この楽しき日々 These Happy Golden Years

The dusk was deepening. The land flattened to blackness and in the clear air above it the large stars hung low, while the fiddle sang a wandering song of its own.

Then Pa said, "Here is one for you girls." And softly he sang with the fiddle.

Golden years are passing by
Happy, happy, golden years
Passing on the wings of time,
These happy golden years.
Call them back as they go by,
Sweet their memories are,
Oh, improve them as they fly,
These happy golden years.

Laura's heart ached as the music floated away and was gone in the spring night under the stars.

"These Happy Golden Years" by Laura Ingals Wilder

夕闇は深まっていきました。辺りの景色は暗闇に押され平たくなり、澄み渡ったその上の空には大きな星たちが低く釣り下がっています。其の中を、お父さんのバイオリンの気ままな音色が漂っていました。

「この歌は、お前たち、娘たちのためにだよ。」とお父さんは言い、バイオリンを奏でながら優しく歌い始めます。

黄金の年月が過ぎていく
幸せなる、楽しき、黄金の年月が
時の翼に乗って過ぎていく
この楽しき日々が
呼び起こしてごらん、日々が過ぎ行く中
その甘き思い出を
心に美しく呼び起こし、時が飛び去る中
この楽しき黄金の日々を

音楽が流れ去り、星空の下の春の夜空の中に消えていくのを聞きながら、ローラの胸は切なさに痛みました。

ローラ・インガルス・ワイルダー著「この楽しき日々」より

19世紀アメリカのフロンティア家族に生まれたローラ・インガルス・ワイルダーの自伝「大きな森の小さな家」に始まる「インガルス一家の物語」の「小さな家」シリーズを、今年の夏から読み始めましたが、「この楽しき日々」はその8冊目。この本の最後で、ローラは、やはり開拓者のアルマンゾ・ワイルダーと結婚、お父さん、お母さん、姉妹が住む家を後にする事となります。

題名は、上に載せた、お父さんが、娘たちにバイオリンを弾きながら歌った歌の歌詞から取られています。「命短し、恋せよ、乙女」ではないですが、人生はあっという間、青春は一度だけ、二度と来ない今の瞬間を楽しめ・・・のようなテーマの歌はわりとありますね。絶えず移ろう時を感じて、胸がきゅんと痛くなったローラの気持ちは万人共通。ただ、時に、「この重い人生は長すぎる」などという、更に気がめいるような事を書く作家などもいますが。

この本は、前作「大草原の小さな町」の最後で、15歳にして先生の資格を取ったローラが、家計を助けるために、冬の間、家から12マイル離れた小さな集落で、住み込みをしながら、学校で教える生活ぶりから始まります。

この経験が、それは大変ものでした。まずは、下宿をしたブルスター夫婦が、一切会話も無く笑いも無く、夫婦仲が非常に悪い。西部の開拓地で大変な生活をするのに疲れ果てたブルスター夫人は、東部に帰りたくて仕方が無い。そこで、こんな生活を強いるだんなが憎たらしく、また、若くして「先生」などというローラも憎たらしいのです。奥さんは、ローラが話しかけてくるのには、ほとんど無視。夜中、床に着いてからは、いつも夫婦で争う声が聞こえてくるのですが、奥さんは、わざとローラに聞こえるように「私は、毎日、着飾って、学校で椅子に座っているだけなのに、あんなにえらそうな様子の小娘の奴隷じゃない。」などとわめきちらす。「あの小娘をうちから追い払ってくれないなら、私は1人で東部に帰る。」云々、云々。ローラは床の中で、それを聞き、「他人を傷つけることに喜びを感じる声」と感じるのです。自分の生活に満足いかない人間は、往々にして、羨望を感じる他人に対して嫌味を言い、相手に嫌な思いをさせることで、自分の誇りと生きがいを取り戻そうとするものです。不幸な原因が自分に在るとは思わずに。ある夜などは、この奥さん真夜中に、ベッドの外で、だんなにむかって刃物を振りかざし、「東部へ帰るの?どうなの?」と叫ぶほど、かなり来ている・・・。また、ほったて小屋状態の家が、非常に寒く、息もこごえるような感じ。そんなこんなで、ローラは、この期間中、毎週末、どんな悪天候でも、かかさず迎えに来てくれるアルマンゾのそりに乗り、家へ戻るのが唯一の楽しみとなるのです。家に戻る度、自分の家族が楽しく団欒する事、笑顔が絶えないこと、朝起きると、皆が「グッドモーニング」を言い合うことにまで、ありがたく感じる。

この最初の学校で、ローラは、計5人の生徒を教えるのですが、3人が自分より年上とあって、少々てこずるのですが、なんとか無事に学期を終了。あと、1週、あと1週と我慢して、やっと、終了し、クリスマス前に、家へ帰ってから、ブルスター氏から、40ドルを受け取った時のローラは、「嫌なのを我慢したかいがあった」という心境。このお金は全部お父さんに、あげてしまうのですが、それが、彼女にとっては大変な誇りで、現在の先進国の子供とは大違い。

ローラは、家に戻ってから、再び、学校へ通い始め、旧友たちと再会するのですが、当時の学校のシステムと言うのも、面白いものです。時に先生をしながら、時にまた生徒に戻り。この後、2年間、ローラは、冬季学校に通い、春季に、別の、歩いて行ける新しい学校で先生を頼まれて教え。忙しくも、家族と友人に囲まれた、楽しい日々。ただし、子供時代の終わりは着々と近づき、自分も、アルマンゾ・ワイルダーからプロポーズを受け、また、友人たちも、段々と、それぞれ、将来の相手を見つけていく。一番最後に、生徒として通いなれた学校を去る時に、ノスタルジアを感じながらも、「最後の日と言うのは、寂しく感じるけれども、ひとつの物事の終わりは、、新しい事の始まりであるから」と自分に言い聞かせ。そして、18歳の夏に、ローラは、アルマンゾ・ワイルダーと結婚し、家族を離れて、アルマンゾのホームステッドへと移り、新生活に踏み切るところで物語りは終わります。お嫁入りに行くときの荷物には、幼い頃、森の中の丸太小屋でのクリスマスでもらった人形、シャーロットもしっかりつめて。

このローラとアルマンゾの結婚の際に、ローラが、誓いの言葉から、(夫に)「obey(従う)」という部分をはずしたい、とアルマンゾに頼むくだりが興味深いです。ローラの理由としては、「守れないと分かっている誓いを言いたくない。自分の判断の方が正当だと感じたら、誰に対しても盲目に従う事はできない」というもの。アルマンゾは、これにOKを出して、よって二人の誓いの言葉から、このくだりがはずされたというのです。2011年の、イギリスのウィリアム王子とキャサリン妃の結婚式で、やはり、この「夫に従う」というくだりを、誓いの言葉から除去する事を決めた、というのがニュースになっていましたが、すでに、100年以上前に、ローラとアルマンゾは、この部分無しの儀式をした事になるわけで、ある意味で、非常にモダンなカップルです。ただし、この「小さな家」シリーズは、ローラとアルマンゾの娘で、ジャーナリストであったローズ・ワイルダー・レーンが、手をいれ、編集をしているという説があるので、このエピソードは、ローラの考えより、ローズが自分の意見を反映させ、手を入れた、という可能性もあるかもしれません。

この「小さな家」シリーズで、最初は、家にあるほとんど全てのものが手作りであったのが、徐々に、すでに作られた物を店で買う、または、手助けになる道具などが登場していきますが、この本でインガルス家が、新しく購入するのが、ミシン。こんな足踏みミシン、私の祖母も良く使ってました。祖母がなくなった後、母親は処理してしまったようですが、取っておけばよかったのに、と思います。いまじゃ、アンティークですからね。ローラもお嫁に行ってしまうと、裁縫を手伝う人も減り、お母さんが大変になるだろうと、お父さんは牛を売ったお金で、この新しいミシンを購入するのですが、お母さんは、ミシンを使い始めると、これを買う前まで、一体どうやって、全ての裁縫をまかなっていたのか、想像しがたくなるほど、その便利さに感心。いまや、ミシンどころか、どこかの人件が安い国で作った服が簡単に手に入り、ミシンを使ってでも、すべて自分の洋服を作っていた時代が想像できないですが。

一方、あまりにも全てが簡単に、安価に手に入ってしまうしまう時代に逆らい、手作りのぬくもりを求めて、人は趣味で手芸や木工芸などの趣味に走ったりするのでしょう。たとえ、作る単価が、購入する値段より高くなってしまっても!

インガルス一家では、いつも、お互いへのクリスマスプレゼントは、相手に見つからないように、隠しながら、何ヶ月もの時間をかけての手作り品でした。そろそろ、巷ではクリスマス商戦ですが、家族のメンバーに隠しながら、何かを手作りしている人は、さすがに、もういないでしょうね。手作り品を送ったところで、「なんだ、こんな見栄えの悪いもの」なんて、すぐポイされてしまう可能性もありますし。

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