番多いとかで、以前、リンゴ園を営む農家の人が、リンゴの収穫がすっかり終わったクリスマス前に、今度は木に育ったミスルトゥを収穫して、市場で売るという2度どり経営をしている話をしていました。リンゴの実もちゃんと育っているという事は、一つの木にあまりに大量繁殖しない限りは、寄生された木には、それほどの被害が出ないという事でしょうか。まあ、毎冬、販売のために刈り込んでいれば大丈夫なのでしょう。私も、自家製ヤドリギの収穫が毎冬できるといいな、と、ある冬、マーケットで買ったヤドリギの実を指でぐちゅっとつぶして、いくつか、庭のリンゴの木の枝の間に擦り付けてみたのですが、全く効き目はなかったです。
ドルイド教徒は、オークの木に寄生するヤドリギを特に大切に崇めたという話がありますが、実際、オークの木にヤドリギが育つのは、非常に稀な事のようです。リンゴの木の他には、シナノキ(lime tree)、サンザシ(hawthorn)、ポプラ(poplar)などに寄生する事が多いとのこと。私が撮った上の写真は、2枚ともポプラではないかと思います。
いずれにせよ、冬枯れの枝々の間に下がる緑のぼんぼりは、灰色に垂れこめるイギリスの空の下、ちょっとしたアクセントとなり、古くから人々が、この植物を愛おしんだ理由わかる気がします。
*これを書くにあたっては下のミスルトゥのサイトが参考になりました。北欧神話バルドルの絵とヴィクトリア朝のイラストは、当サイトから拝借したものです。
http://mistletoe.org.uk/homewp/
コメント
コメントを投稿