セルフ・アイソレート!

コロナウィルスの波紋がイギリスでも広がるにつれ、やたら耳に入ってくる言葉が、セルフ・アイソレート(自己隔離する、self-isolate)やセルフ・アイソレーション(自己隔離、self-isolation)。これは、すでに、今年の流行語の王座に決定でしょうね。

一昨日、英国政府が発表したアドバイスは、「風邪などの症状が出てきた人は、家庭医や病院に行かずに、最低7日間、セルフアイソレートしてください。」ウィルスを巷にまき散らす疑いのある人は、自宅にこもり、最低7日間、外へ出ないで、他人とは接触しないで自己隔離してくれという事。お買い物なども、近所の人や、親戚に頼んで、接触をさけるため、ドアの外に置いて行ってもらったり、配達をしてもらう時もドアの外に置いて行ってもらうように計らうのだそうです。

そんな事を言われても、自宅勤務ができず、何が何でも働きに出ねばならない人はどうするのか。また、自宅や介護施設で介護を受けている人たちが症状を起こしたら、看護人はどうすればいいのか、問題点は色々あります。

昨日、今年初めて、庭の芝刈りをし、前庭の芝を刈っていると、調度、お隣さんの女性が、買い物から戻ってきたので、2メートルくらいスペースを開けての、立ち話をしました。「喘息持ちの息子の状態がかんばしくないから、頼まれたものをスーパーに買いに行ったのに、棚には、トイレットペーパーは無いし、パラシタモル(鎮痛剤)もなかった。一体、どうなっちゃってるの?」どうやら、この息子さん、セルフアイソレーションを始めたようなのです。「ああ、喘息持ちだったら、心配だ。」と私。更に、彼女は続けて「レムシップ(風邪ににかかった時人気の薬)まで売り切れてたわ!クレージー!」と頭を振っていました。彼女は、そのまま車で、息子さんの家に、買い物を届けに出発。

現段階(3月14日)、イギリスでは、他のヨーロッパ諸国と違う方針に出て、学校閉鎖はまだ行っておらず、大型の集会の禁止制限もなく、サッカー等の試合は、オーガナイザーが自主的に延期・中止を決定している段階です。子供たちは、感染してもほとんど影響を受けないという事を思うと、私も、学校を閉鎖しないというのには賛成です。日本で見ていた限り、行き場がなくなり、勉強に妨げを受けた子供たちがどこへ行くのか、何をするのか、という事の方が、すでに、感染で大変になっている社会に、別の問題を広げそうな気がするので。

ただ、大型集会を禁止しないというのは、どうでしょうね。私は、自分から進んで、今の段階でそんなところに出かけていきませんけどね。イギリス政府にアドバイスをしているサイエンティストは、大衆がある程度感染し、免疫を作るのは良い事、という頭があるのだそうです・・・!だって、免疫は、ワクチンができれば、いいわけで、要は、それまでの間にどれだけ、死者などの数を増やさないようにするべきではないんでしょうか?これには、当然、反対意見や非難が舞い上がり、どうやら来週末辺りから、政府は大型集会の禁止を発表する予定に態度をあらためている感じです。毎日のように、病院が患者の多さに対処できていないイタリアからの報道を見ていると、「イギリス政府の対応は、本当に、この程度でいいの?」という疑問が、持ち上がっています。対策を、国民の自主的行動のみに預けてるような雰囲気。

しかも、現段階では、自己隔離した人たちのほとんどは、ウィルス検査も受けられず、実際、治っても、自分がコロナにかかったのか、それともただの風邪だったのかもわからないようです。ラジオで、家庭医の人が、「自分は、風邪の症状が出たので、セルフ・アイソレートしているが、コロナかどうかの検査を受けられず、困っている。」なんて話をしていました。びっくり。

イギリスの重体者用のベッド数は、イタリアの半分しかないという話です。感染がピークになったら、病院は重病患者の対処をしきれず、回復の見込みが少ない人間は見捨てられるのでは、という憶測から、高齢者や、他に疾患を持つ人たちの中には、感染防止に、自ら、長いセルフアイソレーションに入る人たちも出てきています。終わりがわからない冬ごもりみたいなものですね、これは。

先週、私とだんなの携帯に、2、3回繰り返して、地元の家庭医から、「予約なしで、むやみに当院に訪れないでください。」というテキストが、送られてきました。今は、下手に病院の待合室などに行く方が危ない気がするので、もともと、自ら訪れようなんて思ってもいなかったのに。

ロンドンに毎日長距離通勤している友人に、「あなたの仕事は、フレキシブルだから、自宅勤務できないの。危ないんじゃない?」とメールで聞いたところ、「これだけ毎日、通勤して、人に会ってるから、そのうち感染するに決まってる。感染したら、その時、他人にうつさないよう、自宅でセルフ・アイソレートして、しばらく自宅勤務にする。」とのんきなことを言ってました。かかっても、自分は軽いと思っているようです。こうやって、「まあ、自分はかかっても大したことないから。」とごく普通の生活を続けてる人も多い感じです。もっとも私も、うちのだんなが、肺の容量が少ない、免疫力の低い人間でなければ、もう少し、そういう態度になっていたかもしれません。

かと思うと、上記の通り、パ二くって、必要以上の量のトイレットペーパーの買いだめに走る人もいる。近所のスーパーで、パスタやスパゲッティー類が品切れになっていた、と別の町に住む日本人の友達が言っていました。彼女によると、他の種類の乾燥麺や、米は、まだちゃんと棚に残っていたので、これは、ワンパタで幅の狭いイギリス人の食生活を反映していると、分析結論していました。なんでも、彼女が学生時代の下宿先の大家は、一年に300日、スパゲッティーボロネーズを食べていたのだとか。私は、現在、イタリアがひどい事になっているので、パスタ類が消えてなくなると思っている人もいるためではないかと思います。

かつて読んだ、イギリスの料理人ナイジェル・スレーターの自伝「トースト」という本に、家族で初めてスパゲッティ・ボロネーゼを食べた時の描写があったのを思い出しました。たしか、その時、おばさんが、「こんなもの食わせて、私を殺す気か。」と泣きそうになったと書いてあった気がします。そんな、スパゲッティーがエイリアン・フードだった時代から比べれば、イギリス人の食生活も少しは、ましになっているのだとは思うのですが。おっと、脱線。

一方で、徐々に忙しくなりつつある病院で、自分も感染する可能性があるのに、他人のために必死に働いている人たちもいる。実際に、各国で、死んでしまうお医者さんもでてきているわけです。また、世界のあちこちで、ワクチンを作ろうと研究を続けている頼もしい人たちもいる。トイレットペーパーの奪い合いをしたり、日本で、マスクが無いと、罪もない薬局の売り子さんに詰め寄っている人たちは、こうした社会に貢献している人たちの事が、少しでも頭に浮かばいのでしょうか、恥ずかしくならないのでしょうか。無いマスクを売れと迫る前に、自分に聞いてみるといいです。今の状況を良くするために、自分は、一体何をしているのか?やっているのは、疲れている他人の心を、励ますどころか、更にぎすぎすさせる事だけ?それでは、あまりに情けないでしょうに。

一般的予防にはあまり役に立たないと、言われていますが、マスクがどうしても欲しかったら、100均のガーゼハンカチと、ゴムで、洗って、日干しできるマスクを自分で作ってみるのもいいという気がしますが。私は、日本の電車に乗っている間は、マスクをしている他の人たちに白い目で見られるのが嫌で、この100均、お手製マスクをしていました。外を歩く時や、他人とスペースが取れる大きな場所にいる際は、息苦しいので一切しなかったです。咳が出ていたわけでもないし。ちなみに、イギリスの我が家の周辺は、スーパーの中でも、マスク姿は、今のところ、一切見かけません。ただし、咳をしている人や、レジなどの接客業の人にはして欲しいとは思います。また、こちらでは、医療関係の人たちへのマスクが足りていないという話を聞くと、やはり、医療関係、サービス関係の本当に必要とする、しなければならない人たちのために、必要以上にためこむのは考え物です。

いずれにせよ、あまり事実に基づかないパニックは社会悪です。「銀河ヒッチハイクガイド」の表紙に書かれているように、「ドント・パニック!」

そんなこんなで、最近ラジオを聞いていても、自分がセルフ・アイソレートをしなければならなくなったら、何日もの間、家から一歩も出ないのに、憂鬱にならずに済むには、どうやって過ごせばいいのか、などという話も良く流れ、セルフ・アイソレーションになった時に、読みたい本のリストなどを作る人も出てきています。

丁度、イギリスでは、チューダー朝ヘンリー8世の時代を背景に、トマス・クロムウェルを主人公とした、ヒラリー・マンテルの「ウルフ・ホール」3部作の第三作目(The mirror and the light)が出版されたばかりで、話題となっているので、私は、まだ読んでなかったこの本を、第一作から読んでみようかなという気があります。BBCのドラマ化したものは、なかなかでしたし。セルフ・アイソレーション・ブックリストを選ぶ目安は、長編でいながら、飽きが来ず、ウィルスを忘れ、どっぷり違う世界に浸れるもの。また、人から、ロバート・ハリスの、共和政ローマの政治家、キケロを主人公とした、キケロ3部作(Cicero Trilogy)が良かったと言われ、こちらは、一作目の「Imperium」の中古本が安い値段で出ていたのを見つけ、さっそく注文しました。

人の性格や、家庭状況もよるのでしょうが、しばらく、家から一歩も出れない状態に陥っても、基本的に、やって楽しい事は沢山あると思うのです、読書以外にも。自己隔離の必要が起こったとしても、これから、ますます感染が広がることが予想される中、最終的には、病院に運び込まれてしまうような重症患者にならずに済むだけでも、みっけものです。

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