クレイマー、クレイマー

「ちょっと、おやつにフレンチトーストを作ってみようか。」そんな事を思ったのは、映画「クレイマー、クレイマー」をDVDで見たからです。公開当時の1979年には、日本でも大変な話題の映画でした。

ざっとしたあらすじは、

ニューヨークの広告代理店で、バリバリ働くテッド・クレイマー(ダスティン・ホフマン)は、妻は家庭にとどまって子供と家の面倒を見るのが一番という方針。ところが、妻のジョアンナ・クレイマー(メリル・ストリープ)は、実は仕事を続けたかった人。子供は愛しているが、それだけでは物足りない、と悶々とした日々を送るのにも、テッドは気付かず、彼女が相談を持ちかけようとしても、聞く耳持たず。自分の存在理由に疑問を持ち、自信を失い、ついに、耐えられなくなったジョアンナは、ある日、テッドが自宅へ戻るや、荷物をまとめて出て行ってしまう。

以後始まる、テッドと息子ビリーの2人だけの生活。テッドは、慣れない育児と、仕事のやりくりで、てんてこ舞いしながら、ビリーは、お母さんがいなくなってしまったショックと、今まで絆の薄かったお父さんだけとの生活に最初は抵抗をみせながらも、18ヶ月の時が経つと、微笑ましい仲良し父子と化すのです。

そこへ、再び登場するのが、今やテッドより高給取りとなったジョアンナ。やはり、息子が忘れられない、自分で育てる自信がついたと、引き取りに来るのですが、「息子は渡さん」とするテッド。そこで、親権を争っての「クレイマー対クレイマー」の裁判が始まる。育児に時間を取られ、今までの会社を首になってしまったテッドは、職がないと、法廷で勝つ見込みがなくなり、完全に親権を失う、と、クリスマス直前に、必死の職探しをし、給料が下がるものの、仕事を確保。最終的にはそのかいなく、親権は、ジョアンナに渡ってしまうのですが。

ビリーを引き取りに来る予定の日、ジョアンナは、テッドのマンションのロビーに、テッドを呼び出し、

I came here to take my son home. And I realized he already is home.
私は、息子を家に連れて行こうと、ここに来たのだけれど。ビリーはもうすでに、家と呼べる場所にいるんだと気がついたの。

と告げて、ビリーを自分の元に連れて行く事をやめようと思う旨を告げるのです。

いいラストシーンでしたね、これ。部屋に上がって、ビリーに話をするために、一人エレベーターに乗り込むジョアンナは、涙をふき取って、ロビーで待つ事にしたテッドにむかい、まだ目を真っ赤にしながら「私、どう見える?」と聞くのですが、それに答えてテッドが、

You look terrific. すごく素敵に見える。

これに反応して、メリル・ストリープが一瞬見せる、驚きと、うれしさと、とまいどいが一気に浮かんだような表情は、本当に、お見事でした。彼女が名女優と呼ばれる理由が、このワンシーンだけで、わかる気がします。そして、二人が、にこっと笑い合って、エレベーターのドアがスーッとしまって、後はご想像におまかせします、ジ・エンド、となる。もしかしたら、この二人、お互いを理解するようになって、やがて、よりを戻すというのもありかな・・・とも思わせて。

筋的には、イプセンの「人形の家」で、主人公ノーラが出て行ってしまった、その後の話の現代版みたいな感じです。現代版と言っても、もう35年前の映画ですが。人形の家のノーラが、子供の時はおとうさんのノーラ人形、結婚したら、だんなのノーラ人形であったと、思うように、映画の中の法廷シーンで、ジョアンナも、いつも自分は、他人に対しての何かであって、自分というものが何なのかわかっていなかった、ような事を言ってましたっけ。

法廷でテッドが、女性も社会へ出て働きたいと、男性と同じ権利を主張し始めて、それは認めるけれども、親権の事となると、いまだに、女性の方が自然な保護者として立場が強くなる。親権になると、性差別で女性が優位になる、それはおかしいのではないか、自分も同じように子供を愛していて、面倒を見る能力があるのに・・・という感想をもらすのですが、これは、ごもっとも。良いとこ取りで、自分に都合のいい事だけ、平等、というのもね。まあ、それで、ジョアンナも、テッドが、時に、自分の仕事とキャリアを二の次にするほど、ビリーを大切にしている事実に気がつき、気を変えるのでしょう。

公開当時の広告で、何度も放映されていたのが、アイスクリームのシーンでした。ご飯に手を付けず、冷凍庫を開けて、アイスクリームを取り出し、スプーンにいっぱいすくい取ったアイスクリームを口に入れようとするビリー。対して、「ご飯を食べずに、そのアイスクリームを口に突っ込んだが最後、ひどい事になるぞ!」とおどすテッド父ちゃん。ビリーは、父ちゃんをじとめで睨みながら、おそるおそる、アイスクリームを口に入れてしまい、テッドは切れてしまうというもの。でも、ビリーの気持ちもわかりますよ。このご飯、ぐじゃっとした感じで、見るからに不味そうでしたもの。

そして、また話題になっていたのがフレンチ・トーストを作るシーン。ジョアンナが出て行ってしまった翌朝、朝食に、食パンを、ミルクと卵を溶いたものに浸して、フライパンで焼くフレンチ・トーストを作ろうとするテッド。ビリーが不信感いっぱいの眼で見守る中、これが大失敗に終わり、溶かし卵には、殻が入っているは、パンはびりびりなるは、更に、焦がした挙句、フライパンを床に落としてしまう。

2度目に出てくる、フレンチートーストの場面は、ビリーがジョアンナに引き取られる予定の前日。おそらく、この18ヶ月間に、二人で、失敗しながら、何度もフレンチトーストを一緒に作ったのでしょう。ビリーがミルクと卵をしゃかしゃか混ぜ、テッドが手際よく、フライパンで焼いていく。役割分担も、ちゃんと決まっていて、非常に手馴れた感じになっているのです。その後、ビリーは、お父さんとの、こんな日常も、もう経験できなくなると、うるうる泣き出してしまう。ビリー役の子が、金髪の天使のようで、それは可愛いかったですね。特に、泣く演技が妙に上手な子でした。

原題:Kramer vs. Kramer
監督:Robert Benton
言語:英語
1979年

そんなこんなで、そう、このフレンチトーストなる食べ物についても、ちょっと書こうと思ったのですが、今日はこれで力尽きましたので、次回の投稿に回します・・・。

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