ダンケルク
映画「Dunkirk」(邦題:ダンケルク、英語発音はダンカーク)を映画館へ見に行きました。
第二次世界大戦中の1940年5月26日から6月3日にかけて行われた、ダンケルク大撤退の様子を描いた映画です。オペレーション・ダイナモ(Operation Dynamo)とも呼ばれるダンケルク大撤退とは・・・ドイツ軍に押されて、フランス、イギリスの連合国軍は、フランス北部の海岸線ダンケルクに追いつめられる、前は海、後ろは敵、こうして挟み込まれた数多くの兵士たちを、何とか、海の向こうのイギリス本土へ移動させるため、当時、ドーバー城のトンネル内にあった海軍基地で計画された、一大救出作戦。ドーバー城を訪れると、オペレーション・ダイナモ・ツアーと称されたトンネル内のツアーに参加できます。
ダンケルクの砂浜で救出を待つ兵士たちを乗船させるには、大型戦艦などでは、砂浜に乗り上げることもできず、空からのドイツ空軍の攻撃をよける速さもない。そこで、考案されたのが、イギリス内つづうら浦にある、個人所有の小型船を、救出の任務に当たらせること。海軍のトレーニングなどを全く受けていない、観光船の船長や、漁夫、アマチュアのセイラーなどのボランティアにより、これらの小型船が大挙してイギリス海峡を渡り、ダンケルクへと向かう事となります。
映画は、陸、海、空の3つの視点から、このダンケルク大撤退を描いたもので、臨場感がすごいと話題だったので、後でお茶の間で見るより、映画館で見ようと足を運んだ次第。
陸では・・・・
何とか早く大型船に乗り込んでイギリスに帰ろうとする兵士トミーと、彼が海岸で知り合ったギブソンと称する別の兵士の、死に物狂いの脱出努力。後になってから、ギブソンは、実は、イギリス兵士を装って、イギリスへ逃げようとするフランスの兵士であったとわかるのですが。ダンケルク大撤退は、まず、イギリス兵を優先に船に乗せてから、後方をドイツ軍から守って戦うフランス兵を、後から救出したそうで、船に乗り込もうとするフランス兵が、イギリス兵だけだ、と押し戻されているシーンもあり、ちょっと気の毒でした。ともあれ、この二人は、途中、もう一人の兵士アレックスがおぼれかけるのを助けるのですが、このアレックス役を、ワン・ダイレクションのハリー・スタイルがやっていました。なんでも監督は、彼がオーディションを受けた時、ハリー・スタイルが人気歌手であることをしらなかった、客引きのためではない、などと言うのですが・・・ホントかな?まあ、上手でしたよ。もっとも、ダイアローグはとても少ない映画です。
トミーという名前は、一般の兵隊の代名詞のように使われるので、主人公をトミーとしたのは、浜辺で迎えを待つ、多くの兵隊たちの誰の体験にでもなりえる、という事を意図したのかもしれません。
海では・・・
小型船の所有者、マーク・ライランス扮するドーソン氏が、息子と地元の少年と共に、故郷の港を去り、ドイツ空軍の爆撃で煙が上がるダンケルクへと趣き、兵士たちの救出を行う様子。海峡を渡る多くの小型船の中には、かつて、地方からロンドンへ貨物を運ぶのに使用されていたテムズ・バージの姿も目に入りました。何とか、イギリスへ渡る船に乗り込もうとするものの、その度に、ドイツ軍の襲撃に会い、踏んだり蹴ったりの経験の後、トミーとアレックスは、最終的に、ドーソン氏の小型船に救い上げられることとなります。救出を終えたドーソン氏の船が、イギリスに近づきつつある時、船内で休んでいた兵士たちは、「ホワイト・クリフ(白い崖)を見たい。」と甲板に出てくる。戦場での悲惨な体験の後、故郷のシンボルの白い崖を見ると「着いたー!」という気持ちになったのでしょう。
空では・・・
イギリス空軍のパイロットたちが、ドイツ空軍によるダンケルクの爆撃を止めようとする様子。海へ墜落したパイロットの一人は、やはりドーソン氏により救われる。
最初に書いた通り、臨場感という点では、実際自分がダンケルクにいて、兵士と共に必死の脱出を経験するような映画です。が、途中まではよかったのに、最後が、少々、おセンチで、ドラマチックになりすぎ、私は、いまいちと思いましたが。ノルマンディー上陸作戦を描いた「プライベート・ライアン」も、最後のおセンチぶりで、映画全体がぐしゃんとなった気がしたのですが、同じ感じ。
無事イギリスに到着し、電車に乗りこんだハリーとアレックス。途中、列車内で新聞を入手し、ダンケルク大撤退の記事を読み、トミーが、記事内に書かれていた、チャーチルの有名な「We shall never surrender. 我々は決して降参しない」のスピーチを読みあげ、バックグラウンドに、そうそうたる音楽が流れる・・・というクリシェで終わるのです。壮絶な命がけの脱出を体験した後に、観客を少しいい気分にさせ、4年後の1944年6月に行われたノルマンディー上陸作戦を暗示させようという旨かもしれませんが、もっと、オリジナルで、安易なお定まりパターンにならないような、良いエンディングは考えられなかったのか・・・。「我々は決して降参しない」のスピーチは、ダンケルク直後の6月4日に、チャーチルが国会で行った演説の最終部分で、
We shall go on to the end, we shall fight in France, we shall fight on the seas and oceans, we shall fight with growing confidence and growing strength in the air, we shall defend our island, whatever the cost may be, we shall fight on the beaches, we shall fight on the landing grounds, we shall fight in the fields and in the streets, we shall fight in the hills; we shall never surrender...
となります。
この映画の監督クリストファー・ノーランの2014年のSF作品、「インターステラー」は、私、めずらしく、最後まで見るのをあきらめた映画のひとつです。筋が何がなんだかわからない上、意味もなく長い映画で、我慢大会さながら、退屈なのを、最後まで根性で見たところで、何も得ることも、感動もなさそうだ、時間の無駄、と半分くらいで見るのをやめたのです。ですから、そんな「インターステラー」に比べれば、「ダンケルク」は雲泥の差で良かったですが。
あとは、一切、ドイツ兵の姿が出てこないのが、映画に現実味を与えるのに役立っていた気がします。この手の戦争映画、往々にして、007の悪役のような、冷酷な顔をしたドイツ兵が時にクローズアップで出てきて、失笑したりすることもありますが、実際、戦っている側としては、人間としての敵の姿はほとんど目に見えず、ドイツ軍の存在を感ずるのは、飛行機からの爆撃、隠れて見えないところから自分にむかってくる弾丸からのみですので。
それにしても、これだけの犠牲を払って得たヨーロッパの平和。再び、ヨーロッパが戦地と化さないよう、かつての敵国ドイツとの協力などの考慮もあって、生まれた欧州連合、そして、EU。これを、簡単に捨てて、イギリスがブレグジットするというのが、映画を見た後、また、ひとしお、残念に感じました。
原題:Dunkirk
監督:Christopher Nolan
言語:英語
2017年
*ダンケルク大撤退、それにひき続く、イギリスの空を舞台とした空戦(バトル・オブ・ブリテン)、ドイツ空軍によるイギリス都市の爆撃(ブリッツ)については、以前の記事「Business as usual」にも書いてありますので、詳しくは、そちらを参照ください。
第二次世界大戦中の1940年5月26日から6月3日にかけて行われた、ダンケルク大撤退の様子を描いた映画です。オペレーション・ダイナモ(Operation Dynamo)とも呼ばれるダンケルク大撤退とは・・・ドイツ軍に押されて、フランス、イギリスの連合国軍は、フランス北部の海岸線ダンケルクに追いつめられる、前は海、後ろは敵、こうして挟み込まれた数多くの兵士たちを、何とか、海の向こうのイギリス本土へ移動させるため、当時、ドーバー城のトンネル内にあった海軍基地で計画された、一大救出作戦。ドーバー城を訪れると、オペレーション・ダイナモ・ツアーと称されたトンネル内のツアーに参加できます。
ダンケルクの砂浜で救出を待つ兵士たちを乗船させるには、大型戦艦などでは、砂浜に乗り上げることもできず、空からのドイツ空軍の攻撃をよける速さもない。そこで、考案されたのが、イギリス内つづうら浦にある、個人所有の小型船を、救出の任務に当たらせること。海軍のトレーニングなどを全く受けていない、観光船の船長や、漁夫、アマチュアのセイラーなどのボランティアにより、これらの小型船が大挙してイギリス海峡を渡り、ダンケルクへと向かう事となります。
映画は、陸、海、空の3つの視点から、このダンケルク大撤退を描いたもので、臨場感がすごいと話題だったので、後でお茶の間で見るより、映画館で見ようと足を運んだ次第。
陸では・・・・
何とか早く大型船に乗り込んでイギリスに帰ろうとする兵士トミーと、彼が海岸で知り合ったギブソンと称する別の兵士の、死に物狂いの脱出努力。後になってから、ギブソンは、実は、イギリス兵士を装って、イギリスへ逃げようとするフランスの兵士であったとわかるのですが。ダンケルク大撤退は、まず、イギリス兵を優先に船に乗せてから、後方をドイツ軍から守って戦うフランス兵を、後から救出したそうで、船に乗り込もうとするフランス兵が、イギリス兵だけだ、と押し戻されているシーンもあり、ちょっと気の毒でした。ともあれ、この二人は、途中、もう一人の兵士アレックスがおぼれかけるのを助けるのですが、このアレックス役を、ワン・ダイレクションのハリー・スタイルがやっていました。なんでも監督は、彼がオーディションを受けた時、ハリー・スタイルが人気歌手であることをしらなかった、客引きのためではない、などと言うのですが・・・ホントかな?まあ、上手でしたよ。もっとも、ダイアローグはとても少ない映画です。
トミーという名前は、一般の兵隊の代名詞のように使われるので、主人公をトミーとしたのは、浜辺で迎えを待つ、多くの兵隊たちの誰の体験にでもなりえる、という事を意図したのかもしれません。
海では・・・
小型船の所有者、マーク・ライランス扮するドーソン氏が、息子と地元の少年と共に、故郷の港を去り、ドイツ空軍の爆撃で煙が上がるダンケルクへと趣き、兵士たちの救出を行う様子。海峡を渡る多くの小型船の中には、かつて、地方からロンドンへ貨物を運ぶのに使用されていたテムズ・バージの姿も目に入りました。何とか、イギリスへ渡る船に乗り込もうとするものの、その度に、ドイツ軍の襲撃に会い、踏んだり蹴ったりの経験の後、トミーとアレックスは、最終的に、ドーソン氏の小型船に救い上げられることとなります。救出を終えたドーソン氏の船が、イギリスに近づきつつある時、船内で休んでいた兵士たちは、「ホワイト・クリフ(白い崖)を見たい。」と甲板に出てくる。戦場での悲惨な体験の後、故郷のシンボルの白い崖を見ると「着いたー!」という気持ちになったのでしょう。
空では・・・
イギリス空軍のパイロットたちが、ドイツ空軍によるダンケルクの爆撃を止めようとする様子。海へ墜落したパイロットの一人は、やはりドーソン氏により救われる。
最初に書いた通り、臨場感という点では、実際自分がダンケルクにいて、兵士と共に必死の脱出を経験するような映画です。が、途中まではよかったのに、最後が、少々、おセンチで、ドラマチックになりすぎ、私は、いまいちと思いましたが。ノルマンディー上陸作戦を描いた「プライベート・ライアン」も、最後のおセンチぶりで、映画全体がぐしゃんとなった気がしたのですが、同じ感じ。
無事イギリスに到着し、電車に乗りこんだハリーとアレックス。途中、列車内で新聞を入手し、ダンケルク大撤退の記事を読み、トミーが、記事内に書かれていた、チャーチルの有名な「We shall never surrender. 我々は決して降参しない」のスピーチを読みあげ、バックグラウンドに、そうそうたる音楽が流れる・・・というクリシェで終わるのです。壮絶な命がけの脱出を体験した後に、観客を少しいい気分にさせ、4年後の1944年6月に行われたノルマンディー上陸作戦を暗示させようという旨かもしれませんが、もっと、オリジナルで、安易なお定まりパターンにならないような、良いエンディングは考えられなかったのか・・・。「我々は決して降参しない」のスピーチは、ダンケルク直後の6月4日に、チャーチルが国会で行った演説の最終部分で、
We shall go on to the end, we shall fight in France, we shall fight on the seas and oceans, we shall fight with growing confidence and growing strength in the air, we shall defend our island, whatever the cost may be, we shall fight on the beaches, we shall fight on the landing grounds, we shall fight in the fields and in the streets, we shall fight in the hills; we shall never surrender...
となります。
この映画の監督クリストファー・ノーランの2014年のSF作品、「インターステラー」は、私、めずらしく、最後まで見るのをあきらめた映画のひとつです。筋が何がなんだかわからない上、意味もなく長い映画で、我慢大会さながら、退屈なのを、最後まで根性で見たところで、何も得ることも、感動もなさそうだ、時間の無駄、と半分くらいで見るのをやめたのです。ですから、そんな「インターステラー」に比べれば、「ダンケルク」は雲泥の差で良かったですが。
あとは、一切、ドイツ兵の姿が出てこないのが、映画に現実味を与えるのに役立っていた気がします。この手の戦争映画、往々にして、007の悪役のような、冷酷な顔をしたドイツ兵が時にクローズアップで出てきて、失笑したりすることもありますが、実際、戦っている側としては、人間としての敵の姿はほとんど目に見えず、ドイツ軍の存在を感ずるのは、飛行機からの爆撃、隠れて見えないところから自分にむかってくる弾丸からのみですので。
それにしても、これだけの犠牲を払って得たヨーロッパの平和。再び、ヨーロッパが戦地と化さないよう、かつての敵国ドイツとの協力などの考慮もあって、生まれた欧州連合、そして、EU。これを、簡単に捨てて、イギリスがブレグジットするというのが、映画を見た後、また、ひとしお、残念に感じました。
原題:Dunkirk
監督:Christopher Nolan
言語:英語
2017年
*ダンケルク大撤退、それにひき続く、イギリスの空を舞台とした空戦(バトル・オブ・ブリテン)、ドイツ空軍によるイギリス都市の爆撃(ブリッツ)については、以前の記事「Business as usual」にも書いてありますので、詳しくは、そちらを参照ください。
「刑事フォイル」が放送されてこの時代の庶民の日常に大変、興味を持ちました。とても面白い作品だと思います。このダンケルクを取り上げた話もありました。
返信削除Foyle's Warは、聞いたことはありますが、見た事はないので、ユーチューブで見てみます。フォイル役のマイケル・キッチンは、私が、1986年に、ロンドンで初めて見た芝居、シェイクスピアの「リチャード2世」にジェレミー・アイアンズのリチャード2世に対しボリングブルック(後のヘンリー4世)役で出演しており、思い出深い俳優です。
削除来週からロンドンなので、この映画見れるでしょうか? 欧州という大河の中から、ブレグジットで飛び出したイギリス。新たな支流が出来ることを祈ります。
返信削除来週、木曜日までは、確実にほとんどの映画館でかかっていますし、その後も、しばらく放映は続くと思います。ダンカークを見てから、白い崖の見える海沿いの観光地に行って気分を盛り上げるというのもありでしょうか。ドーバー城のトンネル内では、8月末まで、映画でトミーとアレックスが身に着けたコスチュームが展示されているようです。
削除まぁぁ!ありがとうございます。ならば頑張ってドーバー城も見ないとなりませんね。(笑)
削除コスチュームと言っても、兵隊のユニフォームなので、それ自体がメインアトラクションというより、グリコのおまけみたいな感じで。まあ、気がむいたら。
削除大変遅くなりました。ダンケルク楽しみました。英語未熟故セリフに不明な箇所があり、日本に帰ったら丁度封切りされたので、再度見るという事に。命の危険省みず、ダンケルクに勇んだイギリス一般人。ブリグジット共々、結果オーライの結末になる事を祈ります。
返信削除楽しめて、良かったです。イギリスと日本で2回見たとは。小舟でダンケルクへ赴いた一般庶民の勇気は計り知れないものがありますよね。ブレグジットのネゴは、保守党内の亀裂もあって、膠着状態、まるで冗談のようです。
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