ポピー・ファシズム

本日、第一次世界大戦の終戦記念日、イギリス連邦の国々では、Armistice Day (Remembrance Day)と呼ばれています。アメリカでは、Veterans Day。終戦時刻の午前11時には、イギリスの各地で2分間の沈黙。ロンドン内一部の道路では、車なども2分間止まったりしていたようです。終戦記念日に一番近い日曜日は、追悼の日曜日(Remembrance Sunday)と呼ばれ、大々的なセレモニーが行われますが、こちらは今度の日曜日、11月14日に予定されています。

(Armistice DayとRemembrance Sundayについては、過去の記事「全ての戦争を終わらせるための戦争」をご参照下さい。)

アフガニスタンで、死亡、負傷する兵士の数が増えると共に、チャリティー団体、ザ・ロイヤル・ブリティッシュ・リージョン(The Royal British Legion)による、兵士及びその家族のための募金活動、ポピー・アピールが、今年も例年に増して盛んに行われています。募金をすると小さいポピー(ケシの花)の飾りをくれるので、それを胸に飾る人が、この時期巷に溢れます。決まった値段はないですが、大体の目安としてポピー1つに最低1ポンドくらい、でしょうか。もちろん、沢山あげるにこした事はないわけですが。ポピーがシンボルとして使われるのは、第一次大戦中に、多くの若者が命を落として散っていったヨーロッパの戦場跡で、無数の赤いポピーの花が風に揺られて咲いていたことに由来します。

一番最初に、ポピーを売ることで慈善のための募金を集めるというアイデアに行き当たったのは、フランス人女性だそうですが、このアイデアを、ザ・ロイヤル・ブリティッシュ・リージョンが取り上げ、1921年に、最初のポピー・アピールが実行に移されたという事。上の写真は、その最初のポピー・アピールの際のもので、現在のものより、もっと本物っぽい感じです。ポピーの作成は、現在にいたるまで、負傷した過去の兵士達によって行われているという事。それは、それで、意義のある募金活動ではあり、うちも、毎年、必ず買うようにはしているのですが・・・
 
ポピーを胸にするのは、普通に巷で募金をして買った一般人のみでなく、最近では、早々と10月中ごろから、テレビに出場する人間、政治家は全てポピーをつけるのが、暗黙の了解のような感じになってきています。

BBCなどは、全ての出演者、ニュースキャスターに、この期間ポピーをつける事を強いているという話も聞きます。BBCの人気ダンス番組などでも、ここのところ、ダンサーまでが胸にポピーをつけて踊っている・・・。(上写真、BBCサイトより。)ちょっと、やりすぎに見えるのですが。BBC側としてみれば、「あいつはポピーを胸につけていない、我々の兵士達を支援していない証拠だ、けしからん!」とつまらない事に怒って文句をつけてくる視聴者がいるため、それなら、手っ取り早く全員につけちゃえ、というスタンスかもしれません。政治家も、当然、同じような批判を受け、議論に巻き込まれたくないから、早い時期からつけるのでしょう。

昨日まで、中国へ「英国製品買って下さい」と物乞い外交に出かけていた、英首相デイヴィッド・キャメロンとその一行も、中国でも胸にポピーを着用していました。この際、中国側から、「アヘン戦争を思い出すから、ポピー着用はやめてくれないか」との要請も入っていたというのが、笑ってしまいます。にもかかわらず、ポピーをつけていたのは、やはり本国からのプレッシャーの方が強いからでしょうか。(余談になりますが、高品質の製品を製造する国としての立場を確立しているドイツは、イギリスの様に、大挙して物乞い旅行に押し寄せる必要も無く、中国内でのドイツ車及びドイツ製品の需要は、どんどん上がっているそうです。)

そんな中、毎晩7時から放送の、チャネル4ニュースのアンカーマン、ジョン・スノー(写真)が、ポピーはArmistice Dayにはつけるが、その前からつけてニュースには登場しない、という姿勢を見せて、一部の視聴者の反感を買っているというのが話題になっていました。「兵士に敬意を払ってない」とか何とか言われ。

ジョン・スノーの反論としては、第2次世界大戦で、この国は、ファシズムから、思想言論の自由を守るために戦ったわけだ。個々人が、何時、どこで、ポピーをつけるかつけないか決める事ができる権利もそういった自由な社会の反映で、それを強制的に、全人に強いるのは、ポピー・ファシズムである・・・。賛成です。「国旗を掲げていない、お前の家は非国民だ。」と村八分にするのと同様のメンタリティーに感じます。

ジョン・スノーあたりは、ポピー・アピールへの募金も、文句言う連中より多くしている可能性も高い気がします。また、当のブリティッシュ・リージョンも、「ポピーをつける、つけないは、個人の自由。」と言っているのに。ニュースマンの彼にしてみれば、世界中に、「何とかならないか、これは!」と思われることが沢山あるのに、他人がポピーを胸につける、つけないで、大騒ぎする偽善人間にうんざり、というところもあるかもしれません。本日のArmistice Dayは、彼も、前から言っていた通り、ポピーをつけてニュースに登場していました。G20の初日にあたった今日は、カナダ、オーストラリア陣営も胸にポピーをつけているのを目にしました。両国とも、第1次大戦にはかなりの死者を出していますので。

コメント

  1. みんな同じようにというのは気持ち悪く感じます。日本では今、赤い羽根共同募金の期間中。ときどきTVでつけている人を見かけ「ああ、そういう時期なんだ」と感じます。私が住む地域では赤い羽根が回覧板で回ってきていましたが、募金を要請されなかった気がします。町内会費から寄付されているのかもしれませんが、それもなんだか疑問です。

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  2. こんばんは
    今日は小春日和のよい天気でした。
    ポピーについては去年あたりから気になっていました。女王様から政治家、アナウンサーまでつけているので何かしら?と思っていました。そうですね。私もちょっと斜めから物事をみる質なので、なにもそこまでしなくてもと思います。何事も自主性にまかせるというのがいいですね。ところで、大学の授業料アップに対する学生デモのニュース、見ました。どこも大変なんですね。ポピーどころじゃない気がします。

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  3. アネモネさん
    赤い羽根共同募金、学校で確か10円くらいだして買っていた記憶があるのですが、何のためだったか覚えておらず、グーグルしてしました。地方に根付いた事業に使われる、特定の目的のための物ではなかったのですね。赤い色から、赤十字か、医療関係の募金と何となく思っていたのが、大間違いです。
    募金要求されず、羽だけくれる、確かに変な話です。

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  4. せつこさん
    要人が、Remembrance DayやRemembrance Sundayに付けるのはわかりますが、とにかくテレビに登場する人物が着用を精神的に強いられる期間が毎年長くなっていて、ポピー・ファシズムと言いたい気持ちに同情します。チャリティー側も、とにかく、ポピーをつけるつけないより、お金を沢山寄付してくれる人がありがたいわけだし。
    戦場から戻った後の、兵士と家族、ブリティッシュ・リージョンの助けが無ければ大変苦労する家庭もあるようで、募金活動自体は、大いに助けたいところではあります。
    学生デモ、ストライキ、段々、頻繁になるかもしれません。

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