ラルワース・コーヴとダードル・ドア

Durdle Door
今回のサマセットとドーセットを巡る旅行で、「見れるうちに見ておいたほうがいいから、絶対はずさずに行こう」とだんなと言っていたのが、ダードル・ドア(Durdle Door)。もっとも、彼は子供の時に、何度かすでに見ているのですが。ダードル・ドアは、ドーセットのジュラシック・コーストにあり、ドアのように穴が開いた巨岩です。こういったものは、いつ大嵐で崩れないとも限らないですから、近場に行ったら、まだあるうちに見ておかないと。もっとも、100年たってもまだしっかり立っている可能性も十分あるわけですが。そして、ダードル・ドアを訪れるなら、一緒に近くのラルワース・コーヴ(Lulworth Cove)も見て行かないと。

コーフ城の観光を済ませた後、ドーセットの海岸線を西へ少々移動。ラルワース・コーヴの駐車場に到着した時には、その人出にびっくりしました。10月の週日だったのに、駐車場はかなりいっぱい。お日様キラキラのすばらしい秋日和とあって、磁石に惹かれるように、皆、ドーセットの名だたる海岸線に吸い寄せられてしまったようです。そういえば、ダードル・ドアの形、巨大U型磁石に見えなくもない。夏休みの真っ只中だったりしたら、その人出たるや、ものすごいものがあるのでしょう。駐車もできないかもしれません・・・。

まずは、駐車場からちょっと東へ歩いた場所に在るラルワース・コーヴへと向かいました。コーヴ(cove)とは小湾の意味ですが、岸壁に囲まれたほぼ円形のラルワース・コーヴは、まさに、小湾とは、こうあるべき、というお手本の様な形。切り立つような白いチョークの崖。それは美しい水の色。イギリス内で、こんな、ココナッツが流れてきそうな、南の島風の湾を見るのは、大昔、コーンウォールのミナック・シアターへ行って以来でしょうか。私たちの住んでいるそばの海は、北海に面していて色は灰色に近いものがあり、特に冬はメタルのように、目に冷たいですから。もっとも、ルルワース・コーヴには、泉の湧き水も流れでいるため、水温はわりと低いのだそうです。

海への入り口に当たる湾の両脇を抱える形の石は石灰岩。しばし崖の上に座って景色を堪能した後、再び駐車場に向かって西へ歩き始めます。


途中、ステアー・ホール(stair hole)と呼ばれる石群に遭遇。なんでも、3つの異なった石からできているのだそうで、中心部のポートランドストーンは海水による侵食で穴が開き、小型版ダードル・ドアといったところ。上の写真、左手部分、岩が縦にしわしわっと線が入っていますが、これはラルワース・クランプル(Lulworth Crumple)と呼ばれています。クランプルは「しわくちゃ」「しわくちゃにする」・・・の意。

とにかく、この辺り、地層が面白く、イギリスは、地質学者にとっては、魅力の場所なのだと良く言われる理由がわかります。こういう光景に出くわすたびに、私も、もちょっと、地質学を勉強したい、などという衝動にかられるのです。いや、地質だけに限らず、目の前に広がる景色を見て、その場所での、先史時代からの人類の営みを読み取る事が出来る人、というのはいるようです。ただ、「あーきれいだわね」で終わらず、そうした、風景が読める女になりたい、などと思ったりします。違いが分かる男、ネスカフェ・ゴールド・ブレンドではないですが。

ステアー・ホールの前でピクニックをしているカップルがいました。この穴も、そのうち、徐々に大きくなっていくのでしょうか。

駐車場をすり抜け、今度は、そのまま西に海岸沿いのチョークの崖道を登っていきます。高度が高くなるにつれ、背後を振り向くと、ラルワース・コーヴも、その形をはっきりと現して行き。出だしは、結構きつい坂で、時々、立ち止まり、振り返り、立ち止まり、あたりを眺め。

ぜーぜー坂道を登り切ったと思うと、今度は再び海岸線に向かい降りていきます。そして、目に入ってくるのが、

マン・オブ・ウォー・コーヴ(Man of War Cove)。

そして、このむこう、西側にあるのが、ダードル・ドア。

マン・オブ・ウォー・コーヴのとんがった崖の上には、人が何人か登っていたので、「ほな、私たちも!」と、石につかまりながら、よじ登りました。バランス崩すと落っこちそうな気がしたので、登った後は、無謀に立ち上がって歩き回らず、しばらく、じっと座ってましたが。

これは、岩の上からの写真。

ダードル・ドアの真向かいのビーチで人は憩い。雨が多かった8月の鬱憤を晴らすように、皆、太陽の光を吸収していました。私も、このホリデー中、かなり焼けた気がします。

駐車場への帰途は、来た崖の上の道をそのまま辿って戻るより、マン・オブ・ウォー・コーヴのビーチ沿いを歩いて戻ろうという事になりました。調度、引き潮でしたし、地図を見ると、海岸線をしばらく歩いたところに、内陸に入れるフットパスがあったので。

チョークの崖の下ぎりぎりを歩いている時、土砂崩れが起こりはしないかと、非常に歩きにくくはあったものの、足の速度は速まっていきます。だんなは、「がけ崩れってのは、こういう日にはほとんど起こらないもんだよ。何日も続いた雨の後とか、大嵐の後とかだよ。」なんて言ってましたが。ともあれ、頭上から落ちてきた白いチョークの塊の下敷きになる事も無く、無事、車へ戻りました。

さて、最後に、トーマス・ハーディーの小説「遥か群集を離れて」(Far from the Madding Crowd)に少々触れます。イギリスでは、今年の春、この小説が再映画化され、封切られました。主人公は、独立精神に満ちた美女、バスシェバ。彼女が、大失敗結婚をした相手、軽薄かつ刹那的なトロイ仕官は、ドーセットの海岸線にある小さな湾から、浜辺に衣服を残し、泳いで海へ出たはいいが、強い海流に流され、しばらく音沙汰がなくなり、溺死したものと思われてしまうのですが、映画内、トロイが泳ぎ始める場所のロケ先として、マン・オブ・ウォー・コーヴとダードル・ドアが使われていました。原作での場所は、もう少し、西へ行ったウェイマス近くの海岸線の感があるのですが、映画のドラマ的効果は、この風景を背景になかなかでした。1967年のジュリー・クリスティーがバスシェバを演じた「遥か群集を離れて」に比べても、勝るとも劣らない、なかなか良い出来の映画でしたので、日本でも見る機会があればお勧めです。

コメント

  1. この夏はトマス・ハーディをテーマにイギリス旅行を計画しています。Lulworth coveの素晴らしさがよくわかり楽しみにしています

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    1. ドーセットは素晴らしいです。ハーディーの生家はもちろん、近場のコーフ城もひと押しです。楽しんで来て下さい。

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